為替市場透視眼鏡
2016年7月19日 田中泰輔(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー)
英EU離脱で割を食う日本
苦境下の円高で年末1ドル94円
英国は国民投票でEU(欧州連合)離脱、Brexitを選択した。日本はそのとばっちりを受けよう。Brexitは、米景気の鈍化で世界は回復に向かえるのか、という微妙なバランスを直撃した。
米国の早期利上げ期待はほぼ消えた。それでもドルは多くの通貨に対して上昇しやすい。英ポンドが最も大きく下落し、EUも英国ほどではないがダメージを被り、ユーロも下落しよう。ドルが上がると、新興国・資源国も再び脆弱化しやすい。中国は元をこのドル高に追随させないとみられ、同国からの資本流出再燃による強いストレスを受けよう。それが周辺のアジア諸国を不安定化させやすい。
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日本は円相場で苦境が増幅される。市場の先行き不透明感が増すとき、円は「安全通貨」として上昇しやすい。Brexitショック後も一気に対ドル99円台まで円高が進んだ。他の主要通貨の序列は「ドル>ユーロ>ポンド」で、元も軟化し、円高地合いをうかがわせる。円高は日本株の下落を伴うため、日経平均株価は1万5000円を一時割り込んだ。もはや遠い英国一国の問題が日本経済に与える影響は大きくないなどと高をくくってはいられない。
リーマンショック時も「日本はハチに刺された程度」といわれながら、結局、円高で日本株は米国株以上に下落し、閉塞状況に陥った。今回はそれほどの危機とは考えないが、日本が円高によって割を食う構図は似ている。
日本の輸出企業や機関投資家は、今年2月以降の急激な円高の過程で、ドル下落に備えるヘッジのドル売りで出遅れた。当面は円高が進むほど、彼らのドル売りが追い掛けて、円安へ戻る余地を狭める形が続こう。ドル円がいったん100円割れ水準にとどまると、相場の節目の100円付近には膨大なドル売り注文が積み上がり、相場の戻りを阻む強い抵抗になろう。
安倍政権は参院選で勝利し、日本政治の安定は続きそうだ。しかし、世界的なリスクオフからくる円高を反転させる効力は、巨額の補正予算にも日本銀行の追加緩和にもないだろう。これら施策で円安になっても一時的で、日本勢のヘッジに押し返される可能性が高い。
とはいえ、世界は必ずしも悲観ばかりではない。米国の6月雇用者数が大幅に増加し、年内利上げの可能性も完全には消えていない。米経済が底堅く、年内1回、来年も1、2回の利上げがあるシナリオなら、ドル円はいったん90円台に落ちても、100円台回帰をトライできる。一方、欧州や中国のリスクオフ懸念が続き、米利上げが遠のく弱気シナリオでは、90円台前半を志向しよう。
ただし、市場が強気・弱気のシナリオを見定めるまでには、数カ月以上を要するだろう。その間の先行き不透明感が日本には悩ましく、円高を招きやすい。まずは今年末のドル円予想を94円に切り下げて弱気シナリオに備えたい。
(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー 田中泰輔)
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