倒産した芳林堂(C)日刊ゲンダイ
老舗「芳林堂書店」倒産の裏に出版界の壮絶“引き抜き合戦”
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2016年3月4日 日刊ゲンダイ
池袋の本屋として有名だった「芳林堂」が先月末、東京地裁に自己破産を申請し倒産した。負債総額は20億7000万円だ。芳林堂は1948年に法人化。99年8月期は売上高70億5000万円を達成したが、15年8月期は35億8700万円とほぼ半減した。
倒産の引き金を引いたのが書籍取次の「太洋社」だ。芳林堂は太洋社から本と雑誌を仕入れていたが、太洋社は2月上旬に自主廃業を決めた。そこで芳林堂は大手取次への帳合変更を模索したが、引き受け手が見つからなかったといわれる。要するに太洋社の廃業に伴う“連鎖倒産”だ。芳林堂に問い合わせたところ「コメントは差し控えたい」とのこと。出版関係者に裏事情を説明してもらった。
「今回の倒産劇は芳林堂だけの問題ではなく、背景に出版不況による取次の競争激化がある。本が売れないので取次は有望な本屋を取引先にしたい。そのため同業他社が抱えている書店の引き抜きに出ているのです。群馬県の有名チェーン『文真堂』はもともとは太洋社と取引していたが、数年前にトーハンに鞍替えし、今月1日には子会社化されました」
出版界の不況は深刻だ。96年に2兆6000億円あった市場規模が現在は1兆5000億円台に縮小。今年1月の総売り上げは1039億円で前年同月比4.5%減。書籍は540億円で0.1%増だが、雑誌は498億円で9.1%も減った。雑誌のうち月刊誌は398億円で8.1%減、週刊誌に至っては100億円で13.2%減と2ケタの落ち込みだ。
もともと本屋は薄利多売のビジネスだ。単行本と雑誌の利益率はわずか20〜24%。しかも本を並べる作業などのために人件費がかかる。一種の“不況産業”なのだ。「図書新聞」事業企画室室長の諸山誠氏が解説する。
「本屋が一軒もない“無書店地帯”が問題になるほど、全国的に本屋が減っています。飲食店情報などがPCやスマホで読めるようになったことのほかに、週刊誌や月刊誌を支えていた団塊世代のリタイアも大きい。毎週雑誌を買いに立ち寄り、ついでに単行本を買っていた人が遠ざかっているのです。出版業界の市場規模はまだ下げ止まったとはいえません」
本屋の“仁義なき引き抜き合戦”がさらに激化しそうだ。