人々を幸福にしないアベノミクスの構造ー(植草一秀氏)
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8th Mar 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
日本経済の低迷が続いている。
2014年度の経済成長率は−1.0%だった。
2015年4月以降の経済成長率はどのように推移しているか
(いずれも実質前期比年率)。
2015年4−6月期 −1.4%
2015年7−9月期 +1.4%
2015年10‐12月期 −1.1%
2014年度の成長率が−1.0%で、
今年度に入ってからの成長率が、−1.4%、+1.4%、−1.1%の推移を示している。
誰がどのように見ても、日本経済は超低迷を続けていることは明白だ。
安倍首相は
「アベノミクスで日本経済は良くなった」
と繰り返すが、
現実のデータはその発言を全面的に否定している。
第二次安倍政権がスタートしたのは2012年12月。
当時と比べて改善したと言えるのは、
株価
失業率
有効求人倍率
だけなのだ。
日経平均株価は2012年11月14日の8664円から2015年6月24日の20868円に上昇した。
ただし、その後は反落して、この2月には15000円を割り込んだ。
失業率は2012年度の4.3%から2016年1月の3.2%に低下した。
有効求人倍率は2012年度の0.82倍から2016年1月の1.28倍にまで上昇した。
安倍政権はこれらのデータを強調して、アベノミクスは成功したと強弁している。
しかし、経済全体の推移を示す実質GDPの数値を見ると、
第二次安倍政権下の日本経済が著しく停滞していることが判明する。
民主党政権下の2009年10‐12月期から2012年7−9月期の実質GDP成長率平均値は+2.0%だったが、
第二次安倍政権下の2012年10−12月期から2015年7−9月期の実質GDP成長率は+0.8%にとどまる。
第二次安倍政権下の日本経済は、民主党政権下の日本経済よりもはるかに劣悪なパフォーマンスを
示しているのである。
安倍首相が自画自賛する株価、失業率、有効求人倍率の、見かけの良さは、
実は日本経済の負の側面を明示するものになっている。
失業率や有効求人倍率の改善は、日本経済のなかで仕事に就く人数が増えていることを意味する。
しかし、その一人一人の所得の状況はどうなっているのか。
労働者の所得を示す経済統計がある。
毎月勤労統計である。
この統計が、労働者の基本給、時間外手当、ボーナスの推移を数値で示す。
この三つを合わせたものを「現金給与総額」と呼ぶ。
この伸び率からインフレ率(消費者物価上昇率)を差し引いた実質所得の伸び率を見ると、
2012年度 −0.8%
2013年度 −1.0%
2014年度 −0.3%
と推移し、
2015年12月 −0.1%
となっている。
こちらの統計は一人当たりの実質所得の伸びを示している。
所得がまったく増えていない。むしろ減っているのである。
だから消費が拡大しない。景気が超低迷を続けているのだ。
この状況下で、消費税率をさらに引き上げれば何が起こるのかは明白だ。
消費はさらに減退し、日本経済は崩落してしまうだろう。
安倍政権は選挙を控えて、2017年4月の消費税再増税の再延期を計画していると見られるが、
とても消費税増税を実施できる状況にはないのである。
安倍政権は増税先送りを自公勢力の選挙に有利なかたちで発表しようとしているが、
問題は、アベノミクスそのものが、
一般国民の幸福にはまったくつながってこなかったという厳然たる事実にある。
労働者の実質所得が減り続ける一方で、失業率低下と有効求人倍率上昇が生じ、
他方、株価が上昇したという現実は、一体何を意味するか。
ここが重要だ。
つまり、いま広がっていることは、低賃金労働での強制労働の広がりなのだ。
一億総活躍
ではなく
一億総動員
である。
出生率の引上げは、
まさに「産めよ増やせよ」の発想に基づくものだ。
介護離職ゼロはの方針は、
「働ける年齢の国民は一人残らず働け」
という政策の意図を具体化したものである。
国民を総動員して低賃金労働を強制しているが、経済全体のパイは拡大していない。
唯一拡大しているのは、大企業の企業収益だけなのである。
経済全体のパイが縮小するなかで、
大企業の企業収益が過去最高を記録しているということは何を意味するか。
ひとつのピザをみんなで分けるときに、
腕力の強い者がみなのことも考えずにたくさん取って食べてしまったら、
残りのみんなに分け与えられる部分は極めて小さくなってしまう。
このなかで、失業率が下がる、有効求人倍率が上がるというのは、
残った少ないピザを分けなければならない人数が増えていることを意味する。
大企業だけはいい思いをしているが、大多数の労働者は、
どんどんどんどん不幸になっているということなのだ。
問題はこれにとどまらない。
日本の税構造が激変しているのだ。
本メルマガで何度か記述しているが、日本の税収構造は過去25年間に劇的な変化を示してきた。
1990年頃の税収は60兆円の規模で、
所得税 27兆円
法人税 19兆円
消費税 3兆円
というものだった。
これが2015年度(当初予算)では、
所得税 16兆円
法人税 11兆円
消費税 17兆円
という姿に変貌した。
所得税の特徴は、
「能力に応じた負担」
にある。
高所得者に課せられる税率は最高で55%(住民税を含む)のに対して、
一般家庭の世帯主においては、年収325万円までは課税額がゼロである。
これが「能力に応じた課税」である。
これに対して、消費税は、所得がゼロの国民と所得が100億円の国民が、
同じ税率で税金を課せられるものである。
富裕者は大歓迎だが、所得の少ない人にとっては、生存そのものが脅かされる税制なのだ。
そして、消費税にはもう一つ重大な問題がある。
消費税増税を価格に転嫁できない零細事業者は、消費税増税分を、自腹を切って負担させられるのである。
消費税は本来は消費者が負担するものであるとされる。
しかし、このケースでは、消費税を負担するのは消費者ではなく、零細事業者ということになってしまうのだ。
先に記述した日本経済の姿は、課税前の状況だ。
課税前の状況において、大多数の一般労働者の所得が削減される一方、
ごく一握りの大資本関係者は、史上空前の収益、所得を得ているということだった。
この所得の分配を調整するのが税制の役割だが。
所得税が半分になり、消費税が5倍、7倍になるなかで、
税制による分配の是正がまったく実現しない状況が強まっているのである。
所得の格差がいまよりは小さかったのに、税制でさらにその格差を縮小させる機能が発揮されてきた。
しかし、いまや、所得の格差が無限大に広がるなかで、
その格差を縮小させる税制の機能が完全に失われつつある。
かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会が、世界有数の「格差大国」、「貧困大国」に転じつつある。
そして、驚くべきことは、中流から下流に押し流されている人々が、
その流れに反対の意思を明確に示していないことである。
その背景には、事実を正しく伝えないマスメディアが実行する情報操作という事情がある。
人々が真実の情報を得れば、判断は変わってくるはずだ。
すべての主権者に真実の情報を伝えて、日本の経済政策の基本路線の転換を図らなければならない。
そのための政治運動が強く求められている。