STAP細胞の存在を信じる声は”奇跡”を起こすか、それとも……
いまだ根強い「本当はSTAP細胞はあった!」説がやっぱりおかしいこれだけの理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160924-00110893-hbolz-soci
HARBOR BUSINESS Online 9月24日(土)9時10分配信
「STAP細胞はあるのではないか――」。「利権がらみで闇に葬られたのではないか――」。
一部で、こんな言説がいまだに飛び交っている。最近も、ドイツの研究者らがSTAP細胞の作製に成功したというニュースまで飛び出し、STAP細胞の存在を信じる人が減る気配は無い。今回はSTAP細胞にまつわる最近の言説について検証しよう。
その前に、STAP細胞騒動について手短に振り返る。
STAP細胞作製の成功は、2014年に理研の研究者らにより科学雑誌『Nature』で報告された。酸をかけることで、どんな種類の細胞にもなれる多能性細胞ができるというものだった。STAP細胞は医療を大きく変えうると期待されたこと、そして、小保方晴子氏という若い女性研究者を中心にこの研究が成し遂げられたこともあり、科学界のみにとどまらず日本社会に大きなインパクトを与えた。また、この「日本発の大発見」は、少なくない人に日本人としての誇らしさを感じさせるものでもあった。
◆STAP細胞の科学的根拠が存在しない
だが、革命的と言われたこのSTAP細胞は、主にネット上で、論文のデータや画像の不自然さが次々と指摘されることになる。小保方氏はこれらの指摘に対し、うっかりミスだったと釈明。そして、STAP細胞はたしかに存在するし、「作製に200回以上成功した」と明言。だが、論文には捏造と改ざんが加えられていることが最終的認定され、センセーショナルな発表から5カ月後、ついに論文は取り下げられた。
つまり、STAP細胞の存在の科学的根拠がなくなった。だが、理研は小保方氏にSTAP細胞作製の追試を指示。だが結局、小保方氏はSTAP細胞の作製に成功することなく、検証実験は終了。ただし小保方氏は、自著『あの日』の中で「実は検証実験でSTAP細胞の作製に成功していた」と書いている。
生命科学の専門家の間で「STAP細胞の存在の真偽」についてはまったく話題にならない。それは、論文が取り下げられた時点で研究の実体がなくなったとみなされるからだ。その一方で、現在、小保方氏の支持者を中心に、STAP細胞の存在を信じる非専門家の人々は、少なくない。
専門家と非専門家との間で、なぜ、このような乖離が生じているのだろうか。それは、一部メディアの報道によるところが大きい。科学が関わるニュースを、適切に伝えていないからだ。
◆都合のいい部分だけ抽出されて報道されている
たとえば2016年3月に、ドイツの研究グループが、STAP細胞の作製に成功したという記事が出回った(参照:「ビジネスジャーナル」)。これを読んで、「やっぱりSTAP細胞は存在した」と思った人も多いだろう。実際に、Twitterで「STAP細胞 成功」などのワードで検索すると、STAP細胞の存在に肯定的な発言も目立つ。それでは、ドイツの研究グループは、実際にSTAP細胞の作製に成功したのだろうか。「STAP細胞の作製に成功した」と主張するためには、次の条件が必要になる。
1.小保方氏らが行ったのと同一の方法で実験を行うこと
2.その結果として、STAP細胞に見られる特徴がすべて備わった細胞が作製されること
ドイツの研究グループから発表された研究成果が、これらの条件を満たしているかを見てみよう。
まず、小保方氏らによるSTAP細胞の作り方だが、リンパ球細胞に弱酸の溶液をかけている。ドイツの研究グループでは、細胞の刺激に用いた溶液はpH3.3であり、オリジナルの方法よりも強い酸を使っている。また、小保方氏らは細胞が初期化される際に二つの指標(マーカー)が発現することを確認している。ドイツの研究グループは、このうちの一つのマーカーの発現を確認しているが、もう一つについては発現が確認されなかったとしている。
◆ドイツの研究グループは「成功した」とは主張していない
さらに、小保方氏らが作製したSTAP細胞は、さまざまな種類の細胞になれる(分化する)能力をもつことを示していた。だがドイツの研究グループは、刺激を与えた細胞が他の種類の細胞に分化できるかどうかを、まったく検証していない。要するに、ドイツの研究グループの成果は、上述した「STAP細胞の作製に成功した」ことを示すための条件を満たしていない。そもそも、彼ら自身も、STAP細胞の作製に成功したことを主張しているわけではない。
確信犯なのか無知なのかは分からないが、一部のメディアによって事実が捻じ曲げられた結果として、STAP細胞に関する誤った言説が流布されているのである。メディアが氾濫する時代だからこそ、嘘に振り回されないような科学リテラシーを身につけることが大事になってくるだろう。
<文・堀川大樹>
クマムシ博士。1978年東京都生まれ。2001年からクマムシの研究を続けている。北海道大学で博士号を取得後、NASA宇宙生物学研究所やパリ第5大学を経て、慶応義塾大学先端生命科学研究所特任講師。クマムシ研究の傍ら、オンラインサロン「クマムシ博士のクマムシ研究所」の運営やクマムシキャラクター「クマムシさん」のプロデュースをしている。著書に『クマムシ博士の「最強生物」学講座』(新潮社)と『クマムシ研究日誌』(東海大学出版会)。ブログ「むしブロ」、有料メールマガジン「むしマガ」も運営。
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