国際会議で恥をさらした黒田総裁(C)日刊ゲンダイ
マイナス金利が招く銀行連鎖破綻の再来 日本経済一歩先の真相
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2016年9月2日 高橋乗宣 エコノミスト 日刊ゲンダイ
先週末、米ワイオミング州の保養地ジャクソンホールに各国の中央銀行トップや名だたる経済学者が集結していた。米カンザスシティー連銀が開いた経済シンポジウムへの出席が目的だ。世界の金融関係者が注目した討論会で、日銀の黒田総裁は自身の政策を自画自賛。29日付の日経新聞には〈マイナス金利政策によって「(企業や家計の)資金需要が刺激された」と語った〉と書かれていた。
ところが、その記事が掲載されたページをめくると、すぐ裏面には〈低金利、政策手詰まり感〉との見出しが立っていた。同じ討論会で、米FRBのイエレン議長が利下げの限界論に言及し、「財政や規制緩和が重要」と中銀頼みの限界を吐露したようだ。
低金利政策について、同じ場所に居合わせた日米両国の中銀総裁の意見が、くしくも真っ二つに割れたわけである。
黒田総裁はマイナス金利で「需要が刺激された」と胸を張ったが、どこをどう探しても、そんな効果は見つからない。今年1月末のマイナス金利政策の導入決定以来、消費の低迷は続き、GDPはゼロ成長、昨年末に1ドル=120円台を付けた為替も、いまや1ドル=100円前後の円高水準にへばり付いている。
2%の物価目標の実現も夢のまた夢で、こんな惨状を目の当たりにして、よくもまあ、世界注目のシンポジウムで手前味噌を並べられたものだ。まだ、イエレン議長の発言の方が、中銀総裁としての悩みが垣間見えて好感が持てる。
マイナス金利のおかげで末端の金融機関は四苦八苦だ。メガバンクでさえ、利ざやが縮小して決算は減益ラッシュで、のたうち回っている。週刊ダイヤモンドの最新号は「金融エリートの没落」と銘打った大特集を組んでいるが、かつての花形職業は厳しい立場に立たされているようだ。
異次元緩和でマネーがダブつき、貸し出し需要は底をつき、資金を預かっても融資先が見つからない。そのため、顧客の窓口営業はサマ変わりし、しきりと「預金から投資」を勧めている。金融商品の販売や管理で手数料を得るしか、稼ぐ道はないのだ。
黒田日銀が異次元緩和を続ける限り、金融機関の経営に上がり目はない。そのうち、マイナス金利に耐え切れず、バタバタと経営破綻に陥る金融機関が続出しかねない。北海道拓殖銀行に始まり、山一証券、長銀2行が次々と倒れた90年代後半の大手金融機関の連鎖倒産の二の舞いである。
日銀が資金を市中にジャブジャブ流せば、銀行が積極的にカネを貸し、モノが売れ、景気が良くなるという考えは間違っている。金融政策万能論に毒された幻想に過ぎない。物価も基本的には需給関係で決まるものだ。金融緩和による物価上昇などあり得ない。
経済学のイロハも知らない日銀総裁が、世界の並み居る中銀トップの前で空威張りとはヘソで茶を沸かすようなものだ。日本の恥としか言いようがない。