テスラに対抗する乗るのが少し怖いEV
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2016年11月20日 土方細秩子 (ジャーナリスト) WEDGE Infinity
今年のロサンゼルス・オートショーでは、これまでEVを持たなかったメーカーが新たなEVを発表したことが非常に印象的だった。キャデラック、ポルシェ、ジャガー、ミニ、ボルボ、フォルクスワーゲンなどが新たにこの市場に参戦、GMボルト、テスラ、フォード、トヨタ、ホンダ、日産も今後の競争激化に備える必要が出てきた。
その一方で、EVの時代を見据えたユニークな「発明品」も登場。その代表と言えるのが、「新たな自動車業界の新規企業トップ10」という様々なアイデアを集めたブースで展示されていた「スピラ」だ。
スピラはサンディエゴの実業家、ロン・バラード氏が自分で考案し、中国で生産している小型の三輪EV。非常に狭いが一応2人乗りだ。カリフォルニア州ではバイクまたは自動車普通免許で公道も高速道路も走行可能だという。
しかもこの車、前面と側面がウレタンフォームで覆われている。これは衝突した際に歩行者も車内の人間も衝撃が最小限になるようにと考案されたもの。バラード氏は「自動車は世界一の『テロリスト』だ。世界で1年間に交通事故で死亡する人は120万人、負傷者は5000万人にも上る。スピラは人に優しく、排気ガスを出さない環境にも優しい車だ」と説明する。
ただし、重量わずか200キロと少しの車ながら、トップスピードは120キロ、停車時から時速100キロ到達6秒、というなかなかにすごいスペックを持っている。テスラなどの一般的なEVとの違いは家庭用の120Vの電源で充電でき、充電時間はわずか4時間。またバッテリーパックの数を2つから6つまで自由に変えられるため、長時間走行したい時はバッテリーパックの数を増やす、という裏技まで備えている。
この車に試乗させてもらった。見た目は可愛いが、作りははっきり言って荒い。手作り感溢れるというか、所々アラが目立つしダッシュボードも中国製の安いラジオなどが備えてあるだけ、エアコンはない。こう言っては申し訳ないが印象としてはかなりチープだ。
しかし、フレームはABS、内部のプラスチックはバイオディスグレーダブル(自然に還る素材)、フロントガラスなどは強化ガラスが使用されている。環境と安全には徹底的にこだわっているのである。
またバッテリーはリチウム・アイロン・フォスペート(LiFePha)で、出火しない、という特徴があるという。バラード氏は「テスラが使っているのはリチウムイオンマグネシウムで、事故などの際に出火の危険性がある。我々のバッテリーの方がはるかに安全だ」と語る。
このスピラ、地元サンディエゴではピザの宅配用に導入している店があるなど、なかなかの人気。価格も1万ドル、とEVとしては非常に手頃だ。
■軽量なのにパワーがありすぎ
ただし、試乗してみた感想は「怖かった」。モーターを使うEVはガソリン車と比べてただでさえトルクがある。軽量なのにパワーがありすぎてタイヤは簡単にスキッドするし、これで時速120キロを出すのはなかなか勇気のいることだと思えた。しかしバラード氏は「この車でサンディエゴからロサンゼルスまで自分で運転して来たんだよ」と言う。むむ、感嘆。
しかしこの車、スピードを出さずにネイバーフッド・カーとして利用するなら十分に値打ちがある。それこそピザの宅配などには人目も引くし今後需要が増えるのではないだろうか。
「こんな車を作っているメーカーは他にないし、ライバルはいない。テスラにだって負けていない」とバラード氏は胸を張る。ただし現在の悩みは「政府からのグリーンカー助成金の対象外」という点なのだという。連邦政府、カリフォルニア州はそれぞれ無公害車に対してインセンティブを付与しているが、対象が二輪もしくは四輪で、三輪であるスピラは枠外なのだそうだ。それでも元々の価格が安いから、インセンティブの有無はそれほど販売には影響しないかもしれない。
スピラは現在「ディーラー募集中」だそうで、「乗って宣伝してくれるなら15%オフで売ってあげる」と言われ、少しだけ心が動いた記者なのだった。