『殿、利息でござる!』のビンボー脱出大作戦が超奇策
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2016年05月13日 日経トレンディネット
(C) 2016「殿、利息でござる!」製作委員会
今から240年ほど前の江戸中期。仙台藩吉岡宿を舞台に、年貢の取り立てや労役で困窮する宿場町を守るため、藩にまとまった金を貸し、毎年の利子を全住民に配るという「宿場救済計画」を庶民9人が思いつき、実現に向け奔走する姿を描いたのが、映画『殿、利息でござる!』だ。
原作は、2010年に映画化された『武士の家計簿』などの著作で知られる磯田道史の近著『無私の日本人』の一編『穀田屋十三郎』。映画は阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡らをキャストに迎え、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年)以来、『白ゆき姫殺人事件』(2014年)、『残穢【ざんえ】−住んではいけない部屋−』(2016年)など、話題作を撮り続けている中村義洋が監督し、完成した。
宿場町復興の秘策のため、私財を投げ打ち己を捨てる仲間たち
物語は、藩が課す重い年貢により夜逃げが相次ぐ宿場町・吉岡宿を舞台に進行する。この町で造り酒屋を営む穀田屋十三郎(こくたや・じゅうざぶろう)は、人が減り、さびれゆく町の将来を心配していた。そんなある日、町一番の知恵者である茶師・菅原屋篤平治(すがわらや・とくへいじ)から宿場町復興の秘策を打ち明けられる。それは、藩に大金を貸し付け、利息を巻き上げるという、百姓が搾取される側から搾取する側に回る逆転の発想であった。
貸し付けるために必要な資金は千両。今のお金にして3億円もの大金だ。計画がバレれば打ち首確実な中、十三郎とその仲間たちは、ただ町のため、人のために私財を投げ打ち、己を捨てて悲願の千両達成に挑んでいく。
豪華キャストの中、存在感を示した羽生結弦
主人公の穀田屋十三郎役に阿部サダヲ。秘策を思いつく菅原屋篤平治役に瑛太。十三郎の弟で、吉岡宿一の大店・造り酒屋の浅野屋の主・浅野屋甚内(あさのや・じんない)役に妻夫木聡が扮している。他にも竹内結子、松田龍平、草笛光子、山崎努、寺脇康文、きたろう、千葉雄大、西村雅彦らそうそうたる顔ぶれが揃っている。
この豪華キャストの中、話題を呼んだのがフィギュアスケートの羽生結弦の出演だ。本作が映画初出演となる羽生が演じたのは、映画のタイトルにもなっている“殿”、仙台藩藩主・伊達重村(だて・しげむら)だ。劇中ではマゲ姿を披露し、出番は少ないながらも阿部をはじめとするメインキャストとの共演シーンで、見事な存在感を披露している。
無私の心で、町のために頑張る姿に胸が熱くなる
ポイントは、面白おかしくつづられているこの映画が、実話に基づいているということ。原作者の磯田は、本書を書くきっかけとして、ある日、手紙をもらったことを挙げている。その手紙には「映画『武士の家計簿』を見ました。私の故郷、吉岡宿にも、涙なくしては語れない立派な人たちがいました。書いてください」と書かれていた。その後、磯田は東大の図書館でこの宿場町復興を記録した『国恩記』を読み、「読むうちに涙がポロポロこぼれた」と振り返っている。
劇中でも、十三郎らは「この行いを末代まで決して人様に自慢してはならない」という“つつしみの掟”を自らに課し、町のために多額のお金を出しながらも、決して、そのことをひけらかさないという姿勢を貫く。途中、西村雅彦扮する金持ちの両替屋が、この掟を聞いてガッカリするなど笑いを織り交ぜつつ、誰もが無私の心で、町のために頑張る姿には、正直、胸が熱くなってくる。
また、ラスト近くになって、主人公の十三郎の子孫が営む、現在の酒屋が映し出されるシーンがある。いったい、どんな酒屋なのかにも注目だ。
ハラハラドキドキ、この先どうなるんだろうと手に汗握る映画も確かに面白い。この映画はそれとは真逆。しっかりとした物語で観客を魅了し、安心して楽しめる作品だ。笑えて、それでいて、いい話。一緒に見る人を選ばない良作映画になっている。
監督:中村義洋
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子
配給:松竹
公開日:宮城県で先行公開中。5月14日より全国公開
『殿、利息でござる!』:公式サイト
プロフィール
安部 偲
早稲田大学を卒業後、演劇活動を経てフリーライターとなり、映画とネットビジネスを中心に執筆。著書に「映画監督になるということ」(演劇ぶっく社)、「eビジネス用語 早わかり辞典」(日本実業出版社)がある。2001年、有限会社キッチュを設立。現在、映画情報サイト「MOVIE Collection [ムビコレ]」や、アイドル支援サイト「アイドルcheck!」などを運営中。
映画『殿、利息でござる!』予告編
【殿、利息でござる!】あらすじ 羽生結弦・初出演映画〈浜村淳・映画サロン〉2016年3月12日