雑感。景気対策と米FOMC
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2016年07月28日 在野のアナリスト
昨日発表された政府の28兆円規模の景気対策、早くも今日には市場は失望して反落です。参院選のときから20〜30兆円と報じられていたこと、及び政府系金融機関の融資に、それに関連する事業をまとめるなど、規模ばかり膨らませたものの、実際の財政出動、真水は6兆円程度で、しかも単年度ではない。実際の景気押し上げ効果は低い、とみられても致し方ありません。政府がこれだけの景気刺激策を発表したのだから、日銀も動かざるを得ない。そう見なされているので、まだ値を保っていますが、実際の財政出動規模がこの程度なら、むしろ日銀が動かなくても責任論は回避される。ただし、市場がもう「ほぼ追加緩和する」との想定を織りこんでいる以上、ゼロ回答は日銀の失敗を意味する。市場との対話ができていないからです。
安倍氏は景気対策のキーワードを「未来への投資」としました。個人的には「未来の借金のための投資」と言葉を付け足したいところです。その借金を引き受ける日銀、市場との対話ばかりか、政府との対話にも失敗しつつある。どちらも過度の期待をかけ、日銀に対応を迫ります。最近、高齢者の孫疲れといった言葉も囁かれますが、日銀も緩和疲れ。つまりもう無い袖はふれなくなっている。みんなが貧しくなっていく、そんな構図が展開されてしまうのか。明日の昼休み、何が発表されるかは要注意なのでしょう。
その前に開催された米FOMCは、ほぼ現状維持。ただし、英国のBrexitをうけて、引き締め姿勢を転じると見られていたため、ややタカ派な印象もうけます。しかし逆にいえば、Brexitがどう米国に影響するか、を正しく論じたものがない以上、それを考慮する必要はありません。確かに英国経済にはいくつか、気になる指標も出ていますが、FRBはまだ軽微とみているフシがあり、それが今回の声明文にもみてとれます。FRBが意識するのは『設備投資の軟調』と『インフレ期待の指標はここ数ヶ月、変化なし』ということ。逆にいえば、それ以外は『緩やかな速度で拡大』とみており、労働市場の力強さがつづけば、インフレ期待も上昇するとみている。これまでと見通しに変化がないことから、利上げの可能性を残した形です。
しかし世界的に『設備投資の軟調』と『インフレ期待の低下』がつづくのに、FRBの見通しは楽観が過ぎるとも感じます。WTI原油価格が、ふたたび40$割れに近づいてきたように、インフレに関しては厳しい状況がつづく。すでに原油は、多少のテロやトラブルで供給が細っても、洋上にあるタンカーには原油が貯蔵され、しかも滞留している状態であって、価格動向には一切変化がない。そうした認識が広がり、上値追いが難しくなりました。労働市場の回復も、賃金の傾向にはあまり影響ない。米国では多少、時間当たり賃金の回復もみられますが、世界的に見て賃金傾向は横ばい。日本などは家計所得がマイナスを示す国もあって、これでは消費が盛り上がるはずもありません。インフレには極めて厳しい環境です。
中央銀行にできること、できないこと。今、不足しているのはこの議論なのでしょう。米国では雇用最大化と物価安定がFRBに与えられた使命です。景気に目配せするのは雇用の最大化が必要だから。景気が悪化すると、雇用環境が悪くなるからみているだけです。翻って日本は、雇用については責務ではない。物価の安定と金融システムの安定が、その責務なのです。
しかし物価は今、0〜-1.0%で安定しつつある。無理やりインフレにしようとするからおかしなことになりますが、この水準で安定するなら、それは1つの結果です。しかも、金融システムの安定は、逆にマイナス金利によって脅かされている。金融機関は収益機会を奪われ、無理やり高金利の外国債などに投資し、高い円調達コストを支払わされる。これでリスク投資などを増やせば、下手をすれば不良債権を溜めこむことにもなるでしょう。それが金融システムの安定か? というと首をかしげざるを得ません。明日、何がでてくるか? それ次第では日銀の存在自体、揺らぐ結果すら想定されてしまうのでしょうね。