主力の居酒屋事業の既存店売上高は、今年度に入った4月以降も90%台前半と低水準のまま推移している Photo by Ayako Suga
介護事業売却でも拭えないワタミ存続の危機
http://diamond.jp/articles/-/79027
2015年9月28日 週刊ダイヤモンド編集部
資金繰りが苦しくなったワタミが主力3事業の一つ、介護事業を売却することになった。売却金200億円で当面の資金繰りはしのげそう。とはいえ、本業の居酒屋事業は回復の兆しが一向に見えない中で、経営危機を脱したとは言い難い。(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)
今春、ワタミはメインバンクと膝詰めで、ぎりぎりの交渉を行っていた。このままでは融資を引き揚げざるを得なくなる──。そう迫られていたからだ。
ワタミは、居酒屋事業の不振により、2期連続で巨額の最終損失を計上。2015年度に入った4月以降も赤字を解消できず、自己資本比率は6.2%と、崖っぷちに追い込まれていた。
そうした状態で融資を引き揚げられてしまえば一巻の終わり。対するメインバンクも巨額の貸し倒れが発生するため、頭を悩ませていたのだ。
というのも、ワタミの主要事業の一つである介護事業に、条件に抵触すれば融資が引き揚げられる「財務制限条項」が設定されていたからだ。
介護施設では、償却前に入居者が死亡した場合、入居金を返却しなければならないため、その保全が求められている。そこで「純資産額が12年3月期末(293億円)の75%以上を維持」という条件が課せられていたのだ。
しかし、赤字続きのワタミは資産を食いつぶし、この条項に抵触してしまう。慌てたワタミと銀行は交渉を続け、最終的に「純資産額が15年3月期末の100%を維持」に条項を変更するという“禁じ手”をひねり出して、事なきを得る。
ところが、これで一件落着とはならなかった。「経常損益が2期連続で赤字にならない」という、もう一つの財務制限条項があったからだ。
前期はすでに経常赤字で、今期こそ黒字が必須なのだが、このハードルが極めて高い。
15年4〜6月期の決算を基に、アナリストらの協力を得て今期の決算を試算してみると、まず家庭などに弁当を配達する宅食事業は15億円の黒字が見込める。
しかし、海外事業で10億円、介護事業で10億円の赤字になりそうで、本部経費を差し引くと、居酒屋事業で25億円分の黒字を稼ぐ必要がある。
ところが、4〜8月の既存店売上高は平均91〜92%の水準で推移しており、黒字さえおぼつかないのが現実。ワタミは、販売促進や店舗配送の見直しといったコスト削減策で35億円を捻出する計画を打ち出すが、できるのならとうにやっているはずで、いかにも厳しいと言わざるを得ない。
そこで持ち上がったのが、介護事業の売却だ。
売却先として損保ジャパン日本興亜ホールディングスなどの名前が挙がっており、売却額は200億円前後になるとみられているが、財務制限条項をクリアするために、介護事業そのものを売却しなければならなくなったというのは、いかにも皮肉な話である。
■時すでに遅し?高値で売れるタイミング逃した
しかし、「売り時を逃した。やるなら3年前だった」(介護事業者)という声も出ている。ブラック企業問題などでワタミブランドは劣化、介護事業の業績も急速に悪化しているからだ。
ピーク時に93%を記録した介護施設の入居率は、今期は78%前後まで低下。13年3月期に54億円あった介護事業の利益は、15年3月期に23億円と半減している。今年4月の介護報酬の改定も逆風となって、ついに15年4〜6月期には赤字に転落した。
一方で、介護事業の売却に伴って、介護施設に食事を提供するコントラクト事業の存続も危ぶまれてくる。
ワタミの介護施設は、現在113棟、入居者は約6800人に上る。朝昼夜3食の提供価格が1000円として、6800人相当の食事はざっと年間25億円の売り上げにつながる。継続できなくなれば、たとえ介護事業の売却によって200億円の一時金を手に入れたとしても、今後の食いぶちを失うことになる。
当然、ワタミもそうした事態を認識しており、雇用の継続などと共に、売却の条件として交渉している。
ワタミの経営はもはや待ったなし。現預金は3月末の95億円から6月末には53億円にまで減少している。
そういう意味では、もう一段の金融支援が必要な状況で、銀行団と交渉の末、すでに短期借入金100億円のうち50億円を長期に切り替えてもらい、20億円の新規融資を取り付けた。さらに9月末の完了を目指して、残り50億円の長期への切り替えと、追加20億円の借り入れを併せて申し入れている。
店舗は、前期100店を閉鎖したのに続いて、今期も85店と大量閉鎖が続く。さらに工場などの売却も検討している。資産や事業売却で、今期こそ何が何でも黒字にしなければ、“経営破綻”の文字がちらつき始めてくる。