記者会見を開き、謝罪する旭化成の経営陣【PHOTO】gettyimages
旭化成建材だけじゃない!関係者なら誰もが知ってる、データ「偽装」はこの業界の常態だ ある杭打ち業者が決意の告白
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46216
2015年11月05日(木) 伊藤 博敏「ニュースの深層」
■杭打ち業者の告白
住宅業界も建設業界も下請けの杭打ち業界も、そして何より監督責任がある国土交通省も、誰もが知っているのが、「杭打ち偽装をやっているのは、旭化成建材だけじゃない」ということだ。
国交省住宅局OBが率直に漏らす。
「杭打ち偽装は、住宅建設業界が抱える構造的な問題だ。工期が限られているうえ、一次、二次、三次と多重下請け構造のなかで工事が行われるから、チェック体制があいまいで責任が分散してしまう。『見て見ぬふり』が横行するなかで、たまたま52本の杭のうち8本が未到達の手抜きマンションで発覚した。
この数は異常だが、手抜き工事やデータ偽装は日常茶飯で、今、発覚している事例は氷山の一角だ」
ほころびは日々、表面化している。当初、旭化成建材は、「ルーズな人間で、事務処理が苦手そうだなと感じた」(旭化成建材・堺正光常務執行役員)という横浜市都筑区のマンション杭打ちの管理担当者個人の問題にし、この担当者の関係した物件に限った調査を行っていた。
ところが、自治体も交えた幅広い調査のなかで、複数の現場管理者が偽装に関与していたことが判明、会社ぐるみの偽装である可能性が高くなってきた。
国交省は、2日、旭化成建材の立ち入り検査を実施、同社の組織運営や施工管理の実態を解明、データ偽装が常態化していたかどうかを調査する。その結果、おそらく「常態化」が疑われる。
さらに問題が波及するのは、データ偽装の常態化が他の杭打ち業者にも当てはまるからで、旭化成建材1社の問題だけではないことが判明、業界全体の問題となって国民を震撼させよう。
なぜデータ偽装は起きるのか。ある杭打ち業者が明かす。
「横浜で指摘されたスイッチの押し忘れや雨で記録紙が濡れて波形記録が見えなくなり、データを転用・加筆したりするのは、実は、よくあることなんです。
元請け(のゼネコン)はそれを知っていても、とにかくデータを出させて形を整えようとする。だから我々は、悪いとも思わず、それに応える」
つまりは、データ偽装の常態化である。
■問題があっても「黙認」が当たり前
杭打ち機のドリルで穴を掘り、支持層に到達すると電流計で記録している波型の波が大きく揺れ、それが支持層に到達した証明となる。スイッチの押し忘れや記録紙の破損で、データを転用・改ざんする行為は、それはそれで問題だが、「円滑な施工」という“名分”のもと、黙認される。
問題は、杭の長さが不足し、支持層に到達せず、支持層に到達した大きな波形が取れない時である。この時に偽装する行為は悪質であり、今回は、それがマンション傾斜につながった。犯罪行為といっていい。
だが、杭の長さが足りず、支持層に到達しない場合も、「円滑な施工」が優先され、工事が続行されるケースが少なくない。「杭の長さが足りない」とはどういうことか。
「建設工事では、まずボーリング調査を行い、支持層がどこにあるかを確認のうえで、杭を発注します。最近はPC(プレキャストコンクリート)杭が主流。それが20メートルとか25メートルとかの長さになるんですが、支持層の深さは均一でないため、1メートルとか2メートルとか、不足の箇所が出てくるんです」(杭打ち業者)
本来、全て支持層に到達するのが前提なので、長さが不足していれば再発注すべきもの。ところが、そうなると1ヵ月近くも工事は中断してしまう。マンションの場合など、完成入居の時期が決まっているため、工事の遅延は避けなければならず、そこは黙認、つまり不足を承知で工事を進めるという。
杭打ち業者が続ける。
「1本や2本、支持層に到達していなくとも、面で支えるから問題はないんです。だから、不足を承知で杭を打ち、改ざんしたデータでお茶を濁す。とはいえ、われわれ業者が、それを勝手にやることはありません。
杭の不足は設計施工業者の責任。つまり元請けで、『所長さん、長さが足りませんけど、どうします』と、報告に行きます。でも、それで工事が止まる現場はないでしょうね」
■悪いのは旭化成だけなのか?
ただ、52本に対して8本の不足は異常。複数の杭打ち業者が、「後から掘り起こして杭を継ぎ足すとか、いろんな方策は取れたのに、8本も長さ不足のまま作業続行したのは考えられない」と、声を揃えた。
逆にいえば、「1〜2本ならいいが8本はまずい」という業界の常識が、杭打ちのデータ偽装につながっている。もちろん、その前段として「データの取り忘れは偽装で」という“甘さ”がある。
さらに問題なのは、今回の事件で、まだ発注側の責任が問われていないことだ。
まず、旭化成建材と元請けの三井住友建設の間に一次下請けとして入った日立ハイテクノロジーの責任である。進捗状況や安全確認に目を光らせなければならないが、丸投げして口銭だけ受け取り、記者会見も開かず、謝罪はアナリスト向け決算説明会で口にしただけ。騒動は、まるで他人事だ。
最も責任の重いのは、元請けの三井住友建設である。設計施工業者として、杭の長さを間違って発注した。しかも、立ち会いは最初の1本だけ。データ偽装を知っていたかどうかは不明だが、前述の国交省OBは、「全ての杭打ちを確認、支持層に到達させるのが本来の元請けの仕事。それをやっていれば、今回の事件は起きなかった」と言い切る。
最初は、現場責任者個人の問題で逃げようとしたマンション傾斜事件だが、旭化成建材、日立ハイテクノロジー、三井住友建設の全てに責任があることがハッキリした。
そして、「データは偽装するもの」という意識が、今回の当事者だけのものでないことは、ほかの現場で次々に現れるデータ偽装によって証明されている。
やがて他社に波及することを見越して、上場している大手杭打ち業者の株価は急落している。また、ボーリング調査の段階でミス、それが杭長のミスにつながり、データ偽装を黙認した疑いのある三井住友建設だが、ゼネコンのなかで同社を笑い、「ウチはそんなことはしない」と、胸を張れる業者などない。
データ偽装は、業界全体が、多重下請け構造のなか、工期の遅れを許さないデベロッパーの顔色をうかがううちに身につけた慣習なのである。
その業界が抱える宿痾をどう解消するか。今後、国を挙げて取り組むべきは、そこだろう。