中国が米に仕掛ける小さな戦争 狙いは威信失墜
By ANDREW BROWNE
2016 年 9 月 7 日 15:00 JST
【上海】中国は結局、20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に出席するため週末に杭州を訪れたオバマ米大統領を意図的に冷遇したわけではなかった。ただ、対応が外交儀礼に反していたためにそう映った。
「ここはわれわれの国だ。われわれの空港だ」。大統領専用機が着陸した後、随行記者団の扱いを巡る口論で激高した中国の当局者はホワイトハウスのスタッフにかみついた。
中国は現在、独自の規則に従って動いており、それは誰が米大統領専用機に移動式タラップを提供するかという単純な点にまで適用される。米国と中国どちらのタラップを使うかで意見が分かれ、オバマ氏は低いほうの扉から機体付属のタラップを使って機外に出た。西側メディアは、中国政府が故意にオバマ氏を侮辱しようとしたと報道したが、中国外務省報道官は西側の報道を「慢(ごうまん)で独断的」と非難した。
しかし、今回の出来事はそれを象徴している。オバマ政権下の米国に対する中国の動きは、気候変動枠組み条約や国連の対北朝鮮制裁、イランの核開発を巡る合意など、国際舞台での協力に関するいくつかの逸話と、それ以上の頻度で顔を出す厄介なナショナリズムが特徴だ。
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外交の舞台の陰でなされる小さな侮辱やささいな攻撃。中国はそれによって、米国の超大国としての地位を低下させ、自国の地位向上を目立たせようとしてきた。
中国は領有権争いで米国と組むアジアの同盟国を脅している。国内では、米国の投資家を選んで嫌がらせをしている。米国など西側の非営利団体を警察の監視下に置くことで、それらを歓迎していないというあからさまなメッセージを発信している。そうした攻撃は積み重なって、米政府への強気な挑戦となっている。というのも、オバマ氏が有力な対抗手段を見いだしていないからだ。
中国政府の当面の目標は、地域の覇権国を打ち負かす能力ではなく、それを弱体化させる能力を得ることだ。中国の軍拡が警戒されているが、同国の軍事力は米国と比べると小さい。
この戦略的ゲームで成功するために中国が越えなければならないハードルは、驚くほど低い。東アジアにおける米国の「グランドストラテジー」の基礎となる2つの柱は、敵対国を阻む能力と、本当の危機時には最大の武力を携えて遅滞なく駆けつけるという同盟国への保証だ。中国としては、米国の支援に対する疑念を同盟国の心に植え付けさえすればいい。そうすればグランドストラテジーは崩れ始める。
米国の信頼性が次に試される日は近いかもしれない。杭州でオバマ氏は、南シナ海に関する中国政府の法外な主張は認められないとした国際仲裁裁判所の裁定を尊重するよう習近平国家主席に働きかけた。だがその間にも、スカボロー礁でしゅんせつ船らしき船が確認されるなど、いつになく活発な中国の動きがフィリピン当局から報告された。中国は多くの船が行き交う南シナ海に人工島を7つ建造しており、フィリピンは追加の計画を恐れている。中国は、一帯の状況が変わっていないとしている。
オバマ氏は今年、フィリピンの排他的経済水域内にある豊かな漁場に軍事利用できる施設を建造しないよう習氏に警告していた。
オバマ氏は、G20に向かう前のCNNテレビのインタビューでも、南シナ海での中国の主張や同国の経済政策について決然とした姿勢を示した。
だが習氏は、その種の言葉を全く意に介さないようだ。G20は世界経済が停滞するなかで貿易を促進し、保護主義を回避する必要性を盛り込んだ首脳宣言を採択した。そうしたなか米商工会議所が発行したリポートでは、中国が広大な市場の多くから米テクノロジー企業を排除するために、国防法その他の手段をいかに駆使しているかが浮き彫りになっている。
米国の強い言葉は習氏の思うつぼかもしれない。オバマ氏のレームダック期間に米政府の言行がますます一致しなくなることに期待し、対立に打って出ることも考えられる。
大統領専用機「エアフォース・ワン」機体備え付けの階段を使って降りるオバマ氏
https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-PR751_STAIRG_M_20160905113009.jpg
その一方、習氏は環太平洋経済連携協定(TPP)の見通し悪化を高みから見物する可能性もある。TPPは抑止力向上と同盟強化を目指すオバマ氏の外交戦略の目玉、アジア「ピボット」(軸足)戦略の中心をなしている。だが、民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏も共和党候補のドナルド・トランプ氏もTPPに反対している。
オバマ政権初期に政策策定に関わった元国務次官補(クリントン氏が大統領になった場合に国務長官に就任する可能性がある)のカート・キャンベル氏は著書で、軸足の「狙いは中国政府に米国の持久力を思い出させる」ことだったと述べている。TPPについては、その「必須条件」だと主張している。
オバマ氏は空港での騒動に寛容だった。記者団に「あまり大げさに考えない」ようアドバイスしている。オバマ氏には大統領専用機から降りる時の威厳よりも気がかりなことがある。それは、米国のスタミナを心配する友人と、彼らの不安を増幅させるために手を尽くす中国政府だ。
(筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト)
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwjNidiA0vzOAhUJpJQKHZnvCSUQFggeMAA&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB11426422161025524901704582298830902250206&usg=AFQjCNG9QJr5DSwwguD0l4WKFLVgq8Z1QA
中国経済改革の行方を占う「抑圧指数」
懲役7年半の判決を受けた民主活動家の胡石根氏 ENLARGE
懲役7年半の判決を受けた民主活動家の胡石根氏 PHOTO: ASSOCIATED PRESS
By ANDREW BROWNE
2016 年 8 月 24 日 12:11 JST
【上海】中国経済が減速するなか、政府は反体制派などにトラブルメーカーの烙印(らくいん)を押して弾圧を強めている。
現在、中国経済の先行きを示す最良の指標の1つが政治的指標だ。これを「抑圧指数」と呼んでおこう。
弾圧からわかるのは、指導部が対外的には自信を示しながらも、停滞する成長に対処するなかで不安を強めていることだ。これが深刻な優柔不断につながっている。指導者たちは、厳しいながらも必要な経済改革を断行する決断を下せないようだ。
一方、習近平国家主席と李克強首相が追加刺激策をめぐる姿勢で対立している気配があるなど、政策の乱れに増幅の兆しが増えている。5月に人民日報に掲載された「権威ある人物」(おそらく習氏の代理)に関する記事は、李首相が今年踏み切った信用供与策が過剰だったと非難しているように読める。
中国ではこのところ、人権弁護士に対する一連の「見せしめ裁判」が行われている(英語音声、英語字幕あり)
共産党にとっては危険な時期だ。同党が承知しているように、無駄の多い投資主導型から、サービスや消費、イノベーション主導型への経済モデル移行を加速させれば、成長に打撃を与え、社会不安が醸成される公算が大きい。しかも最終的に成功する保証はない。
経済モデルの変更は往々にして、経済的というよりも政治的な挑戦となる。成長の恩恵を大手国営企業から家計に再分配することになるからだ。
これは筋金入りの党員が参加を表明した革命ではない。エリート層の家族の貯蓄を増やすのに貢献した富だけの移転ではなく、権力の移転をも意味するのだから。
この過程で、国有企業が政府に資金や社会サービスを提供すると同時に労働者を飼いならすという制度が不安定化する恐れがある。
しかも、それらの企業、特に旧式の製鋼炉やセメント工場を稼働させ、枯渇した炭鉱を存続させている赤字企業は、大量の雇用を抱えている。
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純粋に経済面だけを考えると、こうした「遺構」の閉鎖は考えるまでもなく当然のことだ。膨大な余剰能力を拡大させているほか、大気汚染の一因にもなっている。「融資が増えるほど生産が減る」という中国の成長ジレンマの中心にいるゾンビ企業だ。増大する企業の債務は金融システム崩壊のリスクになっている。国際通貨基金(IMF)のデービッド・リプトン筆頭副専務理事によると、「警告灯が点滅している」。
だが政府にとっては、こうしたシナリオよりも、失業者が街にあふれるという予想のほうが問題らしい。
そのため、非現実的なまでに高い成長目標を追求し続ける一方、工場閉鎖はあまり進んでいない。
対照的に、政治的弾圧は急ピッチで進んでいる。抑圧指数があれば、人権派弁護士の苦境に関するデータが中心になるだろう。昨年は300人を超える法律の専門家や活動家が一時的な拘束や尋問を受け、数十人が正式に拘置された。今も見せしめ裁判が行われている。
抑圧指数には、市民社会団体に対する新たな制限や検閲の厳しさも算入される。政府転覆を図る「敵対的な外国の勢力」に国営メディアが言及した回数もしかり。この文言は毛沢東の時代以来、支配層のパラノイア度を測る基準になっている。
サブ指数は、テレビでミサイルや戦闘機、戦艦の映像が流された時間の長さになるかもしれない。政治的不安定は当然、ナショナリズムの高まりに行き着く。
政治の冬は、軍の武力弾圧で終わった1989年の天安門事件を思い出させる。当時も経済が低迷していたのは偶然ではあるまい。
‘警告灯が点滅している’
—デービッド・リプトンIMF筆頭副専務理事
人権派弁護士が狙い撃ちされるのは、問題が拡大する時期に国民の不満をまとめて流れを作り出す能力があるためだ。言葉を変えれば、権利意識を高める市民を後押しする手段を提供することができる。これは、トップダウン式のレーニン主義を掲げる政党の支配欲に反する。
摩擦もある。手綱を緩めずに経済的な変革を成功させることはできるのだろうか。検閲は知識経済と対立する。共産主義の信念は創造性に欠かせない自由な質問を抑え込む。
ほぼ全ての新規雇用を創出するとともに製品やサービスのイノベーションをけん引する民間部門は、政治的シグナルに動揺している。政府は経済について「明るい歌を繰り返す」よう地方当局に指示しているが、民間投資は崩壊しつつある。
投資への気後れは、人民元安への懸念や、世界的な景気低迷を受けたリターン低下といった要因では説明しきれない。投資銀行の中国国際金融(CICC)のアナリストらの言う「不確実性のわな」、つまり、改革の「時期、行程、実行」に関する疑問を反映している可能性もある。
今般の抑圧は政治的リスクを伴う大胆な経済改革の地ならしだとする説もある。政府は厳しい時代に備えて防備を固めている。
起業家たちはそれほど当てにならない。改革の成否を左右し、容易には服従しないこの層には、改革に参加しない自由がある。
(筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト)
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