プーチン工作で隠蔽 クリミアの悲惨な実態
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160426-00010001-wedge-int
Wedge 4月26日(火)12時10分配信
米ワシントン・ポスト紙が、3月19日付の社説で、クリミア住民がロシアの弾圧で苦しんでいる状況を報じるとともに、クリミアに関連した制裁は欧州で解除論があるが、今後とも維持すべきであると主張しています。社説の要旨は、次の通りです。
■クリミアの悲惨な実態
ロシアによる不法な併合から2年、クリミアは欧州で最も孤立した貧しい、そして文字通り暗い場所である。経済は破滅している。11月にウクライナからの送電線がダメになり、200万の住民への電力が切られ、ロシア当局は部分的にしか復旧に成功していない。ウクライナからの輸入は禁止され、薬品は不足し、観光業は活力を失っている。唯一活気ある産業は、政治的迫害、ロシアの占領を疑う人への法的、物理的攻撃などの抑圧である。
ほぼすべての政府はクリミアをまだウクライナの一部と承認している。しかし、クリミアでそうする人は逮捕、迫害、5年までの禁錮に処せられる。家にウクライナ国旗を掲げたウラジーミル・バルーハは有罪になった。2014年、キエフで当時のウクライナ政府(ヤヌコヴィッチ政権)に反対するデモに参加したウクライナ市民は起訴されている。有名な映画監督オレグ・センツォフなど政治的な容疑者は裁判のためロシアに移送された。
クリミアのタタール人(30万人、イスラム教徒でスターリンにより追放されたが、1980年代に帰還)は最もひどい迫害の対象である。自治のための機関、マジリスの議長3人(元、前、現職)は犯罪者として起訴された(二人は亡命、一人は刑務所に収監中)。先月、ロシアの検察は裁判所にマジリスを過激組織として禁止する(タタールのエリート2300人を犯罪人にする効果がある)ように申し立てた。昔のKGBに倣って、ロシア当局は新しいタタール組織を立ちあげ、前の独立系テレビ局の代わりに新しいテレビ局を作っている。タタール人をロシア市民にするために徴兵を実施し、医療その他のサービスを受けるためにはロシアのパスポートが必要としている。その他にロシアから軍人、治安部隊員、入植者が送りこまれている。
先週のクリミア併合の2周年記念日には、米国の国連大使、サマンサ・パワーは「ロシアのクリミア併合は一度きりのウクライナ主権の侵害ではなく、継続的侵害である。新しい常態に慣れてはいけない」と述べた。
欧州は制裁解除圧力が強くなっていて、そういう方向に向かっているように見える。クリミアの住民はプーチンの侵略で苦しんでいる。プーチン政権も苦しむようにするためには、米国の断固とした姿勢と活発な外交が必要である。
出 典:Washington Post ‘Crimea’s ‘new normal’ of repression’ (March 19, 2016)
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この社説の主張は当然の主張です。
国際法の基本規範を侵犯したロシアによるクリミア併合を既成事実として認めることは、国際法の侵犯を常態化することにつながります。日本は、紛争を国際法に沿って解決することを戦後ずっと主張してきました。そういう立場に鑑み、国際法重視を外交の基本とすべきでしょう。
それだけで国益が擁護できるわけではありませんが、日本のような武力の行使に頼る度合いが少ない国にとっては、国際法重視は、日本の国益を守ることにつながります。
■シリア問題に気を取られ忘れられたクリミア
クリミアの状況はあまり報道されていませんが、この社説がいうようにひどい状況です。「ロシアに来れば、年金4倍、公務員給与4倍」という住民投票前のプロパガンダがどれくらい実現されているのかはっきりしませんが、ロシア財政の困難に鑑みると、そうはなっていないでしょう。クリミア経済が大いに潤っていると言う話はありません。
クリミアの電力事情は、ロシアから小型発電機を輸送していますが、主たる送電線が停止する中で、クリミアの電力需要を満たせていません。電力不足は生活、産業に多大の悪影響をもたらしています。
東部ウクライナでの侵略と停戦実施問題、シリア問題など、ロシアが起こす問題に気を奪われて、クリミア問題を忘れさせられるような状況がありますが、忘れてはいけません。
状況が変わらないのに、制裁解除はすべきではありません。
シリア情勢の安定化のためにロシアの協力がいるから、ウクライナ制裁は緩めるべしと言う議論は、シリアでのロシアの冒険主義、アサド政権支援行動に褒美を与えるようなもので、筋違いです。そもそも今、ロシアは、シリアから引き上げつつあります。こういう議論は、ロシアのプロパガンダ工作に影響されて出てきているものと言って間違いないでしょう。