日銀による指値オペ
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/52885450.html
2016年11月17日 在野のアナリスト
日銀が初の指値オペを行いました。残存期間が1〜3年物を0.090%、3〜5年物を0.040%に固定する形で、国債を無制限に買い入れる仕組みです。しかし午前は利回りが大きく上回っており、応札なし。後場も応札無く終わりましたが、短期的にこの金利が、日銀が描いているイールドカーブのターゲットとして、市場に意識されるようになりました。しかし指値オペとは無関係の長期金利が急低下し、トランプ相場で急騰していた長期金利を落ち着かせる効果はあったようです。
ただ問題は、実際にこの金利水準に近づいたとき、でしょう。さらに利回りが上昇し、日銀のターゲットに近づくと、日銀トレードも出てくるでしょう。また短期金利を固定してしまうことで、長期金利が上昇をつづけるなら、結果的にイールドカーブが崩れてくる。そうなると長期まで指値オペで対応するのか? 日銀の資産買取枠は一気に埋まり、発行されている国債の大半を買い占めてしまうことになりかねない。無制限の買い、これを一部では黒田バズーカならぬ、黒田バキュームと呼びます。つまり市場から国債を吸い尽くしてしまう、という意味ですが、黒田バキュームが度々発動されるようになると、日本にも黄色信号が灯ることになりますし、この日銀の対策は、世界から非難されるかもしれません。バキュームカー、というと日本では汲みとり式のトイレなどの汚物を回収する車をさしますが、かつては悪臭を撒き散らしながら走るため、すぐに気づきました。ニュースではほとんど扱われませんが、その悪臭に気づいたときは手遅れなのかもしれません。
しかし疑問は、安倍首相の訪米と同時にこの対策が打たれた点です。トランプ氏は「日本が不当に円を安くしている」と主張しており、日銀が国債市場に介入することを快くは思わないでしょう。まさに今日、108円前半に突入するか、とみられる直前の指値オペの通告により、ふたたび109円台にもどりました。「不当に円を安くしている」まさにその言葉通りのことを、日銀がしてしまったわけです。
最近のメディアでは、実は安倍氏はトランプ氏と馬が合う、などとやたら語られる機会が多い。言葉は悪いですが、どうも「会っても怖くありませんよ」と、怖気づく安倍氏を慰めているようにしか聞こえない。実際、クリントン氏に肩入れしたり、麻生財務相がトランプ氏に対して悪態をついたり、日本政府はトランプ氏に対して好かれるような行動を、一切してこなかった。人見知り気味の安倍氏が、二の足を踏むのも当然でしょう。恐らく今晩の会談でも、円満だったとの話が喧伝されるのでしょうが、よほどのことがない限りいきなり敵対することもないので、当然といえば当然です。
しかし問題は、株や国債に介入する日銀、ひいては為替にも影響することを平気でする日本が、保護貿易の危険性を訴えたところで、笑い者にしかならない、ということです。関税をなくしても、中央銀行に市場介入させて為替を安くし、競争力をたもつ。まさに日本が保護主義をとっているではないか、と。そして、こうした行為は経済規模の大きさによって影響力も変わりますから、米国が同じ手を打ったら、一気にドル安がすすみかねない、ということにもなります。「安倍、いいことをやっているな」などとトランプ氏が言いだしたなら、為替の急変動すら起こりかねなくなる。禁断の手は、一国だけが打っていたら効果もありますが、複数の国が同時に行ったら、効果はなくなってしまうものです。
むしろこんな手法もあります…と、米国に手土産としたのなら、TPPを発行しても米国はこうやって儲けられます、ということを示したかったのかもしれません。黒田バキュームの悪臭、世界にそれが蔓延し、その悪臭に慣れてしまって気づきもしなくなったとき、世界の危機は深刻化することにもなるのでしょう。もう『水に流せない』レベルにまで、中央銀行の暴走は近づきつつあるのでしょうね。