日銀の決算と安倍ノミクスの対案
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2016年06月12日 在野のアナリスト
安倍首相は街頭演説で安倍ノミクスについて「野党は批判ばかりだ」「対案をだせ」と述べます。しかし安倍ノミクスを終わらせるには、途方もない労力と時間を要し、かつ景気の下押しをしないように景気対策を打ちつつ、です。対案どころの話ではありません。安倍ノミクスなどという経済政策は、無限につづけられるわけでもない。寿命は様々に議論されますが、日銀の国債買取は2年ともたない、とも言われる。市場に流通する分と金融機関が保有する分を合わせると、日銀の買える国債がない、というのです。そんな事情は日銀の昨年度の決算からも透けて見えます。
日銀の2015年度決算で、総資産残高は8282.05兆円増えて405.65兆円になりました。このうちこのうち国債が79.40兆円増えて349.20兆円です。年間で80兆円のペースで国債を増やしつづけたら、後2年で500兆円越えです。1000兆円の負債を日本が抱えていようと、市場に流通する分と金融機関が日銀に預け入れる分を除くと、その半分以上を日銀が抱えてしまえば、国債の市場が機能不全をおこす。特に、今は日銀が買いとっているのは市場からで、政府発行の国債を直接買い入れているわけではありません。市場が機能不全をおこせば買取もできなくなります。
さらに今回から、債券取引損失引当金繰入額なる損失を日銀は計上し、その額は4500億円にもなる。将来的に債券価格の下落によって生じる損失のために積み立てておく、といったものですが、350兆円のうちの4500億円なんてスズメの涙です。恐らく金利上昇局面を迎えたら、数%〜10数%、金利次第では数十%の損失を抱えるでしょう。通常の金融機関ならばすぐに売ってしまう、という選択もできますが、日銀ではそうもいかないばかりか、500兆円の国債が市場に放出されれば、さらに価格下落圧力が襲います。日銀は売ることもできず、市場の下落を放置せざるをえず、数十兆円の単位で損失をだすことにもなります。
すでにその萌芽は損益にも現れていて、昨年度の経常利益は9510億円減の7626億円。半分以下に減りました。勿論、国債下落に備えた引当金の計上もありますが、もう一つが為替差損を生じたこと。4083億円の損失で、為替取引の引当金を2042億円を取り崩しました。今はまだETF等に損失はみられませんが、株式の下落によりいずれ損失をだすかもしれません。資産規模としては小さいかもしれませんが、いずれETFやREITについても引当金を積んでおいた方がいいかもしれません。そうなると日銀の利益はふきとぶかもしれません。
日銀は剰余金の使い道も、法律によって決まっています。昨年度は3905億円を国庫に返納しましたが、昨年は8000億円程度は返納していたはず。今後、日銀が損失を抱えつづけるようだと、国庫への返納が減る。国の歳入が減り、事業すら立ち行かなくなるかもしれません。そもそも、日銀がいくら国債を抱えても大丈夫、とする新自由主義者の意見は、中央銀行は国債の利回りを国庫に返納する義務があるから、結果的に国にもどってくる、ということが前提でした。それが崩れると、巨額債務が政府を苦しめることにもなります。
そんな日銀は今週、金融政策決定会合を開きます。株式市場では緩和の手法についてかまびすしいですが、三菱UFJ銀がプライマリーディーラーを下りたことが、むしろ緩和の手を難しくしたともされ、日銀との連携プレーだったとする意見もあります。ただその場合、他行などが追随すると話が変わってくる。日銀が国債を大量に保有することにより、引当金を積まなければいけないように、金融機関とてそういう日がくるかもしれません。そのとき、名誉的なPDに留まることが得策か、金融機関も頭が痛いところでしょう。ただそれ以上に頭の痛いのが日銀です。金融緩和のヤメ時が、暗中模索といったところなのです。
日銀の緩和姿勢が打ち止めになったら、安倍ノミクスも終焉です。つまり次の衆院選までは微妙に継続できない可能性もある。さらに『ふかす』のなら、より短命にもなります。実は安倍政権の経済政策の方が、曖昧模糊としていて中身がないのです。この道は、もうすぐ先に崖がみえる。ではその崖に落ちないようにするために、いつ停車し、後退をかけるか? その道を安倍政権は全く示しておらず、その後退がいつ終わり、巡航速度で走りだせるのか? それはまだまだ遠い未来の話、でしかありません。対案どころか、安倍ノミクスの終わらせ方について、与野党ともに考えなければいけない時期に来ているのです。日銀には先に訪れた斜陽、これは日本経済にとって暗い影を落とします。安倍ノミクスそのものが「批判」どころか、もう「悲惨」な状況に入りつつある中、対案の前にすべきことがある、ということになるのでしょうね。