ISが米英仏のアセットという話はともかく、ISの原油密売を通じた資金獲得について、タンクローリーや大型トラックを空襲し絶てばいいという田岡氏の“軍事オタク”ぶりにはおぞましさを覚える。
軍用機を飛ばし原油運搬車両を攻撃し爆破炎上させるムダとCO2排出量増加の問題はおくとして、運転手はほぼ死に至る。
ISの資金源を潰すという目的なら、ローカル通貨で決済されるIS支配地の需要を満たレベルの取引を潰しても意味はなく、量が大きくドルやユーロなどの国際通貨を手に入れることができる国際取引を潰すことに意味がある。
そうであるなら、軍用機を飛ばしで原油運搬手段にミサイルをぶっ放し、人を殺し汚染をまき散らす軍事行動ではなく、“買い手”を締め上げ排除すれば済むことである。
むろん、親ISが“買い手”なら難しいが、半ば公になっている“買い手”は、反ISを標榜しているトルコないしトルコ経由の原油を買えるトルコ政府公認のX(たぶん石油メジャー)である。
本気でISの資金源を絶ちたいと思っているのなら、米国の脅迫的“鶴の一声”で、そのような“買い手”を排除することができる。
それでもちょこまか動く組織があるのなら、トルコ−シリア国境の封鎖で潰す。(人と違って原油運搬手段の“無断”越境は容易に封じ込める)
そこまでやっても密売がつぶせないという段階で初めて、原油運搬手段を空襲で破壊するという手立てが浮上する。
※追記
田岡氏は、「米国財務省は、イラクが旧フセイン政権時代に経済制裁をかわしてトルコ経由で石油を密売し、密売システムが確立した、としている」と書いているが、経済制裁を受けていたフセイン政権時代の原油取引は、なぜか秘匿されていた「石油食糧交換計画」というUNお墨付きのもので“密売システム”ではない。
しかも、「石油食糧交換計画」は、原油の売り手でありイラクに市況より20%ほど安い価格を強いることで膨大な利ザヤが生まれる仕掛けになっており、石油メジャー・アナンUN安保理事務総長(当時)の子息を含むUN官僚のみならず、米国政権の活動裏資金として巨額のお金が動いていた。
★ 関連記事及び参照投稿
「【「石油食糧交換計画」巨額汚職】アナン事務総長の息子が基金の監査担当! アナンの側近も行方知れず [日刊ゲンダイ]」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/1037.html
「【「石油と食料の交換プログラム」一大スキャンダル】イラク:旧フセイン政権、違法収入101億ドル [毎日新聞]」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/740.html
「旧イラク政権が1兆円強の不法収入=石油・食糧交換計画で−米会計検査院 [時事通信]【読売や朝日という主流派メディアは?】」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/753.html
「旧フセイン政権、国連計画利用し不法収入1兆円余 [CNN]【国連の不正や米国側の疑惑に触れず】」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/930.html
「国連事務総長、イラク支援策の不正疑惑で第三者の調査求める [ロイター]【なぜかこの問題を無視する主流派メディア】」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/844.html
「表のカネは米国(傀儡政権イラクを含む)へ、裏のカネはブッシュ派・フセイン派・国連高級官僚へ」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/851.html
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ISのタンクローリー攻撃にやっと踏み切った米国の苦しい裏事情
ダイヤモンド・オンライン 12月14日(月)8時0分配信
自称「イスラム国」(IS)の最大の資金源は支配地で出る石油の密売だ。そのルートを断つのは簡単で、砂漠を走るタンクローリーやドラム缶を積んだ大型トラックを戦闘機、攻撃機の機銃掃討で壊せばよい。
米国防総省は11月13日に起きたパリでの同時多発テロ事件後の11月23日、「米軍機が11月15日と21〜22日にシリア東部と北部ではじめて石油輸送トラックを攻撃、399輌を破壊し、ISの資金源に大打撃を与えた」と発表した。今回が「はじめて」というのは驚きだ。
米軍は昨年9月23日から1年以上もシリア領内のIS拠点に航空攻撃を加えてきたのに、ISを弱らせるのにもっとも容易で有効なタンクローリーの破壊はこれまでしていなかったのだ。ISの勢力が意外に衰えなかった主因は多分これだ。シリアを巡る米国、トルコ、ロシアなどの複雑怪奇な関係をこの問題は象徴している(シリア内戦の経緯については11月25日配信の本欄を御参照ください)。
米国財務省の推計では、ISは昨年毎月4000万ドル(約50億円・年間で約600億円)の石油密売収入を得ていると見られている。この他の資金源としては支配地域住民からの徴税が年に数億ドル(数100億円)、身代金が年に2000万ドルないし4500万ドル(約25億円〜55億円)、外国からの寄付が年に5000万ドル(約60億円)以上とされ「史上最も裕福なテロ集団」と言われている。
だが、アラブ諸国の富豪の寄付は減り、身代金収入も一時的で不安定、税収も支配地からの国外難民・国内避難者の大量流出で減少している様子で、石油密売の収入がIS資金源の過半を占めている。米国財務省は、イラクが旧フセイン政権時代に経済制裁をかわしてトルコ経由で石油を密売し、密売システムが確立した、としている。
米軍は11月15日からタンクローリーなどの攻撃をはじめて行い、その作戦を“Operation Tidal Wave II”(巨浪作戦2号)と名付けた。第2次大戦中の1943年8月1日、ドイツの第1の石油供給源だった同盟国ルーマニアのプロエシュチ製油所を、リビアのベンガジから発進した米軍のB24爆撃機177機が襲った大作戦“Operation Tidal Wave”にちなんだものだ。実はこの作戦では54機のB24を失ったが製油所に対する効果は一時的で、すぐ復旧した。だが、米空軍では勇壮な大作戦として伝説化されていて、その名を継いだところにIS撃滅への米軍の気負いが示されている。
● これまでの米国のシリア空爆は 「警備員が裏口を開けておいた」ような形
今回の攻撃はパリでの同時多発テロ事件の2日後の11月15日に行われ、シリア東部のアブカマル(イラク国境の西約10km)付近でタンクローリー116台を破壊、さらに21日から22日にかけてシリア北東部ハサカ(トルコ国境の南約100km)などで283台を破壊した。
有志連合司令部の報道官S・H・ウォーレン米陸軍大佐は「ISの収入の半分以上が石油の売り上げで、1日平均100万ドル(約1.2億円)だ。一連の航空攻撃でISに大打撃を与えた」と戦果を誇った。破壊した約400台以外に、残ったタンクローリーが600台ほどあるとしても、空から丸見えの砂漠の道路をタンクローリーで走ったり、石油積み込みを待って駐車場に並ぶのは今後は極めて危険になる。密輸トラックの運転手は「命あっての物種」で、ISによる石油密売が激減するのは確かだろう。
だが、米軍がその攻撃の効果を強調すればするほど「なぜこれまでそれをやらなかったのか」との疑問が生じる。
私は昨年9月に米軍などがシリア領内のIS拠点の航空攻撃を始めた際、「タンクローリーを壊すのは容易で、それをすればISの資金源の大半を断てる。他のゲリラと異なり地元に深く根を下ろしていないISは衰弱する」と説いていた。誰が考えてもきわめて簡単で有効な戦術だから、米軍などがとっくにやっているはず、と思っていたが、今回がはじめて、と知って驚いた。まるで銀行の警備員が裏口を開けておいたような形だ。米国などが1年以上航空攻撃を続けても“イスラム国”が衰弱しなかったわけがやっとわかった。
それをしなかった理由として米国防総省当局者は「民間人であるトラック運転手を死傷させるおそれがあったため」と説明し、「今回は事前にビラを撒いて警告した」とも言うが、ISの“首都”ラッカなどの攻撃でも住民に多くの死傷者が出ているし、戦時に石油を運ぶトラックの運転手は、潜水艦に狙われやすいタンカーなど商船の船員に似ており、都市の住民のような純粋な民間人とは異なる。
米国などがタンクローリー攻撃を控えた理由としては、
(1)以前からシリアのIS拠点攻撃を行っていた米国、豪州、カナダおよび親米派のイスラム教スンニ派諸国(トルコ、ヨルダン、サウジアラビアなど)は「アサド政権打倒」を唱えていたから、アルカイダに属する「ヌスラ戦線」とならぶシリアの二大反政府勢力の主体であるISの命脈を本気で断とうとはせず、目こぼしをしていたのか。
(2)ISの石油密売先は米財務省が言うようにもっぱらトルコであり、トルコの闇商人のタンクローリーが石油買い付けにシリアに通っていたならば、それを攻撃し、トルコ人運転手を死傷させれば、シリア政府に対する反乱の支援でのトルコの協力を得にくくなる。米国は反政府部隊の訓練や兵器の引き渡しなどをトルコで行っていた。また昨年9月から今年1月まで、トルコ国境に近いシリアのコバニの町でクルド人住民とIS部隊が争奪戦を展開していた際には、イラクのクルド自治区から救援のクルド兵をトルコ経由でコバニに送ろうとし、クルド人と対立するトルコを説得して通過を認めてもらったこともある。このため、トルコとの対立を招くようなタンクローリー攻撃はためらわざるをえなかったのか、
の2点が考えられる。おそらく(2)の方が主な要因ではなかったか。
ところがロシアが9月30日からシリアのIS、ヌスラ戦線など反政府勢力への攻撃を始め、9月27日からフランスもシリア領内のIS攻撃に参加し、11月13日のパリでのテロ事件後、攻撃を強化する情勢となっては、米国も何かはっきりした戦果をあげないと指導力が低下するし、国内でもオバマ政権批判が高まる。
1年以上航空攻撃を続けてもISは弱らず、一部では支配地を拡大さえしている。米国が支援した「自由シリア軍」は消滅に近い状態だ。その代わりに「新シリア軍」を作ろうとし、5400人を2016年5月までに募集する計画だったが、応募者は200人に満たず、トルコで訓練した54人を7月にシリアに戻したが9月には4、5人しか残っておらず、第2陣の70人を9月に帰国させるとすぐヌスラ戦線に降伏、兵器、車輛を引き渡すありさまで、米国はその計画をあきらめた。
こんな失敗続きではシリア内戦の停戦を目指す関係国会合でも米国の発言権は弱くなるから、米国としてはもはやトルコ人の感情などに構っておれない。そこであえてタンクローリー攻撃に踏み切ったのだろう。
● 米国のロシア批判は 「アルカイダを攻撃するな」も同然
11月24日にはトルコ空軍のF16戦闘機がシリア北西端のラタキア付近でロシアの戦闘爆撃機Su24を撃墜し、救出ヘリコプターの乗員を含め2人が死亡した。シリアとトルコの国境が入り組んだ地域で対地攻撃を続けていれば、ロシア機がトルコ領空をかすめることはありそうだが、10数秒領空を通り抜けた外国機を撃墜するのも乱暴な話だ。
この背景にはロシア機の対地攻撃がISだけでなく、ヌスラ戦線やそれと共闘する反政府勢力に向けられていることがある。その航空支援下でシリア政府軍がヌスラ戦線が占拠しているイドリブの町を奪回しようとしているから、反政府勢力を支援するトルコはシリア領内で多数のトラックをロシア機に破壊されて焦立ちを強めていたこともあるだろう。
米国は「ロシアがISだけでなく、その他の反体制勢力も攻撃している」と非難するが、「IS以外の反体制勢力」とはアルカイダに属するヌスラ戦線を中心にそれに同調する他の27もの雑多なイスラム武装集団が加わった「ファトフ軍」が主で、米国が言う「穏健な反政府勢力」とは具体的にどの集団を指すのか定かではない。米国の非難は「アルカイダをロシアが攻撃するのはけしからん」と言うのと同然だ。
内乱に際して、他国が政府側を支援し、治安の回復、国の統合の維持を助けるのは適法だが、反徒に武器や資金を提供したり、訓練を施すのは「間接侵略」に当たる。これはもし日本で騒乱が起き、他国が暴徒に武器などを提供することを想像すればすぐ分かることだ。ロシアがシリア政府を支援してISとヌスラ戦線などを区別せず、反政府軍を攻撃するのは非難しえない。
ロシアはトルコが自国機を撃墜したことを「テロリストの共犯に背後から撃たれた」と非難し、トルコがISの石油密売の相手方であることを強調し、トルコはそれを否定している。トルコ政府自身がそれをしているとは思えないが、米財務省のISの資金源に関する調査報告などから見て、密輸を十分に取締っていないことはありそうに思える。
ロシアはトルコへの旅行の制限や農産物輸入の停止など部分的経済制裁を行ったが、石油や天然ガスの輸出停止など全面的な禁輸は自国への打撃が大きいから、それに至る公算は低いだろう。
● アサド政権下のシリア政府軍に IS討伐させる以外にない
いずれにせよ、米軍による「巨浪作戦2号」や、ロシアとの石油密売論争の結果、トルコ経由のISの石油密売はほぼ停止するだろう。ISの資金は涸渇し、地元民が外敵に対し抵抗するゲリラというより、給料目当ての傭兵集団の性格が濃いISは弱体化することになりそうだ。
一方、米国では「アサド政権はISと裏でつながっており、ISから石油を買っている」との説が出ている。ISが支配地で産出した石油を全て密輸出しているわけではなく、一部は簡易な製油所で精製し、自分達が使ったり支配地の住民に販売もしている様子だ。闇商人がそれを仕入れて、政府側の地域で売ることもありそうだが、シリア政府がその石油を買ってISの資金源になっている、との説は極めて疑わしい。シリア政府にとって最大の危険はイラク、シリアで推定3万人の兵力を有し、攻撃的なISであり、兵力約1万2000人と推定される「ファトフ軍」や存在すら怪しげな「穏健派反政権勢力」ではあるまい。もしシリア政府がISを育成しヌスラ戦線と噛み合わせようとすればISに政権を奪われかねない。
この話はイラク攻撃の前、米国で流布したデマ「9.11事件を起こしたアルカイダとイラクのサダム・フセインはつながっている」を想起させる。フセインは偶像崇拝を忌むムハンマドの教えを無視して、自分の銅像や肖像画を国内にあふれさせたり、顔を丸出しにした女性兵士に銃をかつがせてパレードをさせたりしたから、イスラム原理主義者から見ればとんだ罰当たりで「アルカイダの暗殺リストの上位に入っていた」という話もうなずける。
常識があれば「フセインとアルカイダが共謀」という説はすぐウソと分かるはずだが、米国人には自国は善玉、逆らう者は悪玉との信念が強くあり、悪玉同士は仲間、との宣伝に引っ掛かりやすいようだ。
前回(11月25日配信)でも述べたが、シリアからの難民430万人(他に国内避難者760万人)はトルコ、ヨルダンなど周辺諸国や欧州各国にとり極めて深刻な問題となっている。その解消のためにはシリア内戦の早期停戦が不可欠で、シリア政府が倒れそうな情勢ではないから、西欧諸国も米国も「暫定的に」と言いつつ、アサド政権の存続を容認し「穏健な反政府派」との和解を求める方向に動いている。
だが反政府派の主体はISおよびアルカイダ系のヌスラ戦線とその同調者だから、それらを和平交渉から排除せざるをえず、そうすれば実体のない交渉となってしまう。仮にISやヌスラ戦線の支配地をそのまま残して停戦しても、内戦の再燃は必至で、難民・避難者は安心して帰郷できない。また、もしアサド政権(シリア政府)が崩壊すれば、いまでも対立抗争をしているISとヌスラ戦線などがシリアの支配権を巡って次の内戦を始めそうだし、それでどちらかが勝っても、シリアはテロ組織の支配する国となり、難民は戻れない。
シリア軍は総員約18万人で、陸軍だけでも11万人はいて、政府側の民兵も10万人と見られるから、IS(イラク領内を含み3万人)とファトフ軍(1.2万人)に対し人員では圧倒的に優勢だ。弾薬、車輌、航空機や戦車の部品などを十分に供給すれば反政府軍を制圧できるはずだ。
ロシアのようにアサド政権を支援して、シリア政府軍にテロ集団であるISやヌスラ戦線を討伐させて内乱を鎮定し、その後各国がシリア復興を援助して難民が戻れるようにする以外に、現実的な策は無いのではないか、と考えざるをえない。
田岡俊次
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151214-00083113-diamond-bus_all