役所は教えてくれない、60代から「減らせる税金」「増やせる年金」 老後を乗り切るお金の「裏ワザ」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49871
2016.10.07 週刊現代 :現代ビジネス
長生きすることが幸せと同時に「リスク」にもなってきた今の時代。せっかくの長寿を、おカネに苦労せず乗り切るための裏ワザを紹介。
■年金が月額4割増える
いまや人生100年の時代。60代でリタイアしたら、あとは悠々自適の余生を送れると思っていたものが、その余生が20年、30年と続いていくとなれば話は別だ。
年金もいざ金額を見れば、期待していたほどの額ではない。夢のマイホームも古びて修繕が必要になり、毎年バカにならない固定資産税を払わなければならない。2年に1回の10万円近い車検費用にも気が重い。よくよく計算してみれば、家計の収支は赤字。このままでは90歳になる前に、貯蓄も底をつく。何と我が家も老後破産か――。
そんな溜め息をついている人は多いだろう。実際、現在、生活保護を受給している約163万5000世帯の約50%は65歳以上の高齢世帯だ。
そうした事態を避けるために、できることは何か。税金を減らしたり、年金の受取額を増やしたりできる「裏ワザ」を紹介する。
ファイナンシャルプランナー(FP)の横川由理氏は、こう提案する。
「60代で、いわゆるリタイア世代になっても、心身ともに健康で、まだ働けるという方にお勧めしたいのが、年金の繰り下げ受給です」
「繰り下げ受給」は、国民年金(老齢基礎年金)、厚生年金(老齢厚生年金)のいずれにもある制度。年金の支給開始年齢である65歳以降70歳までの5年間は、受け取り開始を1ヵ月遅らせるごとに、年金額が0.7%増える。横川氏が続ける。
「70歳まで年金を受け取らず、働いて生活することができれば、支払日ごとに受け取る年金額は最大約42%増となります。途中で『体力的にもう働くのは難しい』となれば、申請して年金を受け取り始めることもできますから、無理せず誰でも取り組める方法です」
さらに、繰り下げ受給は国民年金だけ、厚生年金だけと、それぞれ別々に利用することもできるので、70歳までは国民年金+給与、70歳からはさらに厚生年金を約4割増しにして楽に生活する、といった選択も可能だ。
「累計の金額で見るなら、受け取り開始を遅くした分、65歳からもらった人より損をしてしまうように思えるかもしれません。けれども、支給日ごとに受け取る金額が4割増しになれば、たとえば介護施設などに入居することになっても利用料の支払いなど安心な面が多いと思います」(横川氏)
夫が20年以上厚生年金を掛けていて、かつ共働き期間が長い夫婦の場合は、年金で「損をしない」ためのポイントがある。社会保険労務士(社労士)でFPの岩田健一氏は、こう話す。
「妻が65歳になるまでは、『加給年金』といって、年39万100円が夫の厚生年金に加算されます。ところが、妻が厚生年金の掛け金を20年以上支払ってしまうと加給年金は支給されません。
主に、夫が年上で、妻が65歳になる前に夫が厚生年金の受給を始める場合、注意が必要です」
たとえば、夫が64歳で妻が62歳になったばかりの夫婦を考えてみよう。妻がこれまで厚生年金を掛けながら19年11ヵ月働いてきたとする。
「その状況で、あと1ヵ月分の掛け金を払ってしまうと、夫が65歳になって以降、2年間、受け取れたはずの加算分が手に入らなくなってしまうのです」(岩田氏)
一方、こんな場合は、妻が20年以上厚生年金を掛けても加給年金が受け取れるという。
「それは、夫が年金の受給を初めたあとに妻が20年目の掛け金を払った場合です。加給年金がもらえるかの判定は、夫が年金の受給を始めた時点で行われ、一度支給が開始されると、今度は妻が65歳になるか、自分の厚生年金の受給を始めるまで続くのです」(岩田氏)
ちなみに、たとえば加給年金がもらえる夫婦で、夫が年金受給開始を繰り下げると、受給開始後にその分の加給年金が受け取れる。ただし加給年金部分は、繰り下げても金額が増えることはない。
ところで、年金には思いがけない変わり種の裏ワザもある。社労士の佐藤敦規氏はこう話す。
「使える人はごく少数ですが、日本企業でもフランスやベルギーなど海外の支店で働いた経験のある人は、その国の年金ももらえることがあるんです。フランスなどは滞在期間が最短3ヵ月からOK。5~6年の滞在だと年100万円程度を一生もらえることもあります」
■水道料金を半額に
今後、定年退職する人や、再雇用された会社から第二の退職をする人が気をつけたいのが、社会保険料だ。FPの長尾義弘氏はこう話す。
「退職した際、すぐに国民健康保険に切り替えると、保険料が思わぬ負担になることがあります。国民健康保険の保険料は、前年の収入をもとに計算されるので、すでに退職して収入が減っているのに、翌年の保険料が高くなってしまうのです。
お勧めなのは、企業の健康保険を任意継続すること。保険料は全額自腹になりますが、標準報酬月額28万円という上限が定められているので、月々の保険料はその約10%で3万円弱となり、国保の保険料より安くなることがあるのです」
税金にも見直せるものは多い。たとえば固定資産税だ。職場までの通勤時間を考える必要もなくなり、子供も独立したとなれば、郊外への住み替えを考えてもよいだろう。社労士でFPの井戸美枝氏はこう指摘する。
「郊外に住み替えをして、ほんの少し我が家のサイズを小さくするだけでも、固定資産税が下がって毎年の負担が軽くなります。10年以上住んだ自宅を住み替える場合は、買い替えの特例があって、譲渡益に対する所得税もほとんどかかりません。
また、意外と見落とされるのが、社会保険料(国民健康保険料や介護保険料)や水道料金も、市区町村によってかなり違うということ。たとえば東京23区から江戸川を渡って千葉県船橋市に移住すれば、水道の基本料金は約半額になります」
さらに、風邪をひきやすくなったり、痛み止めの湿布などを使う機会も多くなるリタイア後世代になればこそ、所得税の医療費控除を利用するとよいと井戸氏は話す。
「従来の医療費控除では家族が払った病院での窓口負担額などを合算して年間10万円を超えた分は、確定申告でおカネを取り返すことができました。来年1月からそれとは別枠で『スイッチOTC薬控除』が新設されます。
これは、医療用から市販用に転用された一部の認定市販薬を年間1万2000円以上買った場合に、1万2000円を超えた分を控除するというもの。10万円よりハードルが下がるので、得できる人は多いはずです」
対象となる薬は、痛み止めのロキソニンSや胃薬のガスター10などだ。
会社を離れたからこそできる所得税の節税法として起業する手もある。登記費用はかかるが、いまや誰でも原資1円で株式会社を起こせる時代だ。
「リタイア後に起業をすれば、スーツ代や文房具代、書籍代、パソコン代などの費用を必要経費として処理できます。打ち合わせで飲食したなら接待交際費に当たりますし、交通費も必要経費です。自分で納税する手間はありますが、青色申告をすれば必要経費以外に65万円の所得控除も受けられるなどメリットは大きいですよ」(前出・横川氏)
めでたいはずの長寿とはうらはらに、家計の不安が募る60からの生活。まず工夫のしどころを知るところから始めよう。
「週刊現代」2016年10月8日号より