シャープを待ち受ける過酷な「リストラ地獄」〜ホンハイでも国有化でも、社員にとっては同じこと
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47812
2016年02月09日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■お粗末すぎたシャープの対応
国有化決定という事前報道に反して、シャープは先週(2月4日)の取締役会で、自らの身の振り方を決められず、またしても決断力と当事者能力の欠如を露呈した。
土壇場で、本命とされていた産業革新機構の事実上の国有化案に対抗して、台湾資本の鴻海(ホンハイ)精密工業がこれまでより高い価格(7000億円規模)でシャープを丸ごと買収すると提案したことが、混迷に陥った背景だ。
ホンハイの提案には、現経営陣の続投や雇用を保証するといった、シャープに優しい申し出もあるという。そこで、シャープは機構案即決という既定方針を撤回して、月内の最終決着を視野において両案の精査を急いでいる。
しかし、シャープは2015年3月期に続き、今期も巨額の最終赤字を出すのが確実で、破綻寸前の経営危機会社と言わざるを得ない。最終的にどちらの案を選ぼうと、これまで以上に大胆なリストラを避けては通れない。1、2年も経てば、「シャープ」の名前が残っていたとしても、今とは似ても似つかない会社に変わっているはずである。
関係者の話を総合すると、取材が経済産業省や産業革新機構に偏ったため、メディアの報道が正確性を欠く結果になったようだ。が、それ以上に、シャープの対応はお粗末だった。
一連の騒ぎで先手を取ったのは、政府が9割以上を出資する官民ファンドの産業革新機構だ。機構は1月29日、3000億円あまりを投じ、電機大手シャープの過半数の株式を取得する“国有化”計画を固めた。
この計画には、けじめとして、高橋興三社長らシャープ経営陣を引責辞任させて「経営責任」を明確にすること、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行の主取引銀行2行に新たに3500億円規模の金融支援を呑ませて「貸し手責任」をはっきりさせることなどが含まれていた。
経営者と銀行に責任を負わせることで、機構が3000億円あまりを投入してシャープ本体を事実上国有化すること、つまり政府が大企業を救済することへの批判をかわす狙いが込められていたわけだ。
■報道が二転三転した理由
赤字垂れ流し状態の液晶事業については、本体から切り離し、産業革新機構の傘下にあるジャパンディスプレイ(JDI)と統合する計画や、シャープ本体に残る冷蔵庫や洗濯機といった家電部門などを東芝の一部と合併させて過当競争にある国内メーカーの集約を進めていく計画もあった。
この時点で、ホンハイはシャープに6000〜6500億円程度で同社を買収するともちかけていた。ただ、資金の大半は主力行が保有するシャープの株式や債権の買い取りに充当する計画のため、経済産業省や機構は盛んに「再建のための真水は機構案のほうが多い」とリークしていた。
さらに、シャープには、以前株価急落を理由にホンハイがシャープの第3者割当増資を引き受けなかったことへのわだかまりが残っている。
こうした経緯もあり、大方のメディアは、シャープが2月4日の決算取締役会で、機構案の受け入れを即決する見通しと報じた。
だが、先月30日には、風向きが変わり始めていた。ホンハイが買収金額を引き上げる考えを伝え、ホンハイ案を支持する声がシャープの社外取締役陣から上がったからだ。すると、マスコミは手のひらを返した。『シャープ再建、鴻海が軸に』という報道が飛び交ったのだ。
シャープは、もともとガバナンスが脆弱な会社だ。2月4日の取締役会では、いずれの案を受け入れるか決断できなかった。それどころか、高橋社長は取締役会後の記者会見で、すでに両社から正式な提案を受けて6日が経っていたにもかかわらず、双方の提案を「リソースを割いて、精査している」と明かし、経営のスピード感の無さを露呈した。
メディアの勇み足はまだまだ続く。高橋社長が「リソースをより多くかけているのは鴻海の方だ」と述べたことを根拠に、新聞やテレビが「シャープ、鴻海が買収へ」と報じたのだ。
翌5日午前、ホンハイの郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が大阪市のシャープ本社を訪れた際、記者団に「午後には最終形のサインをしたい」と話すと、「買収合意へ詰め シャープ、鴻海トップ会談」と報ずる有り様だった。最終合意を前提に、ホンハイが従業員100万人を擁する巨大企業であることや、郭董事長が1代でその巨大企業を築いた台湾経済界の立志伝中の人物であることを大きく伝えるメディアもあった。
しかし、実態は、シャープに早期決断を迫る郭董事長にメディアがまんまと乗せられただけというべきだろう。会談後、郭董事長は「優先的に交渉する権利を得た」とトーンダウンしたが、シャープは「優先交渉権を与えた事実はない」と否定する有り様だった。
■ホンハイ案は、決してバラ色ではない
今後の展開で注意すべきは、メディアがまるでバラ色の救済策のように報じているホンハイの買収が、決してバラ色ではないということだろう。
シャープが4日に公表した決算をみると、赤字の垂れ流しに一向に歯止めがかっていない。第3四半期までの累計の最終損失額は1083億円と、前年同期(72億円の赤字)より遥かに深刻だ。年度の4分の3を経過した時点で、通期で2223億円という巨額の最終赤字を出した前期の15倍の赤字というのは、深刻な話と言わざるを得ない。今年度も最終赤字になれば、過去5期で4度目の最終赤字である。
確かに、ホンハイの買収は、機構の国有化計画と違い、シャープの解体を前提にしていない。現経営陣の続投や雇用確保を約しているばかりか、機構のような追加の金融支援も求めていない。機構案に比べて、経営や銀行が受け入れやすいプランなのは事実である。
だが、これまで明らかになっただけでも、解体しないとしながら太陽電池部門は売却するし、雇用確保といっても40歳代以上の中高年は対象外といった話が飛び出している。1〜2年後、シャープにすれば、こんなはずではなかったという話が次第に増えるはずである。
ホンハイのシャープ買収の狙いも明らかになっていない。アップルのiPhone製造で知られるように、ホンハイのビジネスモデルは自社ブランドの消費者向け製品を持たず、製造だけを請け負うという、日本ではあまり馴染みのないものだ。
今後も、そのビジネスモデルを守り、シャープ買収で製造能力の一段の拡充や、製造できる製品の多様化を狙っているのであれば、シャープのブランドや独自技術開発は無用の長物になるだろう。切り売りの対象になっても不思議はない。
一方、ホンハイ自身がシャープブランドを使って消費者向けの市場に参入するつもりならば、ブランド管理はホンハイに移り、シャープは当事者能力を失うことになる。
そして、結局のところ、ホンハイの買収を受け入れても国有化に頼っても、待っているのは、シャープ自身がこれまで独力で成し遂げられなかった厳しいリストラ戦略である。
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