2016 年 9 月 2 6 日
日 本 銀 行
日本銀行総裁 黒田 東彦
金融緩和の「総括的な検証」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」
大阪経済4団体共催懇談会における挨拶
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1.はじめに
日本銀行の黒田でございます。本日は、関西経済界を代表する皆様とお話
しする機会を頂き、誠にありがとうございます。また、皆様には、平素より、
私どもの大阪、神戸、京都の各支店が大変お世話になっており、厚くお礼申
し上げます。
日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導
入以降の経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を実施しまし
た。また、検証の結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早
期に実現するため、これまでの金融緩和の枠組みを強化する形で、「長短金利
操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。本日は、これらのポ
イントと考え方についてご説明し、日本銀行が、この新しい枠組みのもとで、
どのように「物価安定の目標」を実現しようとしているのか、お話ししたい
と思います。
2.「総括的な検証」と新たな政策枠組みの方向性
「総括的な検証」では、「量的・質的金融緩和」導入以降の3年間の経済・
物価動向と政策効果について、事実と理論に基づいて客観的な分析を行いま
した。その内容は、本文、補論、図表あわせて60ページに及ぶ詳細なもので
すが、そのエッセンスは、概ね以下の4つのポイントにまとめられると思い
ます。
第一のポイントは、「量的・質的金融緩和」導入以降の3年間で、わが国
の経済・物価、金融情勢は大きく改善し、デフレではなくなったということ
です。図表1をご覧ください。企業収益は、売上高経常利益率でみて過去最
高水準で推移しています。過度な円高は是正され、株価も大きく上昇しまし
た。雇用情勢も大きく改善し、失業率は3%まで低下しました。20年近く途
絶えていたベースアップも復活し、3年連続で実施されました。図表2をご
覧ください。物価面をみると、生鮮食品とエネルギー価格を除いた消費者物
価指数の前年比は、「量的・質的金融緩和」導入以前は、マイナスで推移し
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ていましたが、2013年の秋にはプラスに転じ、現在まで2年10か月にわたっ
てプラスで推移しています。このように長期間にわたって物価の上昇が続く
のは、1990年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めてのことです。
日本経済は、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくな
りました。
このように「量的・質的金融緩和」は、経済・物価の好転をもたらしまし
たが、メカニズムとしては、主として実質金利の低下を通じて効果を発揮し
たと考えられます。すなわち、第1に、2%の「物価安定の目標」の実現に
強くコミットし大規模な緩和を行うことで、物価の先行きに対する人々の見
方、すなわち「予想物価上昇率」を引き上げる、第2に、大規模な国債買入
れによってイールドカーブ全体にわたって名目金利を引き下げる、第3に、
これらによって実質金利を低下させ、経済を刺激し、物価を押し上げるとい
うものです。「総括的な検証」では、「量的・質的金融緩和」が導入されて
いなければ日本経済はどのような状況になっていたのかについて、検証しま
した。図表3をご覧ください。効果の起点となる時期や株価・為替相場の変
化をどの程度政策効果と考えるかなど、異なる前提に基づいて複数のケース
を想定し、マクロ経済モデルを用いた仮想的なシミュレーションを行いまし
たが、多くのケースでは、現在までデフレが続いていたとの結果となりまし
た。「量的・質的金融緩和」が、実質金利低下のメカニズムを通じて効果を
発揮したことは、こうしたシミュレーションを含め、様々な分析結果から明
らかだと思います。
第二のポイントは、こうした好転にもかかわらず、2%の「物価安定の目
標」は実現できていないということです。その理由の鍵となるのが「予想物
価上昇率」の動向です。わが国では、長年にわたるデフレのもとで、人々の
間に「物価は上がらないものだ」という見方、いわゆるデフレマインドが定
着してしまいました。そうしたもとでは、個々の経済主体にとっては、リス
クテイクを行うより、現預金を抱えて現状維持とする方が合理的でした。そ
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の結果、日本経済は活力を失いました。この状況を打破するためには、人々
の物価の見方を抜本的に転換する必要があります。すなわち、「物価は毎年
2%くらい上がっていくものだ」という見方が人々の間で共有され、こうし
た物価観に基づいて、様々な商品やサービスの価格設定や、労使間の賃金交
渉が行われるようになることが不可欠です。そのために、日本銀行は「物価
安定の目標」を消費者物価上昇率で2%と定め、これをできるだけ早期に実
現するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました。
図表4をご覧ください。当初「量的・質的金融緩和」は想定通りあるいは
想定以上に大きな効果を発揮しました。消費者物価は2014年4月には1.5%ま
で上昇し、予想物価上昇率も明確に改善しました。しかしながら、その後、
2014年夏からの原油価格の大幅な下落や、消費税率の引き上げ後の需要の弱
さなどを背景に、実際の物価上昇率が低下しました。予想物価上昇率も、こ
れに引きずられる形で伸び悩みはじめました。日本銀行は、デフレマインド
転換のモメンタム(勢い)を維持するため、2014年10月に「量的・質的金融
緩和」の拡大を行いました。それもあって、予想物価上昇率は逆風の中でも
何とか横ばい圏内の動きを保ちました。ところが、2015年夏には、中国をは
じめ新興国経済の減速から金融市場が世界的に不安定化し、今年の年初から
は各国株価の下落や円高が進みました。そのもとで、予想物価上昇率は弱含
みに転じ、現在に至っています。
この間の経験で分かったことは、わが国における予想物価上昇率の形成は、
過去の実績に引きずられる傾向が強いということです。こうした状況を、予
想形成において「適合的(adaptive)」な要素が強いと表現します。図表5
でご覧いただけるとおり、この傾向は諸外国と比べて際立っています。その
背景には、長年のデフレのもとで目標となる物価上昇率が実現できてこなか
ったことや、春闘などの賃金交渉において「前年度の物価上昇率」が勘案さ
れるプラクティスがあることが考えられます。わが国の予想物価上昇率は、
もともとこういう性質があったため、現実に物価上昇率が低下すると、弱含
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みに転じてしまったということです。これが、2%を実現できていない主因
です。
「物価安定の目標」を実現するためには、「実際の物価上昇率は様々な要
因で変化するが、やがては中央銀行が目標とする上昇率(2%)に収束する」
という見方が人々の間にしっかりと根付いていく必要があります。先ほど述
べた「適合的な予想形成」に対して 、 「フォワード ・ ル ッ キ ン グ
(forward-looking)な予想形成」と呼ばれるものです。「適合的な予想形成」
を通じた予想物価上昇率の押し上げの力が弱まっていることを考えると、こ
の「フォワード・ルッキングな予想形成」を一段と強化し、予想物価上昇率
の引き上げを図っていくことが必要です。これが新たな枠組みを考えるうえ
でのポイントのひとつになりました。
第三のポイントは、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」のもとでの大規
模な国債買入れと、本年1月に導入したマイナス金利政策の組み合わせによ
って、イールドカーブ全体にわたって金利水準を引き下げることができたと
いうことです。図表6をご覧ください。金利は「量的・質的金融緩和」導入
以降低下してきましたが、マイナス金利導入後はさらに低下し、特に長めの
年限の金利低下が顕著です。このマイナス金利と国債買入れを適切に組み合
わせれば、2%の「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられる
イールドカーブの形成を促していくことができると判断しました。このため、
後で述べる「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を導入し、
枠組みの中心に位置づけることにしました。
第四のポイントは、金融緩和の金融仲介機能への影響です。今回の検証で
は、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」による貸出金利等への波及や
金融機関収益への影響なども点検しました。マイナス金利導入時、金利が極
めて低い状況にあっては、国債金利を引き下げても貸出や社債・CPの金利
の低下につながらないのではないか、という懸念もありましたが、これまで
のところ、過去の金利引き下げ局面と遜色ない波及の度合いになっています。
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一方で、預金金利も低下しましたが、その低下幅は貸出金利に比べて小さい
ものでした。このことは、貸出金利の低下が金融機関収益を圧縮する形で生
じていることを示しています。したがって、今後どのように金利低下が波及
していくかについては、金融機関収益への影響やそれを踏まえた金融機関の
貸出スタンスに依拠する部分があります。図表7をご覧ください。貸出金利
は、厳しい競争環境の中でトレンドとして低下してきましたが、マイナス金
利の導入によって低下幅が大きくなっています。また、長期金利や超長期金
利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りを低下させるほか、企業に
おける退職給付債務の増加などにもつながっています。こうした現象が、直
接的にマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きくないと考えられますが、将
来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マイ
ンド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性もあります。こうした
諸点も、適切なイールドカーブの形成を促していく際には、勘案する必要が
あります。
3.「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のポイント
以上のような検討を踏まえ、日本銀行は、従来の「量的・質的金融緩和」、
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を強化する形で、新たな金融緩和
の枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。
新たな枠組みは、第一に、日本銀行が長短金利の操作を行う「イールドカー
ブ・コントロール」、第二に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超
えるまでマネタリーベースの拡大方針を維持する「オーバーシュート型コミ
ットメント」の2つの要素から成り立っています。以下、順にご説明します。
(イールドカーブ・コントロール)
マイナス金利導入後の経験で、マイナス金利と国債買入れの組み合わせが
イールドカーブ全体に影響を与えるうえで、有効であることがわかりました。
これに新しいオペレーション手段を加えることで、「長短金利操作(イールド
カーブ・コントロール)」を導入することとしました。
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図表8をご覧ください。具体的には、日本銀行当座預金の「政策金利残高」
に適用する金利を短期の政策金利とします。今回は、これまでと同じ−0.1%
です。長期金利は、10 年金利の操作目標を示して、これを実現するように国
債の買入れを行います。今回は、「概ね現状程度」すなわち「ゼロ%程度」と
しました。それ以外の年限については、こうした金利操作方針と整合的な形
で、マーケットにおいて形成されていくものと考えていますが、概ね現状程
度のイールドカーブをイメージしています。そのうえで、長短金利操作を円
滑に行うために、日本銀行が指定する利回りによる国債買入れ、いわゆる指
値オペなどの新たなオペレーション手段を導入しました。この指値オペは、
いざという場合に長期金利のキャップとして機能することを想定しています。
これまでの政策枠組みとの違いについて説明します。従来は、長期国債の
買入れ方針は、日本銀行の国債保有残高の増加額で示してきました。この方
法は、実務的な運営方法が明確なこともあって、日本銀行だけでなく、米国
のFRBや欧州中央銀行、イングランド銀行などでも、広く採用されてきま
した。ただ、この方法の場合、同じ金額の国債買入れであっても、それがど
の程度の長期金利の引き下げにつながるかは、経済・物価情勢や金融市場の
動向によっても異なります。このため、望ましいイールドカーブとの対比で
みて、金利の引き下げが不十分なものに止まったり、逆に過度な引き下げを
もたらす可能性があります。
「イールドカーブ・コントロール」においては、国債買入れは、その時々
における金利操作方針を実現するために実施します。今回は、概ね現状程度
の金利水準を操作目標とすることから、買入れ額も現状程度(年間約 80 兆円
のペース)をめどとしますが、金利操作方針を実現するためにある程度上下
に変動することは想定されています。仮に買入れ額が増減しても、政策的な
意味合いを有するものではありません。
このように、イールドカーブ・コントロールのもとでは、日本銀行は、こ
れまでに比べて国債買入れを柔軟かつ効果的に運営することができるように
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なります。その結果、様々な環境変化に応じた対応が可能となるほか、政策
の持続性も高まるものと考えています。
(オーバーシュート型コミットメント)
次に、オーバーシュート型コミットメントについてご説明します。日本銀
行は、「量的・質的金融緩和」の導入以来、2%の「物価安定の目標」の実現
を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、金融緩和政策を
継続するとコミットしています。
今回、この従来からのコミットメントに加えて、消費者物価指数(除く生
鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベ
ースの拡大方針を維持することとしました。
まず誤解のないように申し上げますが、これは2%の「物価安定の目標」
を引き上げたということではありません。“Secular stagnation”などと呼ば
れる長期的な成長トレンドの低下への対応として、2%より高い物価目標が
必要ではないかという議論は、国際的な学界や中央銀行間では盛んに語られ
ていますが、現時点では主として中長期的な課題と位置づけられています。
その問題意識は私も共有しますが、今回の対応は、あくまでも「2%目標」
を前提としたものです。
ではどうして「2%を超える」という基準なのか、ということですが、2%
の目標を実現するということの意味は、景気変動を均してみて、平均的に2%
程度で推移するということです。したがって、消費者物価前年比の実績値が
2%を上回って推移する局面があることは、もともと想定されているという
ことです。
とはいえ、これは極めて強いコミットメントです。消費者物価上昇率の「見
通し」ではなく、「実績値」に基づいて金融緩和の継続を約束しているからで
す。一般的に、金融政策が経済・物価に影響を及ぼすには相応の時間がかか
ることから、経済・物価の先行き見通しを踏まえつつ、フォワード・ルッキ
ングに運営することが望ましいと考えられています。この点、実績値をベー
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スとしたバックワード・ルッキングなコミットメントは、中央銀行として異
例の対応と言えます。日本銀行は、2001 年から5年間続いた「量的緩和」に
おいて、この実績値に基づくコミットメントを世界ではじめて行いましたが、
そのときの基準は「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定
的にゼロ%以上となるまで」というものでした。今回の「2%超」という基
準がいかに強いものであるかご理解いただけるかと思います。先程申し上げ
た通り、わが国の場合、長年にわたるデフレの後遺症として、予想物価上昇
率の形成において、適合的な要素が強く作用しています。こうしたもとで、
予想物価上昇率を引き上げていくためには、敢えて実績値をベースとした強
いコミットメントを行い、2%の実現に向けた日本銀行の姿勢を示す必要が
あると考えました。
図表9をご覧ください。コミットメントの対象となるのは、マネタリーベ
ースですが、現在の残高は約 400 兆円であり、名目GDPの約 80%に達して
います。米国やユーロエリアでは約 20%です。先行き、現在の方針に沿って
マネタリーベースの拡大が続けば、あと 1 年強で、この比率は 100%を超え
る計算になります。
皆様の中でただちに浮かぶであろう疑問は、これほど「大胆な」コミット
メントをして、金融引き締めが後手にまわり、インフレが加速する危険はな
いのかということでしょう。私の答えのひとつは、誰もが「穏当」と思う約
束では効果に乏しいということです。「量的・質的金融緩和」がマインドの転
換と経済・物価の好転につながったのは、誰にとっても「これまでにない大
胆なもの」と感じられたからでしょう。二つ目の答えは、現時点の見通しで
は、先行きの物価上昇率は2%に向けて緩やかに高まっていくとみているこ
とです。このケースでは、マネタリーベースの拡大と低いイールドカーブに
よる金融緩和を続けても、物価が2%から大きくかい離して戻れなくなると
いうことはないと予想できます。最後に、三つ目の答えは、万一何らかの理
由で急速に物価上昇率が高まるような場合には、長短金利の操作によって
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2%の「物価安定の目標」を安定的に実現することは十分可能であると考え
ています。三つ目の可能性はあくまで万一の場合ということであって、基本
的には2%を安定的に超えるまで、大規模な金融緩和が続くと考えていただ
いて結構です。
(イールドカーブの形成と追加緩和)
以上が、金融政策の新たな枠組み、すなわち「長短金利操作付き量的・質
的金融緩和」のポイントです。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をで
きるだけ早期に実現するため、新たな枠組みのもとで金融緩和を強力に推進
していきます。
具体的には、枠組みの中心である長短金利の操作によって、経済・物価・
金融の情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持
するために最も適切なイールドカーブの形成を促していきます。その際には、
さきほど述べたとおり、金融仲介機能への影響なども、考慮します。ただ、
同時に強調したいのは、基準はあくまでも日本経済全体だということです。
そうした考慮を行うのは金融環境を通じて経済全体への影響があるためです。
別の言い方をすれば、日本経済のために必要であると判断すれば、躊躇なく、
調整を行います。
具体的な追加緩和の手段としては、マイナス金利の深掘りと長期金利操作
目標の引き下げが中心的な手段になります。また、「質」の面、資産買入れの
拡大も引き続き選択肢です。さらに、状況によっては、「量」の面、すなわち
マネタリーベースの拡大ペースの加速も考えられます。その場合は、金利の
大幅な低下を伴う可能性が高いとみられますが、経済・物価情勢や金融市場
の状況などによって、そうした強力な金融緩和が必要な場面もあり得ます。
目的達成のために必要と判断すれば、日本銀行は、あらゆる政策手段を活用
します。
4.結びにかえて
本日は、「総括的な検証」の内容とそれを踏まえた金融政策の新たな枠組み
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について、お話ししました。
率直に申し上げて、デフレからの脱却には想定以上に時間がかかっていま
す。そうであるからこそ、私は、「二度とデフレに戻ることがないようにしな
ければならない」との思いを強くしています。「量的・質的金融緩和」導入以
降の3年間、日本経済は、15 年以上続いたデフレからの脱却に向けて着実に
歩みを進めて来ました。今がデフレから完全に抜け出す絶好の機会です。金
融政策の「限界」を論じるだけでは、問題の解決には全くつながりません。
大切なことは、解決すべき課題に正面から向き合い、最善の対応策を追求し
続けることです。「イールドカーブ・コントロール」や「オーバーシュート型
コミットメント」は、これまで学界などで議論されてきたことをベースにし
ていますが、中央銀行の現実の政策手段としては、今回、日本銀行が世界に
先駆けて導入します。
これまでも繰り返し申し上げている通り、金融政策に「限界」はありませ
ん。「政策のコストを最小に、ベネフィットを最大にする」、「そのための創意
工夫を惜しまず、新しい挑戦をためらわない」、日本銀行は、2%の「物価安
定の目標」をできるだけ早期に実現するために、今後とも最大限の努力を続
けてまいります。
ご清聴ありがとうございました。
以 上
2016年9月26日
日本銀行総裁
黒田 東彦
金融緩和の「総括的な検証」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko160926a1.pdf
日銀新政策の落ち着きどころ
「金利」と「量」の同時操作は困難、前者を能動的に操作するなら後者は受動的な位置付けに
日銀は9月21日、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を発表しました。今回は少し踏み込んでその内
容を確認します。新しい枠組みは、@「金利」を操作する「イールドカーブ・コントロール」と、A「量」の長期的な増
加を約束する「オーバーシュート型コミットメント」で構成されます。ただ黒田総裁自身、「金利」をコントロールする
上で、「量」の増減はあり得ると述べている通り、@とAを同時安定的に操作することは難しいと思われます。
日銀が「金利」を能動的に操作する限り、「量」の管理は受動的にならざるを得ません。実際、「オーバーシュー
ト型コミットメント」では、物価が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースを拡大する方針が示されましたが、そこ
に具体的な金額の縛りはありません。そのため極端な例ですが、従来は約80兆円だったマネタリーベースの年間
増加額が10兆円にとどまったとしても、増加している限り約束は守られることになります。
「オーバーシュート型コミットメント」による予想物価上昇メカニズムは、より詳細な分析が望まれる
マネタリーベースの増加ペースが直ちに急減速することはないとみていますが、今後は国債の買い入れが柔軟に
行われ、市場が落ち着いている限り、買い入れの減額も許容される可能性があります。そのため「量」の重要性は
相対的に低下していくと思われます。ただ「イールドカーブ・コントロール」自体もそれほど簡単ではなく(図表1)、
日銀は市場の反応をにらみながら10月以降のオペレーションを調整していくと予想されます。
なお9月21日には総括的な検証の結果が公表され、2%の物価目標達成には、予想物価上昇率の引き上
げが必要との見解が改めて示されました。その結果、前述の「オーバーシュート型コミットメント」が導入され、緩和
の継続期間は、「2%の物価上昇が安定的に持続するのに必要な時点まで」から「物価が安定的に2%を超え
るまで」に長期化されました。ただ長期化による予想物価上昇のメカニズムについては明確な説明がなく、より詳
細な分析が望まれます。
物価上昇は依然見通しにくく、「イールドカーブ・コントロール」の巧拙が政策信任のバロメーターに
ドル円は9月22日、一時1ドル=100円10銭水準までドル安・円高が進行しました(図表2)。ドル安の要
因としては、米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月21日に利上げ見送りを決定し、先行きの緩やかな利
上げペースが示唆されたことが挙げられます。また円安に振れないのは、日銀による新たな政策の枠組みが示され
ても、依然として日本の物価上昇は見通しにくく、市場の確信が得られないためと考えます。
今回の政策決定は、財政との組み合わせ(ポリシーミックス)で考えることが大切です。これは緩和の長期化と
「イールドカーブ・コントロール」に、財政拡張による金利や通貨の上昇(クラウディングアウト)を抑制する効果が
期待できるからです。ただ日銀が「イールドカーブ・コントロール」を打ち出した以上、今後は株式市場も為替市場
もイールドカーブをより強く意識することになると思われます。そのため「イールドカーブ・コントロール」の巧拙が、市場
の政策信任のバロメーターになると考えます。
http://www.smam-jp.com/documents/www/market/ichikawa/irepo160926.pdf
ドイツ銀によるモーゲージ担保商品の不正販売から欧州発の金融危機発生リスクが発生!個人投資家は「撤収ルール」の徹底でリスク回避を!
9月20日〜21日の日銀の金融政策決定会合と、FOMCという2大イベントを無事通過すれば、9月末の配当権利取りの買いや、権利落ち後のパッシブ系ファンドの配当の再投資で需給が改善し、日経平均株価は月末まで安泰とみていました。
日経平均株価チャート(日足・1年)*チャート画像をクリックすると最新のチャートがご覧になれます。SBI証券HPより
http://diamond.jp/mwimgs/2/7/625/img_2784474ac909bfec4a81eaec9f041fb673477.jpg
しかしながら、モーゲージ担保証券(MBS)の不正販売で米当局から140億ドルの支払いを要求されているドイツ銀の経営不安が再燃し、欧州発の金融危機発生リスクが強まり、世界の株式市場を取り巻くムードは著しく悪化しています。多くの投資家が金融危機発生に身構え始めています。
フォーカス誌の報道により
世界的なリスクオフムードに
きっかけは、9月23日、フォーカス誌が、複数の政府関係者の話として、「来年9月に総選挙を控えているメルケル首相が、ドイツ銀行の支援を否定した」と報じたことでした。市場では、訴訟費用や和解費用が想定を上回り、ドイツ銀行はライツイシュー(株主割当増資)による資本増強に追い込まれるとの見方が一段と強まりました。
これを織り込む格好で、26日のドイツ銀行の株価は、1999年のユーロ発足以来の最安値を更新しました。その影響は欧米金融機関の株価全般におよび、世界的なリスクオフムードの強まりの元凶となっています。
今後、ドイツ銀発の「リーマンショック」級の金融危機が発生するか否かは、私にはわかりません。ですが、投資家はそれぞれ独自の市場からの撤収ルールを予め決めて、万が一、そのルールに抵触するような事態に陥ったら、粛々とそのマイルールに基づき、株式市場から撤収しましょう。
金融危機の際、多くの個人投資家は
「バーゲンハント」に乗り損ねる
なお、仮に、近い将来に金融危機発生ということになれば、相場はジリジリと下がり続け、最終局面での急落発生で「底打ち」し、急激なリバウンド発生というサイクルが待っているはずです。ですが、経験則上、多くの個人投資家は、その底打ち時に、買い余力が全くありません。
多くの個人は、いずれ株価は戻るだろうという甘い期待を抱き、相場がジリジリ下がる中でも株を持ち続け、下げ相場に付き合ってしまうことで、体力を失ってしまい、絶好の「バーゲンハント」の局面で買い向かえないのです。とりわけ、信用買い方は、その場面で追証絡みの投げ売りをせざるを得ない状況に追い込まれ、虎視眈々と買い場を待っていた投資家に、後から考えればあり得ない安値で受け渡すことになるのです。
株式市場を動かす要因には、国内要因と海外要因があります。国内要因は、政府・日銀の動向が大きく作用します。しかしながら、海外要因は海外(当事国・地域)の政府・中央銀行の動向が大きく作用します。
つまり、東京株式市場がクローズした後の海外政府・中央銀行関連のニュースフローで、翌日の日本株の方向性が決まってしまうのです。日本人投資家がスヤスヤと惰眠を貪っている間に、欧米株式市場が急落し、円相場が急激に円高に振れれば、翌日の日本株は大幅下落スタートを余儀なくされ、多くの銘柄はギャップダウンスタートとなるのです。
もちろん、日経平均先物やオプション口座を持っている一部の投資家はナイトセッションでヘッジは可能です。ですが、そのような取引を行う個人投資家はやはり少数派です。私は、金融知識が十分あり、度胸と実行力のある個人投資家が積極的に先物・オプション取引を行うことに否定的ではありません。
しかしながら、当コラムが想定している読者のような小口の個人投資家の方には、「デリバティブを使ったヘッジをするくらいなら、持ち株、買い建玉を全て手仕舞い、“オールキャッシュ”で“バーゲンハント”のチャンスを待て」とアドバイスしたいですね。
26週移動平均線を2日連続で割れたら
いったん撤収するサイン
では、私なら、その「オールキャッシュ」にする判断は何でするかといえば、今なら、日経平均株価の26週移動平均線割れの有無です。日経平均株価が終値で26週移動平均線(27日現在1万6411.04円)を2日連続で割れたら、メインシナリオは「いったん撤収」です。2日とするのは、1日だけだと「ダマシ」もあるためで、それを避けるために2日連続という条件にしました。
そして、撤収したら「セリングクライマックス」を待つという戦略です。もちろん、割れずに推移すれば現金化することはなく、また、いったん割り込んでも、再び同線を2日連続で上回れば買い戻せばいいだけのことだと思います。
基本的に、金融危機発生は「テールリスク(『ブラックスワン・イベント』とも呼ばれ、市場において、確率は低いが発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク)」です。市場での金融危機発生リスクの高まりをあなたが感じたなら、「君子危うきに近寄らず」を実践し、株式市場から撤収しましょう。そして、あなたがバーゲンハントの好機と感じたなら、「君子は豹変す」を実践し、買い向かいましょう。
なお、あなたの持ち株が日経平均株価との連動性が乏しい場合は、私なら現金化する判断は、25日移動平均線2日連続割れの有無です。個別銘柄の終値が25日移動平均線を2日連続で割れたら、それが利食いだろうが、損切りだろうが、「撤収」です。
私は、個人投資家はよほどのことがない限り、25日移動平均線を下回った株式を持つべきではないと考えています。なお、よほどのこととは、異常なマイナス乖離率となり、短期的な売られ過ぎになった場合です。
長期投資でも、ただ持ち続けるのではなく
マメにメンテナンスをすることが大事
誤解のないように書きますが、私は長期投資を否定しているわけではありません。長期投資する銘柄に関しても、その銘柄が25日移動平均線を上回っている間だけ保有しましょうといっているのです。
つまり、割れたらいったん売って、再び上回ったら買い戻す。または、割れた後、順調に下落し、異常なマイナス乖離率となり売られ過ぎになったら、買い戻す等、ただ漫然と長期に保有するのではなく、スタンスが長期でも「マメにメンテナンス」しましょうといっているだけです。
巨額の資金を運用する国内外の機関投資家や大口の個人投資家は、マーケットインパクトを考えると、そのような機敏な売買はできません。しかしながら、多くの小口個人投資家はマーケットインパクトが小さいので、それが可能です。
毎晩、持ち株の終値と25日移動平均線との位置関係をチェックする。上回っていたら何もしない。2日連続で下回っていたら、翌日の寄り付きでの売り注文をセットする。これだけならば、時間のない個人でも可能でしょう。
現時点でドイツ銀発の金融危機が発生するかは全く分かりません。しかし、きな臭いムードになり始めていることは事実です。過度に悲観、警戒する必要はないでしょう。しかし、万が一のことが起きた際の、備えはするべき状況になったとみています。
繰り返しますが、備えとは、「あなた独自の市場からの撤収ルール」の策定です。
http://diamond.jp/articles/-/103110
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