尾木直樹オフィシャルブログより
バス事故で教え子を亡くした尾木ママが「あれは事故ではなく事件」「小泉政権の規制緩和のせい」
http://lite-ra.com/2016/02/post-1959.html
2016.02.08. 尾木ママ、バス事故は規制緩和のせい リテラ
年明け早々、15名の命が奪われてしまった軽井沢スキーバス事故。バス運行会社である「イーエスピー」では、運行指示書の不備や、法定の下限を下回る価格で受注していたことなど問題点が次々に発覚しているが、このバス事故を〈事故などではなく「事件」という気がしてなりません〉と訴えているのは、教育評論家の“尾木ママ”こと尾木直樹氏だ。
大きく報じられたように、今回のバス事故では、法政大で教鞭を執る尾木ママのゼミ生4名が犠牲になっている。そのため尾木ママはマスコミの取材に対しても悲痛な心境を語ってきたが、現在発売中の「週刊文春」(文藝春秋)2月11日号の連載コラムでは、バス事故の構造的な問題に踏み込んでいる。
スキーバス事故が起こってしまった構造的な問題──それは小泉内閣による「規制緩和」だ。
今回のバス事故を起こした運転手は65歳だったが、バス事故において65歳以上の高齢運転手だったケースは〈おととしまでの十年間で二倍以上〉。軽井沢の事故のすぐ後の17日に兵庫県で起こった、観光バス運転手が走行中に意識を失った件では運転手の年齢は70歳、つづけて20日に乗客24名が怪我を負った東京・大田区のバス事故でも運転手は58歳。そうしたことから尾木ママは〈労働条件が厳しいバス運転手の仕事には、若者が寄り付かなくなっているのかもしれません〉といい、〈その背景にあるのが、二〇〇〇年の規制緩和〉だと述べるのだ。
ご存知の通り、小泉純一郎・元首相は「聖域なき構造改革」をスローガンに掲げ、さまざまな分野で規制緩和を行った。バス会社についても、それまでは事業参入も免許制だったが、規制緩和によって認可制へと変更。新規参入が増加し、そのため価格競争が勃発した。尾木ママはこうした規制緩和による変化が、事故につながっていると指摘する。
〈自由競争を導入したことで運賃もグンと下がり、いい面もあるのでしょうが、コスト削減による低運賃化、激務化から運転手不足。安全への配慮を怠ってしまったのではないかと考えてしまいます〉
このような指摘の声は他のコメンテーターや識者からも挙がっているが、しかしこれはバスだけに限った話ではない。それは、バス業界と同じように規制緩和が行われた、タクシー業界でも同様の問題が考えられるからだ。
タクシー業界も00年に道路運送法が一部改正され、規制緩和が実施されたが、バスと同様に新規参入する会社が急増、タクシー台数は飛躍的に増え、運賃の値下げ競争が勃発した。『公共交通が危ない─規制緩和と過密労働』(安部誠治/岩波ブックレット)では、タクシー業界の「規制緩和がもたらした結果」を、このように解説する。
〈この業界で働く人々が最低限の生活さえも維持できない、遵奉精神のあるまともな経営は立ち行かない、そして、交通事故が大幅に増えた、という現実である。タクシーの場合、鉄道や航空機のような大規模事故にはならないために目立ちはしないが、不幸な事故は日々積み重ねられており、輸送の安全は確実に蝕まれている〉
同書が発行されたのは05年であるためデータは古くなってしまうが、だが現在も問題は大きく変わってはいない。昨年発売された『潜入ルポ 東京タクシー運転手』(文春新書)を執筆したノンフィクション作家の矢貫隆氏も、「2013年に東京でタクシーが起こした人身事故件数は4157件。2000年の7226件からは減っていますがバブル時の1989年の3151件と比べると上回っています(警視庁調べ)。全自動車の事故数に占める割合も、1989年の5.8%から2013年は9.9%と増加しています」(「東京経済オンライン」矢貫氏インタビューより)と話している。13年の国土交通省の資料「事業の種類別の重大事故発生状況」でも、タクシー・ハイヤーの死傷状況は828 人で前年に比べ 44人増となっており、全体の交通事故数・死者数ともに年々減少傾向にあることを考えると、タクシー事故の増加は数字以上に際立っている。
また、前述した『公共交通が危ない』では、〈タクシーにおいては、規制緩和論者が主張する「市場原理による需給均衡」はもたらされないのである〉と警鐘を鳴らしているが、これはバスも同じこと。参入者が増え、低価格競争に晒された結果、運転者の健康管理や適性問題、さらに安全面への対策にかかる時間やコストが削られ、それが重大事故につながっていっているのだ。
無論、バスやタクシーだけではなく、こうした構造的な問題は他分野でも起こっている。事実、CoCo壱番屋の廃棄ビーフカツ不正転売問題では、セブン&アイ・ホールディングスやローソン、イオンなどの大手企業のプライベートブランドの廃棄商品も横流しされていたことが発覚したが、これもまた食品業界の苛烈な価格競争によって引き起こされた事件といえよう。
尾木ママは前出の連載コラムで、〈今回の事故だけでなく、利益を追求するあまりひとりひとりの人間が置き去りにされているように感じます。日本全体がどこかおかしくなってきている〉と見解を述べている。新自由主義が経済だけでなく人命さえ脅かす──いまこそ本質的な議論が必要なのではないだろうか。
(水井多賀子)