平成26年10月に開かれた東芝のテレビ新商品発表会。利益水増し問題が発覚する前、好業績の同社は業界の“勝ち組”とされていた
利益水増しの東芝、ソニーと“明暗”逆転 電機の「業績オセロ」なお…
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SankeiBiz 2015/10/27 10:35
デジタル家電をめぐる競争が「オセロゲーム」に例えられるように、電機業界では経営戦略の巧拙や外部環境の変化で、勝ち組と負け組が瞬時に入れ替わる。1年前に好決算を発表し、“勝ち組”の一角を占めていた東芝はその後、利益水増し問題の発覚で過去に遡って業績が引き下げられる事態に陥った。一方、スマートフォン事業の不振で巨額赤字に陥ったソニーは復調を鮮明にしつつある。利益がかさ上げされていた東芝はもともと、業績が良くなったともいえるが、ソニーとの明暗が鮮やかに逆転したのは確かだ。
「(本業のもうけを示す)営業利益は過去3番目の高水準。最終利益は308億円と、リーマン・ショック後で最高になった」
昨年10月30日。東芝の前田恵造専務(当時)は、平成26年9月中間連結決算発表の席上、好業績に胸を張った。通期で過去最高益の更新を見込んでいた同社は、日立製作所や三菱電機と並び、電機業界の勝ち組に位置づけられていた。
しかし、その後、東芝の業績の大部分が“虚妄”だったことが、明らかになったのは記憶に新しい。4月に存在が公表された利益水増し問題は、最高益の計上に固執し、幹部に過度な圧力をかけていたとされる田中久雄社長(当時)ら、歴代3社長の辞任につながった。前田氏も専務を辞任した。
例年より約4カ月遅れで発表された27年3月期決算をみると、営業利益は1704億円と、当初予想からほぼ半減。最終損益は1200億円の黒字予想から一転、378億円の赤字に転落した。利益水増しの影響を取り除くと同時に、収益性の下がった生産設備の帳簿上の価値を引き下げざるを得なくなり、東芝の稼ぐ力の低さが白日の下にさらされた。
一方のソニー。昨年9月17日に27年3月期連結業績予想を下方修正し、最終損益が2300億円の赤字になると発表。それまでの見通しだった500億円の赤字から大きく悪化した。主因はスマホ事業の不振。同社はスウェーデンの通信機器大手エリクソンとの合弁会社で携帯電話事業を展開してきたが、24年にエリクソンの持ち分を買い取り、完全子会社化した。その際に見通した収益計画の達成が難しくなったことから、同事業の価値を引き下げる必要が生じたのだ。減損損失は1800億円に上り、同社の業績を直撃。平井一夫社長は「中国メーカーが躍進し、競争が激化した。外部環境が変化している」と釈明した。
26年9月中間決算では、電機大手8社のうち、ソニーだけが赤字で、“独り負け”ともいえる状況だった。かつて革新的企業の代名詞だった同社の凋落は注目を集め、平井氏の経営責任を問う声が高まった。
ソニーの先行きに光明が見え始めたのはその直後だった。昨秋開かれたエレクトロニクス(電機)事業に関する説明会で、テレビやデジタルカメラなどの事業について29年度の売上高を足元の数字より低めに抑え、「利益重視」の姿勢を明確にした。スマホ事業についても縮小均衡により、赤字の垂れ流しを止めることを優先。ここ数年、同社は電機の中で足を引っ張る分野が代わる代わる現われ、全体の業績を押し下げてきたが、こうした状況からの脱却に本腰を入れた格好だった。
その結果、27年3月期はテレビ事業が11年ぶりの黒字になり、“止血”が進んだ。一方で、スマホのカメラに組み込まれ、画像処理などを行う画像センサーの需要が急伸。皮肉なことに、ソニー製スマホを窮地に陥れた中国メーカーなどからの引き合いが強まった。据え置き型ゲーム機「プレイステーション4」も海外販売が好調で、インターネットを介してゲームや映像コンテンツなどを配信するビジネスも軌道に乗ってきた。
これらの好材料を背景に、28年3月期の営業利益は前年同期の約4.7倍に相当する3200億円を見込み、最終損益は1400億円の黒字に転換する予想だ。達成されれば、「V字回復」が実現する。市場ではさらに上振れするとの期待が高まっており、10月29日に公表される27年9月中間決算が注目される。
「オセロゲームのように勝敗が一気に入れ替わる」
今から10年ほど前、松下電器産業(現パナソニック)の中村邦夫社長(現相談役)がデジタル家電をめぐる経営環境について、こう例えた。当時、プラズマテレビの販売拡大で業績好調だったが、先行きへの警戒は欠かせない、という意味だった。
その懸念は的中することになる。韓国勢との競争に敗れ、過去の投資が一気に重荷となったのだ。19年3月期に2000億円超の黒字だった最終損益は、25年3月期まで2年連続で7000億円超の赤字に転落。24年11月、就任したばかりの津賀一宏社長は米紙の取材に「パナソニックは業界の『負け組』になった」と嘆いた。
同様に、「世界の亀山モデル」を打ち出した液晶テレビで一時、世界シェア首位を誇ったシャープの業績も悪化。現在も業績は低迷し、経営再建への道筋は見えないままだ。
オセロゲームの教訓は今も生きている。ソニーの復調を牽引する画像センサーは、「技術は競合より2年くらい先行している」(鈴木智行副社長)とされる。しかし、技術的優位性を失いかつての液晶パネルのようにコモディティ(日用品)化すれば、設備投資が一転、業績の足を引っ張る懸念がある。
そして、東芝やシャープが再びオセロをひっくり返し、浮上するチャンスをつかむには、復調した日立やソニーのように不採算事業の撤退や縮小など、痛みを伴う構造改革の断行が不可欠といえそうだ。(高橋寛次)