日本の大企業に巣食う「根深い病魔」の正体〜唯一の処方箋は「組織の民主化」しかない! 東芝、シャープ、三菱自動車…
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2016年06月09日(木) 辻野 晃一郎「人生多毛作で行こう」 現代ビジネス
■日本企業の不正・凋落が意味すること
東芝の粉飾決算が発覚したのがちょうど一年ほど前のことだったが、今年は同じようなタイミングで三菱自動車の不正が明らかになった。
その後、東芝は深刻な経営不振に陥り、成長が見込まれていた医療機器子会社をキャノンに売却、白物家電事業も中国の美的集団に売却した。
不正の舞台ともなり、一時、富士通やVAIOとの三社統合に向けた話があったパソコン事業からも撤退の方向だ。株式は特設注意市場銘柄に指定され、歴代三社長は提訴された。決算修正も相次ぎ、もはや世間の信頼は完全に失われた。
三菱自動車も不正発覚で受注が半減したが、こちらは日産自動車の傘下に入ることを決めるまでのアクションは速かった。
しかし、もちろんそれで問題が決着したわけではない。徹底した真相究明が待たれるが、カルロス・ゴーン社長と親交が深く、提携を主導した益子修会長が「留任」という報道などを見ると、不正の背景や責任の所在をどこまで明確にできるのか疑問に思う。
一方、経営不振が続いたシャープは結局台湾企業ホンハイに買収され、トップもホンハイで郭台銘会長を支える戴正呉副総裁に代わることが発表された。
日本を代表する錚々たる大企業に、今、立て続けに起きている一連の出来事は何を物語っているのであろうか。
■テクノロジー主導で起こる大変化
筆者の見解では、これらの出来事は日本の多くの企業に共通する構造的な問題や体質に起因していて根が深い。他企業にとっても決して対岸の火事ではすまされないと言える。
現在、テクノロジー主導で世の中は大きな変化を続けている。インターネット、クラウド、SNS、モバイル、IoT、人工知能等に関する話題はこれまでにもさまざまな機会で何度も取り上げて来た。
デジタルマーケティングや人工知能の活用によってビジネスのやり方を改め、自社の競争力を強化することの重要性については、今や多くの経済人が意識するところだろう。実際にさまざまな手を打つ企業も増えている。
また、民間車を配車するUberや民泊を仲介するAirbnbのような、かつてなかったビジネスモデルで急成長する新興企業が続出している。
「シェアリングエコノミー」や「オンデマンドエコノミー」などの言葉もさかんに使われるようになった。先進国においては、「所有する経済」から「共有する経済」へのシフトは時代の流れでもある。
経済社会の発展に伴って第一次産業から第二次産業さらには第三次産業にシフトしていくという経済学の古典的法則である「ペティ・クラークの法則」に例外はない。インターネットの進化がそのシフトを加速しているとも言える。
これを新たなビジネスの創出機会と捉える人もいれば、既存ビジネスが破壊される脅威として捉える人もいるが、これまでの資本主義経済の流れが大きな転換期を迎えていることへの意識が大きく高まっていることも間違いないだろう。
■社員の自主性や倫理観を尊重するグーグル
しかし一方で、いわゆるネット時代やデジタル時代には、これまでの産業革新の時代とは異なる経営スタイルやワークスタイルが求められており、それを踏まえた企業変革が急務であることについては、日本の大手企業の認識がまだ甘いように感じる。
ネットやデジタルは技術を民主化した。最先端のテクノロジーはクラウド経由で従来よりもはるかに安いコストで利用できるようになった。それに合わせて、本来、企業も民主化しなければならない。
すなわち、従来のような、自社単独の組織力に依存したクローズドでトップダウン型のスタイルからは脱却して、現場の社員一人ひとりの創造性やモラルを最大限に活かした「オープンでフラットな組織」に変容させていかねばならないのだ。
階層や縦割りはできるだけ排し、現場に大幅な権限委譲を行なわねばならない。現場は現場で、受け身体質から脱却して、自らの自主性を大切にした働き方に転換することが求められる。
ネット時代の申し子であるグーグルは「グーグルが掲げる10の事実」をホームページに掲載している。その四項目めは「ウェブ上の民主主義は機能します」であり、六項目目は「悪事を働かなくてもお金は稼げる」である。
社員の自主性や倫理観が尊重され、フラットな組織でスピーディにイノベーションを起こす。不正等の問題も発覚しやすく、いざというときには自浄作用が上手く機能する。
いわゆる「Wisdom of Crowds」が企業の成り立ちの最初から構造的に組み込まれているのだ。
■まずは組織を民主化せよ
私がグーグルの日本法人に在籍していたときに、ステルスマーケティングの形跡がある事例が発見されたことがある。
インターネットの健全で公正な発展を標榜するグーグルでは、ステマは禁止行為だ。この問題は現場の一般社員が発見し、その後、米国本社も巻き込んで徹底した真相究明が行われた。
一担当者の勇み足ではあったが、結果的には、google.co.jpのページランクを落とすという処罰を自らに下した。日本法人の立場では残念な事例ではあったが、このようなケースに自然と自浄作用が機能する健全性を密かに頼もしくも思ったものだ。
グーグルのような会社が、ネット時代以前のレガシーを一切引き摺っていないのに対し、高度成長期の経済発展を担ったような日本の成熟企業は、その時代に最適化された仕組みやワークスタイルをいまだに重く引き摺っている。
線型的な予測に基づいた中期計画や事業計画を立案し、失敗を許容しない。短期的な利益追求が圧力となり、自らの技術資産や組織のサイロに依存し続ける。その結果、自社内を繋ぐことも他社とのオープンなエコシステムを作ることも容易ではない、等々。
いつまでも古い体質を温存し、組織を民主化できずにいることこそが、技術が民主化された時代における成熟企業の不正や凋落を招く根本原因となっているのではないだろうか。
辻野晃一郎(つじの・こういちろう)
1957年福岡県生まれ。アレックス(株)代表取締役社長兼CEO、元グーグル日本法人代表取締役社長。慶應義塾大学大学院工学研究科修了、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科修了。ソニーでVAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオなどの事業責任者やカンパニープレジデントを歴任したのち、2006年3月に退社。翌年グーグルに入社し、その後、日本法人社長に就任。10年4月に退社後、アレックスを創業。