フランクフルトにあるドイツ銀行本社ビル(ロイター)
【経済快説】ドイツ銀を蝕んだ投資銀行ビジネス ユーロの存在も裏目に
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20161006/ecn1610061140003-n1.htm
2016.10.06 夕刊フジ
ドイツ銀行が信用不安に揺れている。9月30日には、同行の株価が急落し、一時10ユーロを割り込んだ。一部ヘッジファンドが資産を預けていた同行から資産を引き揚げたとの報道が影響した。
「株価の下落」「顧客の資産引き揚げ」などと聞くと、筆者はかつて勤めた山一証券の自主廃業数カ月前の状況を思い出す。ドイツ政府が救済するとか、しないとかという思惑が交錯している点でも、当時の山一に似ている。
ドイツ銀行の不安は今年の春に社債のデフォルト(債務不履行)の可能性が取り沙汰された辺りから聞こえてきたが、今回は、米司法省が過去に住宅ローン担保証券の不正販売に関わったとして140億ドル(約1兆4300億円)の和解金を要求したことも影響している。
かつて山一証券や日本長期信用銀行が破綻する前に、「外から」は保つのか、保たないのかが判断できなかったが、金融界で国による救済の可否が大っぴらに論じられていることから推測すると、「自力では保たない」可能性に相応のリアリティーがあるということだろう。
それにしても、かつて堅実で強大なイメージを誇り、目下好調なドイツ経済のメーンバンクであるドイツ銀行が、なぜここまで弱体化したのか、不思議に思われる読者が多いのではないか。
筆者は、ドイツ銀行弱体化の原因として、同行が1990年代から投資銀行ビジネスに力を入れたことと、欧州の共通通貨ユーロに原因があったのではないかと推測する。
ドイツ銀行は、米国のゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような投資銀行ビジネスに憧れ、これを外から人を採りつつ自前で構築する戦略を採った。この戦略は世界的に投資銀行業界の給与水準を上げるような副次効果を持ったが、ドイツ銀行の行内に投資銀行流の成功報酬の仕組みが組み込まれたはずだ。この仕組みの下で、行内の「プレーヤー」はドイツ銀行のバランスシートを目いっぱい使ってリスクを取り、大きな報酬を狙うことが合理的だ(失敗しても命まで取られるわけではない)。
米国における金融商品の不正販売問題は、同行が慣れない投資銀行ビジネスをうまく制御できなかったことに原因がある。
加えて、通貨ユーロが裏目に出たのではないか。為替リスクがないので、例えばイタリアやスペインの不動産融資のような、利回りは高いがリスクが高い与信がやりやすかったはずだ。「当面のボーナス」を稼ごうとする行内のプレーヤーたちはせっせと将来の不良債権の種を積み上げたに違いない。
投資銀行は株主にではなくプレーヤーに好都合なビジネスだ。わが国にもこのビジネスに憧れる金融機関が少なくないが、田舎者には不向きな商売だと申し上げておく。 (経済評論家・山崎元)