焦点:「偽りの希望」か、中国軍病院がうたう高額な未認可治療
7月11日、中国軍が経営する病院が、21歳の末期がん患者に未認可の免疫治療を施していた問題によって、数百もの軍病院に注目が集まっている。写真は、同患者を治療した武警北京総隊第2医院。北京で5月撮影(2016年 ロイター)
Adam Jourdan
[上海 11日 ロイター] - 学生の魏則西さんにとって、奇跡的とうたわれる治療法には抗しがたい魅力があった。珍しいタイプのがんに罹患(りかん)し、余命いくばくもなかった魏さんに対し、北京の有名病院が成功率80%、副作用なしという治療法を提案してきたのだ。病院に言わせれば、理想的な選択肢だという。
ただし、問題があった。軍が経営するその病院は高額の治療費で魏さんに免疫療法を提供したものの、その治療法を行う認可を得ていなかったのだ。治療法そのものも、確かに有望ではあるものの、世界各国のがん専門家のあいだでは、まだ治験段階という位置付けにある。
魏さんは21歳で亡くなった。この事件が引き起こした批判によって、軍が経営する数百もの病院が注目を集めている。
患者、医師、弁護士に対するロイターの取材によれば、軍が経営する国内各地の医療施設が、中国保健省の承認を受けていない治療法を日常的に提供し、宣伝していることが分かった。
国内に数百カ所ある軍病院のうち、約25カ所をロイターが調査したところ、ほぼ5分の4が、何らかの免疫療法をウェブサイトで提案していた。これらの病院のなかには、数千名の患者の治療に免疫療法を用いたと述べているところもある。
中国各地の大手病院で未承認の治療法が簡単に利用できることは、人口14億人を抱え、米国に次ぐ世界第2位の製薬市場である中国の医療制度に、規制上の深刻な盲点があることを裏付けている。
軍当局は、魏さんが治療を受けた武警北京総隊第2医院での失敗を認めているが、他の施設における実状についてはコメントを拒んでいる。武警第2医院はコメントの要請に応じていない。
中国保健省は、免疫療法には大きな可能性があるが、安全性と効果について依然として疑問があるとしている。同省はロイターに対する回答のなかで、免疫療法については、国内における民間の臨床利用を承認したことは一度もないとしている。
免疫療法は「第3類」の治療法に分類されている。すなわち、「倫理上の問題がある」「リスクが高い」「臨床レベルでの検証が必要」という意味だ。
だが保健省は、主として民間向けの医療制度を管轄することになっており、軍病院についてはほとんど監督権限を持たない。軍関係の施設は軍の支配下にある。
医療問題に関わっている弁護士たちによれば、監督権限が軍にあるにもかかわらず市民が頻繁に利用しているという状況ゆえに、通常の国内法が適用されるのか、またその執行のあり方という点でグレーゾーンが生じているという。
軍病院に対する規制という広範な問題については、保健省からコメントは得られていない。中国国防省はロイターの取材に対し、5月の定例記者会見の際に行われた声明を示した。この中で同省は、魏さんの事件において病院に違法行為があったことを認めている。こうした病院に対する監督を改善するとしているが、その具体策については触れていない。
ロイターの検証からは、調査した病院の多くが患者に対して幹細胞治療を提供していることも分かった。しかしこの治療法については、中国ではまだ臨床試験しか承認されていない段階である。保健省は昨年8月、「疾病の治療・予防に向けた幹細胞の研究は急速に進んでいるが、一部の病院が政府の規制に違反してこの種の治療を提供し利益を上げていることを懸念している」との見解を示した。
法律事務所ジョーンズ・デイのパートナーで、上海で活動しているYuan Liming氏は、他にも問題があると指摘する。同氏によれば、軍病院は敷地内で第3者が診療を行うことを認めていることが多い。保健省はロイターに対し、病院が一部の治療を民間の診療所に下請けさせることは違法であり、公共の病院がそのような行為をしていないか調査するとしている。Yuan氏は、「明らかに法律違反だが、よく見られる」と言う。
<最優良施設>
軍病院の一部は、大学病院と並んで、国内で最も優れた医療施設と見なされている。
これらの病院は、武装警察などの準軍事組織によって運営されている。武装警察は強大な権力を持つ中央軍事委員会の指導下にあり、委員長は習近平国家主席である。
「一般論として、軍病院は保健省の管理・監督ではなく、中央軍事委員会の監督に従っている」とYuan氏は言う。
ロイターが取材した軍病院が、免疫療法による治療を提供する特別の許可を受けている様子は見られなかった。武警第2医院もその認可を得ていない。
武警第2医院以外にも、瀋陽軍区総合病院はウェブサイト上で、多くの免疫療法により1600人以上の患者を治療したとしている。同病院の関係者からはコメントを得られなかった。
この他、北京の第302中国軍病院、無錫の第101人民解放軍病院、南京総合病院、第202人民解放軍病院はサイト上で、免疫療法による治療を行ったとしている。
南京総合病院と第202人民解放軍病院には何度も電話をかけたが、応答はなかった。第302中国軍病院と第101人民解放軍病院は、当該の治療の提供はすでに中止しているとし、それ以上のコメントは拒否している。
北京で開業するベテラン婦人科医で、有名な北京協和医院の内科医を務めたこともあるGong Xiaoming氏は、問題の中心は、民間の小規模な診療所が軍病院に利用されていることだという。規制をもっと厳格にしなければ、免疫療法その他の禁止されている治療法は今後も続くだろう、と同氏は指摘する。
複数の弁護士、医師らによると、こうした診療所は独立した事業ではあるが、大きな病院の敷地と免許のもとで診療を行っていることが多く、規制面での新たなグレーゾーンに置かれているという。
「ゲリラ戦みたいなものだ」とGong氏は言う。「数年おきに場所や名前を変えて、また現れる」
<治療費への不満>
魏さんの事件では、病院側は民間の免疫療法を提供するバイオテクノロジー企業、Shanghai Claison社と契約していた。Claison社のコメントは得られず、電話に応対した警備員は「社員は皆休暇を取っている」と話した。
別の患者たちからは、軍病院によって、高額で不必要な治療を受けさせられたという不満が出ている。
鉄鋼商社の受付として働くXuさんと名乗る女性は2014年、ありふれた症例である卵巣嚢腫(のうしゅ)の治療を受けるため、上海の第411人民解放軍病院を訪れた。
医師は赤外線療法を提案し、彼女は3日間の治療を受けた。治療1回あたりの治療費は700元(約1万1000円)で、治療費は最終的に合計8000元となった。
治療に不安を感じたXuさんが別の医師に相談したところ、必要なのはちょっとした外科的処置だけで、治療費は500元で済むと言われた。その治療は成功したと彼女は言う。
「誰でもお医者さんの言うことは信じてしまう」と、25歳のXuさんは言う。「この赤外線療法だと、毎日受けなければならず、毎日何百元も請求される。すべては金もうけのためなのだ」
第411人民解放軍病院は、この件については了解しておらず、他の患者からは苦情はないと述べている。
<深刻な問題>
魏さんは亡くなる前に、武警第2医院と、彼がこの病院を見つけるために使った中国ネット検索大手の百度(バイドゥ)(BIDU.O)について、誤解を招く宣伝と誤った医療情報を拡散したとして告発している。
保健省は、魏さんの死去後に行われた調査により、武警第2医院の「深刻な問題」が明らかになったとしている。同省によれば、民間の医療事業者との違法な提携、違法な宣伝サービス、未認可の臨床技術の使用が判明したという。
コメントを得るために繰り返し電話をかけたが、同医院の応答はなかった。
中国のインターネット規制当局はその後、中国の検索市場で80%のシェアを占める百度が掲載する医療関係の宣伝に制限を設けた。百度のCEOは従業員に対し、利益よりも価値を重んじるよう呼びかけた。
その後に収益予想を下方修正した百度は、規制当局の決定を受け入れ、調査後に課された条件を導入する予定であるとしている。
他の方式による免疫療法と同様に、魏さんに施された「DC−CIK」と呼ばれる治療は、疾病と闘うために患者自身の免疫系を活用する。
魏さんの治療に当たった武警第2医院の公式サイトに保存された論文および投稿は(現在はアクセス不可)、この治療法には十分な実績があると説明している。2013年8月12日付の論文では、成功率は80%以上としている。
また別の論文(2015年9月26日付)では、免疫療法によって、余命6カ月とされていた末期がん患者の命が救われたとされている。別の腎臓がん患者も完治したという。
だが、ロイターが取材した医師たちは、魏さんを治療した病院の主張は、潜在的な効果を誇張しているという。
「未認可である(という点では事実上、現在の免疫療法すべてについて言えることだが)DC−CIKに対する奏効率は低い」と語るのは、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの免疫療法専門家であるアンドリュー・ファーネス氏。
ファーネス氏は、「人生の終わりに近づき、あらゆる治療オプションをやり尽くした患者に、偽りの希望を与えるべきではない」と語った。
(翻訳:エァクレーレン)
http://jp.reuters.com/article/china-hospitals-idJPKCN0ZV129
投資家の望むメッセージ届けたLINE
Robyn Mak
[香港 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 無料通信アプリのLINE(ライン)(3938.T)は、投資家が望む通りのメッセージを届けた。同社株は15日に東京証券取引所に上場し、株価は公開価格を大幅に上回った。14日に上場した米ニューヨーク証券取引所(NYSE)も、終値で公開価格を27%上回っている。同社はメッセージングを他のサービスと組み合わせる事業モデルを誇り、国内ではユーザー基盤を収益につなげることに成功している。これは同業大手、米「ワッツアップ」などと一線を画す強みであり、上場が人気を集めたのも無理はない。
期待値が低かったことも株価の高騰に手を貸した。2年前、LINEは100億ドル強での上場を望んでいた。同社の成長はその後減速。英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる混乱も、公開価格に対して慎重な見方を生じさせた。しかし結果的には日米ともに需要は旺盛。公開価格は、既に上方修正されていた予想レンジの上限に設定された。
LINEは収益源の多用化に成功してきた。同社の通話アプリはコンテンツや他のサービスの「入口」となり、6100万人に及ぶ日本の月間アクティブユーザーはゲームや漫画、音楽、職探し、レストランやタクシーの予約も可能だ。
昨年は売上高11億ドルの大半をモバイルゲームや「スタンプ」の販売で稼ぎ出した。広告収入も力強く伸びており、ジェフリーズのアナリストによると向こう3年間で3倍強に増える見通しだ。メッセージングと音声通話しか提供していないワッツアップとの違いはここにある。ワッツアップの利用者数は10億人を超えるが、親会社のフェイスブック(FB.O)自体、ユーザ基盤を収入につなげる手段を見出せずにいる。
もっとも、LINEにも課題は待ち受けている。成長が減速しているため、ユーザー1人当たりの売上高をさらに増やすとともに、国外市場でも国内同様の成功を収められることを示す必要がある。とはいえ目下のところ、抑制された期待と魅力的な事業モデルが物を言い、投資家をスタートラインに付けさせることができた。
●背景となるニュース
*東京証券取引所に15日上場したLINEは、公開価格を48%上回る4900円の初値を付けた。
*14日に上場したNYSEでは、終値が26.6%高の41.58ドルとなった。
*LINEは日米上場で総額12億7000万ドルを調達し、今年のハイテク企業の新規株式公開(IPO)として世界最大となった。
*韓国企業「ネイバー」(035420.KS)の子会社であるLINEは、公開価格の予想レンジを引き上げ、最終的にレンジ上限の3300円に設定した。関係筋によると、応募倍率は25倍近くに達した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
http://jp.reuters.com/article/line-stock-listing-idJPKCN0ZV0DJ
http://www.asyura2.com/16/hasan110/msg/884.html