安倍首相、塩崎恭久厚労相は介護現場の実情をどこまで知っているのか (c)朝日新聞社
ヘルパー2級はやさしすぎる?「現場発」安倍政権“介護離職ゼロ”茶番劇〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151030-00000002-sasahi-soci
週刊朝日 2015年11月6日号より抜粋
介護の現場では年間約28万人が離職するといわれている。
安倍政権が“新3本の矢”の一つとして打ち出した「介護離職を2020年代初頭までにゼロにする」というスローガンは、当然のごとく介護現場で失笑を買った。慢性かつ、深刻な人手不足に苦しむ介護業界の離職率は昨年度、16.5%と高く、年間28万人以上が離職し、人材難に悩まされ続ける。
親の介護のため離職する人をゼロにするには、まず、介護業界の人材難を解決することが先決だが、真剣に現場をリサーチしたようには、とても思えない。
川崎市、山口県下関市、大分県杵築市、名古屋市などの介護施設で、職員が利用者を虐待する映像がニュースで取り上げられたのは記憶に新しい。全てが刑事事件であり、暴行罪に該当する。それらの映像を見ながら記者は驚きより、大いにあり得ることだと感じた。
数年前、記者は介護現場の実態をリポートしようと、某施設で働いた。その間にホームヘルパー2級(現・初任者研修)と介護福祉士の資格は取得した。
介護業界に身を投じて、まず初めに驚かされたのは、ヘルパー2級の資格を得るための講習の際、テキストに書かれた漢字をほとんど読めない受講者の存在だった。「老人」「枕」「有無」といった小学生レベルのものさえ、読めなかった。さらに実習先の老人ホームでは、足元に便が散乱したなかで老人たちを入浴させているさまに言葉を失った。
ヘルパー2級は費用さえ払えば、そう苦労せずに取れる。次のステップである介護福祉士も、日本で合格者が最も多い国家試験であり、中型自動車免許の筆記試験より難しい程度だ。実技も料金を振り込めば、多くの人がパスできる。
つまり、やさしすぎるため、常識に欠ける人間でも得られる資格と言っていい。
介護の現場は、男性よりも女性のほうが圧倒的に多い。介護労働安定センターによる14年度介護労働実態調査によれば、全体の約80%が女性だ。
記者が勤めた施設は、女性9、男性1の割合だった。職員たちは転職を繰り返しており、やはり漢字を知らず、新聞など読まないタイプがほとんどであった。正社員もパートも、8割以上が3カ月以内に辞めていった。そして、女性間のパワーハラスメントが日常的に起きていた。頻繁に目にしたのは、働きだして日の浅いヘルパーに、先輩社員が基本的なことを何も教えず、困っている姿を見て喜んでいる光景だった。
あるとき、利用者が発作を起こした。ヘルパーたちにとっては未経験であったため、かなりうろたえた。それを目にした責任者は「ダイアップ取って!」と怒鳴った。「ダイアップ」とは医療用医薬品名で、座薬のことだ。2人の女性ヘルパーが何のことかわからずオタオタしていると、責任者は「もういい!」と激怒して自分で取りに行った。ヘルパーたちは、「座薬」と言われれば間違いなく対処できた。同責任者は必要最低限の情報を伝えることなく、あるいは他者が理解できるように説明することもなく、いつも部下が働きにくい状況をつくり出していた。
別の日には、利用者Tが、利用者Uを引っかく事故が生じた。T、Uともに知的障害者だったため、善悪の判断はつかない。あっという間の出来事で、防ぎようがなかった。同現場には私も含め、4人のヘルパーがいた。
責任者は4人の中で入社したばかりの新人女性をターゲットとし、「なぜ防げなかったのか?」「あんたの責任だ! どうしてくれるのか」と詰問した。記者に火の粉が飛んでくることはなかったが、こうしたことが連日続いていた。ヘルパー2級の資格を取り、この7年間で四つの介護施設を渡り歩いてきた五十嵐こずえさん(仮名・48歳)は業界で働く人についてこう評した。
「大きな声では言えませんが、他の職では採用してもらえないとか、教養のない人が多いと感じます。誰でも入れ、気に入らなければすぐによそに移れる特異な職種だと思います」
(本誌・林 壮一)