ヘッジファンドとウォール街の裏側を描写
消えては生まれるヘッジファンドは金融街のラーメン屋
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151211-00095965-shikiho-nb
会社四季報オンライン 2015/12/11 19:36 エミン・ユルマズ
2015年も残りわずかとなり、街はクリスマス一色である。私にとってもこれが今年最後のコラムになるので、1年を通して印象に残った出来事をまとめてみた。
私にとって今年の3大出来事は (1)イランと欧米諸国の核開発問題における和解、(2)インドの経済成長率が初めて中国を抜いたこと、(3)地政学的なテンションが高まっていること、である。
まず、(1)については、1979年のイスラム革命まで米国の非常に仲の良い同盟国だったイランが原点回帰する可能性がある。長年の経済制裁の結果、イランの原油生産は40年前と比較して3分の1程度に減っている。イランに対する経済制裁が解除され、原油生産が元に戻るだけでも相当大きなインパクトだ。実はこれが足元の原油安の大きな原因の一つなのだ。よって、私は原油安が一時的なものではないと考えている。
次は(2)のインドだが、モディ政権の発足以降は景気がよくなり、足元では年間7.5%のGDP成長率に達した。成長率で中国を抜いたのはインドの歴史上初めてだ。中国経済が減速する中、“次の中国”を探しているグローバル資本は今、インドに向かっているのではないかと感じる。
最後に今年最も気になったこと、それが(3)の世界各地で高まっている地政学的なテンションである。ウクライナやシリアでの内戦、南シナ海における中国の周辺国の対立。そして11月24日に起きたトルコによるロシア軍機撃墜。この事件は私がトルコ人だけに余計に気になる。NATO加盟国によるロシア機の撃墜は実に約60年ぶりの出来事であり、非常に象徴的である。新たな冷戦構図ができ上がりつつある中で世界各地に紛争の種がまかれている。
さて今月ご紹介する本は12年に亡くなったバートン・ビッグス著『ヘッジホッグ アブない金融錬金術師たち』(日本経済新聞出版社)である。
ビッグスは投資銀行モルガンスタンレーのグローバル投資ストレジストとして長く働いた後、03年に引退し、自分のヘッジファンドを立ち上げたカリスマファンドマネージャーである。80年代初頭に米国でエマージングマーケット投資に注目し、積極的に勧めた数少ないストラテジストの一人であった。
また、日本株とバブルの崩壊を誰よりも先に予想したことで名声を上げた。本書は、ビッグスが引退してから自分のヘッジファンドを立ち上げるまでの悪戦苦闘について書かれたもので、解説にはこう書いてある。
「名門投資銀行を率いた大物ヘッジファンド屋の告白! 生死を賭けた市場との闘い、莫大な報酬と名声、強烈なストレスと不安―。奈落と絶頂が隣り合わせの苛酷な世界を赤裸々に語った全米話題作」。
■ 金融街のラーメン店
そもそもヘッジファンドとは何なのか。簡単に説明すると、私募でおカネ持ちや機関投資家から資金を集めて運用するファンドである。投資信託は公募で幅広く営業して、小口の客からも資金を集めるが、ヘッジファンドは私募で数少ない大口顧客を狙う。それが主な違いである。ヘッジファンドの多くは最低投資金額を100万ドル(約1.2億円)に設定している。これはとても一般人が出せる金額ではない。
グローバルなヘッジファンドの多くはオフショアに会社登録をして、金融庁には登録しない。したがって、パフォーマンスや運用戦略を自分の顧客以外に発表する必要もないのである。ヘッジファンドは投資家が預ける運用資金から数パーセントの固定手数料を取り、さらに毎年の運用益の20%を取るという仕組みで運用されている。
直近のデータによるとヘッジファンドの数は世界で1万を超えている。14年には1040のヘッジファンドがローンチし、864のヘッジファンドが閉鎖したという。競争が激しく、生き残りをかけた闘いが毎日繰り広げられている。
考えてみればこれはラーメン屋さんのようでもある。日本にはラーメン店は3万店舗以上あるそうだが、毎年新規出店が3000店舗があり、それとほぼ同数の店が閉店しているという。サラリーマンが会社を辞めてラーメン屋を始めるのと同様、大成功を夢見るウォールストリートの金融マンは会社を辞めてヘッジファンドを始める。
しかし、最終的に生き残るのヘッジファンドは一握りでしかない。ヘッジファンドが運用している資金は約360兆円といわれているが、その90%を運用しているのは10%の大手ファンドであり、残りの90%は小規模のファンドで3、4年持ちこたえるのがやっとだ。
この本はヘッジファンドとウォールストリートの裏話や面白エピソードが盛りだくさんで、読んでいて非常に楽しかった。同時に投資のヒントを与えてくれる本でもあるので、ぜひ一読をお勧めする。
エミン・ユルマズ/トルコ・イスタンブール出身。1996年高校3年生の時に国際生物学オリンピックで世界チャンピオンとなり、97年国費留学で来日。1年後に東京大学理科一類に合格、その後同大学院で理学修士を取得。2006年野村証券入社、投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わり、15年3月からは四季リサーチ株式会社グローバルマーケティング担当執行役員。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。