年金積立金管理運用独立行政法人
安倍総理が「年金減額」を匂わせたGPIF株投資の大損害
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160301-00506017-shincho-bus_all
「週刊新潮」2016年2月25日号 掲載
狸をサイコロに化けさせ、博打で連戦連勝するのが落語「狸賽(たぬさい)」である。翻って、年金の積立金を運用するGPIFのポートフォリオをいじり、株価維持を図ってきたのが“アベノミクス劇場”だった。だが、株価急落と共に年金運用は大損害を被り、挙句、安倍総理が「年金減額」を匂わせる始末なのだ。
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「年金積立金管理運用独立行政法人、つまりGPIFが目下運用する135兆円は、皆さまから頂いた保険料からなります」
と話すのは、GPIFへ運用を委託する厚労省年金局総務課の担当者。
「日本の年金制度は賦課方式といって、現役世代が高齢者への年金を支払って支えている。徴収する保険料を引き上げるなどしていますが、それでも足りない場合には、積立金を活用します。必要に応じて、GPIFから利益確定、現金化しているということです」
担当者の言う活用、すなわち虎の子の取り崩しは2005年から始まっている。
そのころのポートフォリオは国債に6割以上を投下するものだった。それが14年10月、第2次安倍内閣は方針を転換、国内外の株式比率をぐっと高めたのだ。
これが奏功し、その年の運用含み益は15兆円余を記録したが、好事魔多し。翌年の7〜9月期にはチャイナショックの影響を受けて8兆円弱の、加えて今年に入ってからの約45日間で7兆円の含み損を抱えたのである。
むろん、運用損の拡大は年金給付の減額につながる。実際、安倍総理は去る2月15日の衆院予算委員会で、
「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する」
と言及したのだった。
■説明がない
「アベノミクスはデフレ脱却を目指している。インフレでは価値が目減りする国債を減らし、株式を増やすというのは合理的だと思いますが……」
こう指摘するのは、経済ジャーナリストの磯山友幸氏である。
「これまでGPIFを株価維持のために使ってきたのは紛れもない事実で、それが限界に来ている。国内外株式の割合を増やしていく過程だとどんどん購入するだけでよかった。でも、決められた水準まで至った今となっては、やすやすと買い増しはできない。したがって、GPIFが株を下支えするインパクトは弱くなっているのです」
強気相場は悲観のなかに生まれ、懐疑の中で育つと俗に言う。当節の株価下落に、GPIFが歯止めをかける方策はないのか。
「そういうことをやるべきではありません。年金を運用するのは、年金資産を安定的に増やすためであって、株式市場のためではない。そこが本末転倒しているからおかしくなるのです」(同)
GPIFがいわば官邸の傀儡として株を買い支えてきたことについても、こう苦言を呈す。
「国民の年金を株で運用することへのコンセンサスがちゃんと得られているのか否か。それがないまま、安倍内閣はあまりにも拙速に進めてきた。きちんとした説明がないからみな納得できず、損が出ると批判されるというわけです」(同)
冒頭の噺は、シナリオ通りに事が運ばず、破局を迎える。博打だけに場で朽ちた恰好だが、にっちもさっちも行かぬGPIFの株投資の実態を物語ってもいるのだ。
「特集 『日本経済は崖っぷちか?』の客観的検証」より