ロンドンでも空爆反対のデモも Press Association/AFLO
テロ問題研究者「日本はイスラム国に手を差し伸べてはならぬ」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160114-00000011-pseven-int&p=1
SAPIO2015年2月号
イタリア人のテロ問題研究者であるロレッタ・ナポレオーニ氏は、資金調達面からテロ組織を読み解く。著書『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』は日本でもベストセラーになった。
現状の「イスラム国」に加え、「ヨーロッパのイスラム国」というふたつの構図が存在する──と語る彼女の分析を経ると、「イスラム国」も違った容貌で見えてくる。
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世間が認識している「イスラム国」のイメージには、大きな間違いがある。
私の知る限り、「イスラム国」を支持する人々がシリアやイラクの中には少なからずいる。そもそも、アメリカが発信している情報に、私は疑念を抱いている。ニューヨークタイムズ紙が掲載したイスラム国内での女性の奴隷や虐待に関する記事も、100%真実であるかは疑わしい。
2015年10月、「イスラム国」の蛮行を告発していたシリア人活動家2人が喉を切られている遺体が発見されたと米メディアは報じた。しかし、実はこの遺体が見つかったのはトルコ領内である。本当に「イスラム国」の犯行なのかどうか。アメリカは「イスラム国」をまるで悪魔かのように報道している。
だが、これこそが「イスラム国」にとっては、プロパガンダとして逆利用できる材料となっている。自らを悪魔と名指しする人間こそ、悪魔に違いない、と。
ある情報網によると、「イスラム国」は、現在、欧米の爆撃により想像以上の被害を受けているという。だが中東の「イスラム国」が弱っても、「ヨーロッパのイスラム国」は依然存在する。悪魔=欧米への憎しみは激化している。
この状況が続けば、今後半年間で、欧米諸国へのテロ報復はさらに増えるに違いない。「イスラム国」を支持する若者は、アメリカよりもヨーロッパに多く散在するため、むしろヨーロッパが標的になるのではないか、と私は思う。
ヨーロッパはいま、行き場を失っている。欧州外交は意気投合していない。ロシアへの制裁を科し、お互いの問題解決を先延ばしにしたまま、ヨーロッパ各国が爆撃を続ければ、「イスラム国」はさらに暴走していくだろう。欧米、特にヨーロッパは、対外政策の泥沼化から抜け出せないでいるのが現状なのだ。
はっきり言っておこう。日本は、この問題に手を差し伸べてはならない。なぜアメリカの脛をかじっていかねばならないのか、私には理解できないが、日本は独立国家として進むべきだろう。
現時点で重要なのは、対症療法的に「イスラム国」を攻撃することではない。中東、つまりシリアとイラクの安定を見据えて各国が慎重に行動していかなければ、過激派によるテロは止まないということ。
「イスラム国」にとって、カリフ制(※注)の実現は、「終着点」ではなく、「聖戦の出発点」であるということを肝に銘じておくべきだ。
※注/カリフはアラビア語で「後継者」を意味する。「イスラム国」の指導者・バグダディは、ムハンマドの後継者=全イスラム教徒の最高指導者を宣言した。
●ロレッタ・ナポレオーニ/1955年ローマ生まれ。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で国際関係と経済学の修士号取得。北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタントを務める。「イスラム国」については早くから注目し、歴史上初めてテロリストが国家をつくることに成功するかもしれない、と発言していた。主な著書に『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』。
●取材/宮下洋一