「QLife」の「治療法・薬の科学的根拠を比べる」サイト https://www.qlife.jp/dictionary/cure/
最新調査で判明! 科学的根拠の“ない”薬は当たり前に存在した!〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161201-00000166-sasahi-hlth
週刊朝日 2016年12月9日号
あなたの飲んでいる薬は、科学的根拠がありますか?そう問われると、「医師に処方されたので、あるに違いない」とだれもが思うはず。でも、実は根拠が乏しい薬も結構存在します。効き目がない、というわけではありません。一体どういうことかと言うと……。
自分の飲んでいる薬の科学的な根拠(エビデンス)を知りたい。そんな疑問に答えてくれるコンテンツが今秋、月600万人が使う日本最大級の医療情報サイト「QLife(キューライフ)」内に登場した。
例えば、不整脈の治療に使われる「ジゴシン」。こんな解説が記されている。
〈心房細動が頻脈を生じた場合に症状を改善する目的で使用されますが、予後の改善効果は確認できていません〉
予後とは、治療効果など病気の見通し。つまり、治療の効果に関する科学的根拠は乏しいというわけだ。
解説を担当した一人で、聖路加国際病院(東京都)の一般内科の有岡宏子医師(部長)はこう説明する。
「ジゴシンは昔から経験的に使われてきましたが、エビデンスは乏しく、使う機会が減っています」
有岡医師ら同病院の内科・予防医療チームは、様々な臨床研究の論文から薬のエビデンスを検証した。
非常に信頼性の高い臨床研究で効果が確認された薬は「☆☆☆☆☆」、副作用が有効性を上回る薬は「☆」など、5段階で評価。解説もつけている。
これらが載っているのは同社の「治療法・薬の科学的根拠を比べる」のコーナー。高血圧、アトピー性皮膚炎、胃がんなど、約180の病気ごとに治療法や薬が評価されている(欄外にアドレス)。
なぜ☆の数が違うのか。
例えば、臨床研究と一口に言っても信頼度はまちまち。最も高いのは「ランダム化比較試験」だ。医師も被験者も、本当の薬を使う群か偽薬(プラセボ)群かを知らずに試験が進む。公平で適正な方法として、最近の新薬開発でも使われる。
一方で、ランダム化ではない試験や、特定患者の症例報告だけだと弱い。こうした差が☆の数に表れる。
今回の評価は2016年改訂版で、前回は03年に実施した。ともにかかわったのは、同病院の福井次矢院長。科学的根拠に基づく医療「EBM(Evidence-Based Medicine)」を、日本で普及させた第一人者だ。
「例えば薬。“誰にでも100%効く”ものは、この世の中に存在しません。だからこそ、効く確率が高いものは何かを臨床研究で調べ、効果の高いものを使うEBMの考え方が大事なんです」(福井院長)
改訂版では03年版より疾患を増やし、新たな薬を調べた。03年版の薬も再検証し、「治療のエビデンスが大きく変わった疾患が、思った以上に多かった印象です」(有岡医師)。
ジゴシンの場合、03年版で「☆☆☆☆☆」だったが、16年版で「☆☆」に“格下げ”された。
「新薬が開発されると、従来品と新しいものとを比較する臨床試験が行われる。その結果、医学的にもっとよい効果をもたらす薬が出てきたら、従来品を用いる優先度が下がることは考えられます」(福井院長)
使うべきでないとの結果が臨床研究で示された「☆」はごくわずか。一方で、意外に多いのはエビデンスへの意見が医師の間で分かれる「☆☆」。必ずしも効果がないわけではないが、科学的な根拠の乏しい薬で、200ほどある。
具体的には、
「臨床研究が何らかの理由で行われずに効果が確認されていないが、専門家の意見や経験で支持される薬」
「妊婦や胎児への影響が大きい、救急時対応で必要となるなどの理由で倫理的に臨床研究できない薬」
「効果あり・なしの両方の結果が報告され、評価が定まらない薬」
などがあてはまる。
そもそも、効果が確認された薬だからこそ製造されているのでは? 「☆☆」の薬にはこんな疑問も浮かぶ。福井院長はこう話す。
「健康保険が適応になっている薬は、基本的には治験(臨床試験)を経て承認されています。ただ、承認審査で用いられたときの研究データや論文がないものは『☆☆』にしています」
ジゴシンのメーカー、中外製薬広報はこう回答する。
「ジゴシンの有効成分であるジゴキシンは以前から有効性が認められてきた薬です。1957年に最初に承認された当時も臨床試験が行われたでしょうが、今のような方法ではなかったかもしれません。服用に不安のある患者さんは、主治医に相談してください」
薬の有効性は、厚生労働大臣の指定により独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」が再評価している。3月には、慢性副鼻腔炎などで適応があった薬「ノイチーム」が、厚労省の審議会で有効性が低下したと判断された。製造しているエーザイは「見解を受け、自主回収を行いました」(PR部)と説明する。
11年には同様の理由で、武田薬品工業も「ダーゼン」の販売を中止した。新薬登場などで適応から外れ、淘汰される薬はある。
福井院長らの取り組みは、公的制度とは別の民間研究者による独自評価といえる。こうした取り組みを製薬業界はどうみているか。日本製薬工業協会は「コメントする立場にない」という。