クリントンを襲う新たなネガティブキャンペーン
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160807-00010000-wedge-int
Wedge 8月7日(日)12時12分配信
民主党大会で抗議する青年(GettyImages)
今回のテーマは、「全国党大会の評価と新たなネガティブキャンペーン」です。共和・民主両党の全国大会が終了し、いよいよ本選に突入しました。全国大会後に実施された米CNNテレビの世論調査(16年7月29日−同月31日実施)によりますと、前国務長官のヒラリー・クリントン候補の支持率が52%、不動産王ドナルド・トランプ候補のそれが43%で、クリントン候補が9ポイントリードしました。
本稿では、一体感、好感度、米軍最高司令官、文化的多様性及びメッセージ性の5つの基準から、両党の全国党大会を評価します(図表1)。さらに、本選における非従来型ネガティブキャンペーンについて述べます。
■一体感
共和党全国党大会の演説で、トランプ候補のライバルであったテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)が、誰に投票をするのかは良心に任せると発言して、同候補支持を表明しませんでした。クルーズ上院議員は、同候補が求めている宗教保守から厚い支持を得ています。
一方、民主党全国大会では、クリントン候補と激しく戦ったバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)は、自身の支持者に向かってクリントン支持を訴えたのです。周知の通り、サンダース上院議員は同候補が呼びかけている若者から圧倒的な支持を得ています。2人の上院議員の対応が、党の団結において分岐点になったのです。
サンダース上院議員に加えて、民主党全国大会ではビル・クリントン元大統領、バラク・オバマ大統領、ジョー・バイデン副大統領など大物の「まとめ役」が党の結束を図りました。その結果、100%の一体感ではなかったものの、団結を演出できた民主党に軍配が上がったと言えるでしょう。
■好感度
2016年米大統領選挙は、好感度の低い候補者同士の戦いになりました。共和党全国大会でトランプ陣営は、トランプ候補の好感度アップを狙い、娘や息子に同候補の人間性について語らせたのです。
一方、クリントン陣営は、夫のクリントン元大統領がクリントン候補に関するストーリーを交えながら、彼女の人間らしさについて演説を行ったのです。同候補も、ストーリーテリング(物語を語る)の手法を用いて、両親のストーリーを語り、好感度の向上を狙いました。
米ギャラップ社の世論調査(16年7月1日−同月27日実施)によりますと、若者(18−29歳)のクリントン候補に対する好感度は31%です。ちなみに、オバマ大統領のそれは65%、サンダース上院議員は64%です。そこで、同候補は、特に未婚の女性と若者に対する好感度のアップに焦点を当てています。12年米大統領選挙において、オバマ大統領は出口調査で若者の60%を獲得しました。今回の選挙でクリントン候補は、その数字に到達することが困難であると判断した場合、若者の支持率のマイナスを補う必要があります。
東部ニューハンプシャー州コンコードで戸別訪問を行った際、クリントン支持の中高年の白人女性が、共和党支持の夫がジョン・ケーシックオハイオ州知事以外の候補が共和党指名を獲得した場合、クリントン候補に投票をすると語っていると筆者に教えてくれました。同候補には、トランプ候補に反対する共和党の中道左派の票を奪い、若者の支持率のマイナスを補うという選択肢があります。
とはいえ、女性、ヒスパニック系、アフリカ系、若者及び同性愛者から構成された「異文化連合軍」の票を組み合わせて勝利を収めたいクリントン候補にとって、若者の票は不可欠なのです。本選でクリントン陣営は、高校や大学に出向き支持拡大を目的とした選挙運動を展開するでしょう。すでに、激戦州バージニア州北部のクリントン陣営には、ジョージメイソン大学担当の有給のスタッフが働いています。
■米軍最高司令官
ブッシュ親子及び08年米大統領選挙の共和党候補であり上院軍事委員会委員長のジョン・マケイン上院議員(共和党・アリゾナ州)など重鎮の全国党大会欠席は、共和党の結束の欠如を物語っていましたが、それのみではありません。トランプ候補が、米軍最高司令官の資格があるという強いメッセージを発信することができなかったという問題にまで拡大したのです。
他方、民主党全国大会でオバマ大統領が、クリントン候補は米軍最高司令官として資格があるというメッセージを発しました。この点においても、民主党大会に軍配が上がりました。
■文化的多様性とメッセージ性
共和党全国大会は、「白人の党大会」になりました。米メディアによりますと、共和党全国大会における演説者の15%が非白人であったのに対して、民主党全国大会では演説者の38%が非白人でした。民主党全国大会は、共和党全国大会と比べて文化的多様性に富み、米国社会の人口動態を反映していたと言えるでしょう。
クリントン候補の核となる「一緒になればもっと強くなれる」は、異文化連合軍に呼びかけたものであり、文化的多様性を包含したメッセージです。それに対して、トランプ候補の「法を守り秩序を回復する候補」は、共和党候補指名争いにおける発言から、移民排斥に訴えたメッセージであると解釈でき、「あなたの声になる」は「白人労働者の代弁者になる」と捉えることが可能です。クリントン候補のメッセージと比較して、トランプ候補のそれは文化的単一性が強いという特徴があります。ただし、指名受諾演説における両候補のメッセージには力があった点において高く評価できます。
■新たなネガティブキャンペーン
従来型ネガティブキャンペーンは、主として各陣営や特定の候補を応援する政治団体によるテレビ広告でした。ところが、今回の大統領選挙では、非従来型ネガティブキャンペーンが展開される可能性があります。
内部告発サイト「ウィキリークス」が、本来公平な立場をとるべき民主党全国委員会がサンダース上院議員の選挙運動に不利に働く方法を模索していたことを、暴露したのです。民主党候補指名争いにおいて、サンダース上院議員は民主党全国委員会がクリントン候補の肩入れをしていると指摘してきました。それでも、同上院議員は、民主党全国大会で党内融和を呼びかけて、クリントン陣営に対するダメージコントロールを行いましたが、ウィキリークスの告発は同陣営にとってマイナスになったことは明らかです。
それに加えて、民主党全国大会の最中、クリントン候補のメール問題に対する発言がトランプ候補から飛び出したのです。同候補は、ロシアにクリントン候補が削除した約3万通のメールをハッキングして見つけ出して欲しいと述べたのです。この狙いはメディアが民主党全国大会を連日放送していたので、予想不可能な発言をして注目度を高めようとしたことは明白です。だた、それが現実になり、仮に本選でクリントン候補を標的としたウィキリークス及びロシアによるネガティブキャンペーンが展開された場合、対応に迫られることになります。これまでに経験したことのない非従来型ネガティブキャンペーンに対する対策が必要になるのです。
海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
http://www.asyura2.com/16/kokusai14/msg/807.html