「シェール革命」で世界はこう変わる! 40年ぶり米原油“輸出解禁”は日本にとって「吉」
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2016年01月17日(日) ドクターZ 週刊現代 :現代ビジネス
ついに今年から、アメリカの原油輸出が解禁された。アメリカは世界一の原油産出国であるだけに、40年ぶりのこの決定がどんな影響を及ぼすか、世界中の注目が集まっている。
そもそも、なぜアメリカは原油輸出をしてこなかったのか。実は、まったくしていなかったわけではない。アメリカの原油輸出は「許可制」だったのだ。
許可制になったきっかけは、'73年の中東紛争だ。紛争勃発によって、アラブ諸国はイスラエル支持国に対する原油輸出を禁止。この禁輸措置によって、アメリカ国内は、ガソリンスタンドに車が列をなす一大「石油ショック」に陥った。そこで、アメリカ議会は'75年、国内産原油の輸出を原則禁止し、許可制を敷いたのである。
紛争が落ち着いた後も、この輸出規制は存在し続けていた。今回の決定は、これを取っ払うというものだ。
規制撤廃の背景には、近年目覚ましい成長を遂げている、アメリカのシェールオイル開発がある。「シェール革命」とも呼ばれるこの開発の結果、アメリカは'14年に、サウジアラビアを抜いて世界最大の原油産出国となった。つまり、国内産の原油に余裕ができたために、輸出に打って出たというわけだ。
実際、近年のアメリカの原油輸入はすでに減少傾向にあり、原油輸出は増加傾向にあった。
'14年、アメリカの石油および同製品の輸入額は約3300億ドルで、輸出は約1300億ドル。急速に、輸入・輸出差額が減少している。今回の原油輸出解禁によって、あと数年でアメリカの輸出入が逆転する可能性は高い。
これで、世界の原油市場はどう変わるか。
現在の原油輸出御三家は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、そしてロシアである。ただでさえ原油価格が下げ止まりしているいま、アメリカの輸出市場への参入が本格化すれば、原油価格はさらに低迷するだろう。これは、原油輸出に依存するロシアにとって大きな痛手となる。
それだけではない。アメリカの原油輸出解禁は、世界情勢にも大きな変化をもたらすはずだ。
かつてアメリカは、中東紛争によって石油ショックに陥り、原油輸出禁止にまで追い込まれた。その経験があるからこそ、アメリカはこれまで、原油の安定供給を確保するため、たびたび中東諸国に軍事介入してきた。
だが、いまや原油産出量は輸出ができるまでに増加。当然、中東への依存度は大幅に減少し、今後は介入するかしないか、自由に判断できるようになる。
もちろん、ロシアへの対抗上、中東から完全に手を引く可能性は少ない。だが、アメリカのスタンスの変化は、中東の平和に間違いなく大きな影響を与えるだろう。
また、日本にとっても決して悪いことではない。中東介入が少なくなれば、当然、アメリカはアジア重視になる。原油調達先も多様化し、資源エネルギーの安定化にもつながる。しかも、原油価格の急上昇は、当面起こりそうもない。
日本にとっては原油輸入に悩まされずに済む、またとない機会。今後のエネルギー問題について、じっくりと考える契機とすべきだろう。
『週刊現代』2016年1月16・23日号より