モナコ(iStock)
タックスヘイブンは風前の灯火か?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160822-00010002-wedge-int
Wedge 8月22日(月)12時30分配信
イタリアからミュンヘンと言って切符を買うとモナコ行きと書いた切符をくれる。モナコ行きと言って買うとどうなるか心配になる。イタリア国鉄の窓口では、間違いが起きないようだ。風体をみれば、北行きか、南行きか、分かるのだろう。もっとも、モナコの駅はモンテカルロなので間違えようもない。かつては福岡あたりで、センダイ行きというと、どちらですかと言われたらしい。鹿児島にも原発で有名なセンダイがあるのだが、漢字にすれば間違えはない。モナコのほうはどうだろうか。
モナコといえば南フランスの都市国家で、亡くなったグレース・ケリーが嫁いだ先だ。モナコの玄関モンテカルロには、有名なカジノがある。モンテカル・ロラリーやモナコ・グランプリで有名だが、税金のない国の国民になるのは大変なようだ。日本でも有名なスポーツ選手が国籍をとっているという話を聞いた。
その方たち以外に、もう一人幸せな方がいるようだ。ここモナコには世界水路機関の本部があり、海上保安庁から出ている人が働いていると思われる。大変重要な国際機関で、世界の海図作成を監督しているのだ。頑張ってもらわないと、こっそり日本海の名前が変わり、南方の島が消し去られると困る。
ウイーン会議以降、国際会議や国際機関ではゴミ箱は漁られたり盗聴されたりするのは当たり前のようだ。うらやましい勤務地だが、ことが起きないように頑張ってほしい。コートダジュールの華、モナコ公国は一度衰退しかけたが、オナシスなどギリシャの船主たちが寄って集って華に仕立てあげたと思われる。土地を買い、話題を作り値上がりを楽しむ。グレース・ケリーはそのための道具立てだったのだろう。ネットがない頃は、ラジオモンテカルロは、フランス、ベルギー、スイスなどの国では情報を取るのによく聞いた。ここには銀行もたくさんあるが、今後はどうなることか。
もう少し地味だが、フランスに盲腸のように付いた国がもう一つある。それが、アンドラだ。知らない人もいるかもしれないがれっきとした国だ。フランスとスペイン国境、ピレーネ山中にもアンドラという小さな国がある。こちらも何らかの理由があって、独立国となっているのだろう。1278年の独立だそうだ。アメリカより500年も古いことになる。その間、スペインの内戦やドイツによるフランス占領時代も含めて生き残っているのは不思議だ。
アンドラ国元首はフランスの大統領とスペインの国王または、教会のトップの二人制のようだ。現地に行ったときは、国境検問所にフランスのシラク大統領とスペインのカルロス国王の写真が並んで飾ってあった。よく調べるとスペインからは国王ではなくキリスト教のトップが付くようだが、国王のほうが納まりは良いのかもしれない。
リヒテンシュタインやモナコと同様アンドラはタックスヘイブンだが、パナマ文書以来、風向きが変わってきている。アンドラはピレネー山脈の利点を生かして、スキー場ビジネスで生き残ろうとしている。8万人程度の人口ではタックスヘイブンであっても、金融のためのインフラは整えることは困難であろう。
■小さな独立国の魅力
スイスとドイツの間にあるリヒテンシュタインもかつてはタックスヘイブンで名前を成したが、ドイツ政府にもにらまれ、パナマ文書の影響も受けて、別の産業を考える時に来ている。リヒテンシュタインの街はどこだと探しても見つからず、仕方がないので郵便局で切手を買って帰った記憶がある。あとで、そこが街の中心だと分かった。そうはいっても、秘密兵器が一つある。日本でいえば電動工具のマキタにあたる会社でHILTIとよばれる。調べれば調べるほど優良会社にみえる。日本でも高級電動工具としてときどき見かける。
小さな独立国は、それぞれ魅力がある。のどかな時代には数々の税を廃止して世界から富裕層の資金を取り入れていたが、昨今マネーロンダリングの疑いや、税回避の疑いの目を向けられてしまい、何か他に生きる道を探さねば生きて行けないのであろう。
その昔、EUでもECでもなくEECだったころ、ルクセンブルグは、EECの排気塔と言われていた。その後ドイツ政府などの強い要請で、ルクセンブルグは源泉税を導入するなどして排気塔の役割をやめた。比較的安定した人口構成なので国際的な投資信託の寄留地として、アイルランドとその地位を争っている。ジャージー島やガンジー島、マン島は独自の通貨を持っているが、所詮英国の属領である。わが国でも公募外国投資信託の本拠は属領を認めずとなっており、ルクセンブルグに大きなビジネスチャンスをもたらしている。
パナマ文書問題が発覚して以降、タックスヘイブンで稼いでいた小国の生き方が注目されている。欧州でいえば、属領は別にしてもアンドラとリヒテンシュタイン、サンマリノ、モナコ、バチカンであるが、人口が数万人の国の生き方について対応が迫られる。バチカンはともかく、その他の国は節税談義以外に人に語れる何かを提示する必要に迫られているようだ。それらの国をすべて制覇したことを自慢にしていたが、日本人にとってはどの国も行くだけでワクワクする。
パスカル・ヤン (著述家)
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