あの大手広告代理店が問題の核心に絡んでいた東京オリンピック 「裏金疑惑」 発覚の深すぎる闇
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東京オリンピック「裏金疑惑」の深すぎる闇
腐敗根絶に日本は協力する気があるのか 安積 明子 :ジャーナリスト
英国のガーディアン紙が5月11日に報じた東京オリンピック裏金疑惑。この闇は、とてつもなく深い。
報じられたのは、130万ユーロ(約1億6000万円)がシンガポールにあるBlack Tidings(ブラック・タイディングス)社の「秘密口座」に振り込まれたという件である。
口座の所有者は「イアン・タン・トン・ハン」といい、この口座を経由して1999年から2015年まで国際陸上競技連盟会長を務めたラミーヌ・ディアック氏へと渡った。もっと詳しく言うと、自身も国際陸連のコンサルタントを務めるパパ・マッサタ・ディアック氏を経由してラミーヌ・ディアック氏へと渡っている。ラミーヌ・ディアック氏の息子がパパ・マッサタ・ディアック氏という関係である。
ラミーヌ・ディアック氏はIOCのメンバーのひとりで、オリンピックの開催地を決定する投票権を持つ重要人物だった。
フランス捜査当局が活躍
最初にこの疑惑の取引を発見したのはフランス国家財政金融検察局だった。同局はロシア選手によるドーピング事件をきっかけに、国際陸連の汚職や資金洗浄を捜査していたが、2013年7月と10月の2度にわたって「東京2020オリンピック誘致」という名目で日本の銀行にある口座からシンガポール所在のブラック・タイディングス社に280万シンガポールドル振り込まれた事実を確認している。
同局はまた、ブラック・タイディングス社がパリで大規模な購買活動を行っていたことも把握し、オリンピック招致に絡んだ金銭要求の情報もキャッチ。2015年12月には予審開始請求を行っている。
いったいブラック・タイディングス社とは何者なのだろうか。
今年1月14日に世界反ドーピング機関(WADA)が発表した国際陸連のドーピング問題に絡んだ大規模汚職疑惑に関する第2回調査報告書にはこう書かれている。
「ヒンディー語でブラック・タイディングスとは、『闇マーケティング』や『黒いカネの洗浄』という意味がある」――。同社の口座はロシア選手のドーピングの隠ぺいに絡む金銭のやりとりに使用されていたのだ。
なぜそのような、いかにも危ない社名の会社が、東京オリンピックの誘致に関わったのだろうか。
ブラック・タイディングス社を紹介したのは電通
5月16日に行われた衆院予算委員会で、民進党の玉木雄一郎衆院議員の質問に対し、馳浩文部科学相は次のように答弁している。
「オリンピック招致は2013年8月が山場だった。日本は(福島原発の)汚染水問題で厳しい状況にあった。招致委員会は最終的にコンサル会社に頼らざるを得なくなると判断し、電通に確認した。電通からブラック・タイディングス社が実績があるとして勧められ、招致員会が契約を判断した。しかしブラック・タイディングス社から請求された金額を一度に全額払うことはできず、2度に分けたと聞いている」
ブエノスアイレスで2020年夏季五輪開催地が東京と決まったのは、2013年9月7日(現地時間)だ。支払いを行ったのは2013年7月と10月。決定をまたいでいることから、2度に分かれている理由は「手付金と成果報酬」に見えなくもない。後述するが招致予算は豊富であり、「一度に全額払うことができず、2度に分けた」という弁明はいかにも苦しい。
前述の世界反ドーピング機関の報告書には、さらに詳しいことが記されている。
「トルコ(イスタンブール)はダイヤモンドリーグや国際陸連に400万ドルから500万ドルを支払わなかったため、ラミーヌ・ディアック氏の支持を得られず落選した。日本は支払ったので、東京開催を獲得した」
この報告書は、ブラック・タイディングス社のイアン・タン・トン・ハン氏についても触れている。「電通の関連会社である電通スポーツがスイスのルセーヌにアスレチック・マネジメント・アンド・サービス(以下AMS)というサービス会社を設立し、国際陸連による商業権利の売買や移管を目的としている。AMSはイアン・タン・トン・ハン氏を2015年の北京大会を含む国際陸連の世界選手権やその他の世界陸上でのコンサルタントとして雇っていた」。
5月17日に開かれた民進党の「オリンピック・パラリンピック招致裏金調査チーム」に提出された資料には、ブラック・タイディングス社の主たる業績として「2015年世界陸上北京大会の招致コンサルタント、マーケティング」「2008年北京オリンピックのホスピタリティサポート」「ボアオ・アジア・フォーラム」「2012年イスタンブール世界室内陸上競技大会」などが記されている。
つまり、ブラック・タイディングス社は、実に華々しい実績をあげていることになっているのだ。
しかし、ブラック・タイディングス社は、本当にそれだけ華々しい実績を持っているのだろうか。シンガポールでの同社の所在地は簡素なアパートで看板もない。欧米のメディアは同社を「ペーパーカンパニー」と報じている。
果たしてペーパーカンパニーなのか。それとも実態を伴ったコンサルティング会社なのか。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の竹田恒和元理事長と樋口修資元事務局長は5月13日に声明を出し、「支払いはMR. TANの会社から受けたサービスに対するコンサルタント料で、新日本有限責任監査法人等により正式に監査を受けた」とし、「正式な業務契約に基づく対価として支払いを行った」「彼らは、アジア中東の情報分析のエキスパートであり、その分野におけるサービスを受け取っている。契約に基づく業務に対する対価の支払いであり、なんら疑惑をもたれる支払いではない」と断言した。
だが民進党の「調査チーム」に出席したJOCの関係者は、玉木座長や山井和則座長代理などからの質問に対しては「守秘義務があり、弁護士から言うなと言われている」と説明を拒否。肝心のイアン・タン・トン・ハン氏に対する調査についても、「我々が接触すれば、隠ぺい工作をしていると批判される」と何もしていない状態だ。
サミットでは「腐敗対策」も大きなテーマだが…
振り返ると東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の予算は、実に豊富だった。2012年度には2億2770万円もの補助金等が入っており、寄付金は23億6653万円にも上る。2013年度には補助金等収入は6億8226万円で、寄付金は25億2445万円。合計58億円以上の補助金や寄付金があった。2016年大会の時のような招致失敗をどうしても避けたかったに違いない。その結果として、闇の部分にまで手を染めてしまったのだろうか。
今月26日と27日に伊勢志摩で開かれるG7サミットでは、主題議題とされる優先アジェンダの中に「腐敗対策」が含まれている。17日の「調査チーム」の会合では、外務省から担当者が出席して、「スポーツの腐敗について共同声明に附則として盛り込む予定だ」と説明した。
「日本で開かれるサミットでスポーツの腐敗について議論すれば、世界の笑われ者になる。我々はあなたがたを責めているわけではない。サミットの前にこれを解決すべく、協力してもらいたい」
山井氏がJOCの関係者にこう語りかけると、関係者は「お願いがある」と言い、涙声で「オリンピック・パラリンピック招致裏金調査チーム」の名称を変更してくれるように求めた。だがここまでくれば、裏金ではないという証明責任は招致委員会を引き継いだJOC自身にあるといえる。
オリンピックの開催という栄光を得ようとして、とんでもない深い闇に足を突っ込むはめになったJOC。果たして無事にオリンピックは開催されるのだろうか。