金融の中心地は ニューヨーク証券取引所から移りつつある?(Kacchi / PIXTA)
起きつつあるパラダイムシフト、金融の近未来はどうなる?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150828-00081963-shikiho-biz
会社四季報オンライン 8月28日(金)20時21分配信
世界最大の国際金融都市として、第二次世界大戦後、一貫して確固たる地位を享受してきたニューヨーク。そのニューヨークの地位が、近未来には他に取って替わられるかもしれない。新しく台頭してくるのは、上海やシンガポールではもちろんない。ニューヨークと同じ米国にあるシリコンバレーである。
ニューヨークはなぜ世界最大の国際金融市場たりうるのか。それは世界最大の証券取引所であるニューヨーク証券取引所(NYSE)を擁するからにほかならない(ちなみに外為市場ではニューヨークはロンドンの後塵を拝している)。
NYSEは世界一上場審査が厳しいとされ、上場企業数は2464社(15年6月末:以下証券市場のデータは全て15年6月末)、上場企業全社の時価総額総計は2352兆円。これに対して東京証券取引所は上場企業数2435社、時価総額総計579兆円(NYSEの4分の1)。香港証券取引所は1793社、460兆円。ロンドン証券取引所は922社、435兆円。時価総額で見る限り、NYSEの断トツのポジションは、たとえ近未来になっても揺るぎそうにない。
■ 取引所のそもそもの機能
しかし、そもそも巨大な取引所があり、そこに多くの企業や投資家が参加することが、なぜ重要なのだろうか。それは株式市場が、資金配分、資源配分の機能を持つからにほかならない。
株式市場で株価が効率的に決まるということは、株式市場を通じて企業に提供される資金が、効率的に配分されることを意味する。逆のケースを考えれば、このことはもっとよく理解できよう。すなわち、株価が効率的に決まらないとどうなるか。あるいは市場以外のメカニズム(たとえば官僚制度)で資金配分を決めるとどうなるか。
歪んだ株式市場のもとでは、資金が本来行くべきところ(成長性の高いところ、資金が効率的に使われるところ)に行かない。資金が行くべきところに行かずに、逆に、無駄に浪費している企業などに行ってしまう。
一方、社会主義体制下の旧ソビエト連邦では、市場ではなく官僚が資金配分を決めていたが、これもまたうまくいかなかった。
さらに重要なポイントは、資金が行くべきところに行かなければ、これに付随してくる「モノ」や「ヒト」も効率的に配分されなくなってしまうということだ。結果として、経済全体として、「ヒト」「モノ」「カネ」の最適な配分がなされず、効率的な経済活動が阻害される。一国の経済が本来成長できるはずのレベルまで成長できなくなってしまう。
このように証券取引所は「資源配分の効率化」という、資本主義の根幹とも言うべき重要な役割を果たしている。社会が持つ成長フロンティアを目いっぱい押し上げるという価値創造の役目を担っているのである。
■ 上場せずに巨大な株式価値を達成
それでは証券取引所という場で行われている株式の売買、募集、売り出し、増資、自己株買入れ消却といった一連の取引が、取引所以外の場で行われるようになるとどうなるだろうか。たとえば設立間もない企業がベンチャーキャピタルから資金を調達し、取引所に上場することなくして、一気に株式価値(=株価×株数で、上場企業でいうところの時価総額)を6.2兆円(510億ドル)の規模にまで上げるようになったとしたら、どうだろうか。
実際、こういったことはこれまでに起きてきている。たとえば上場1年前(11年)のフェイスブックの株式価値は6.2兆円だった。ちなみに株式価値6.2兆円とは、日本の時価総額ランキングに当てはめると、第10位。キヤノン <7751> 、デンソー <6902> 、ファーストリテイリング <9983> 、武田薬品工業 <4502> などよりも上位になる。
4年前のフェイスブックの時に比べて、現在はさらに数多くのベンチャー企業が巨額の資金を上場前の段階で調達するようになってきている。
たとえば、タクシー配車アプリのウーバーテクノロジーズは増資によって今年1220億円の資金をマイクロソフトなどから調達した。米ウォールストリートジャーナル紙によると、ウーバーテクノロジーズの未公開市場からの調達額は総額で6100億円に達し、上場前の株式価値はフェイスブックの時と同じ6.2兆円となったという。ウーバーテクノロジーズだけではない。中国のスマホメーカーのシャオミ(株式価値5.6兆円)、自宅の空き部屋を宿泊客に提供するサービスを仲介するエアビーアンドビー(同3.1兆円)など、数多くのベンチャー企業が、株式市場に上場する前の段階で、巨額の資金をベンチャーキャピタルなどから調達している。
同紙は、株式価値が1220億円(10億ドル)を超える未公開のベンチャー企業が世界で115社(8月時点)あると報じている。一方、東証2部上場会社(546社が上場)で時価総額が1220億円を超える企業数はたった6社、東証マザーズ上場会社(212社が上場)に至っては1220億円を超える企業数はわずか4社だ。
つまりシリコンバレーなどでベンチャーキャピタルなどからの出資を得て未上場のまま株式価値を1220億円にまで高めた企業数のほうが、東証2部やマザーズ上場で時価総額をこのレベルにまで高めた企業数を、圧倒的な差をつけて上回る。こうした数字からも、シリコンバレーを中心に発達している未公開市場の巨大さが理解できるだろう。
■ 会社設立後たった5年で株式価値6.2兆円を達成
ウーバーテクノロジーズは、会社設立後たった5年で株式価値6.2兆円を達成した。フェイスブックの場合は7年で上場前株式価値6.2兆円を達成し、その1年後の12年に上場した。
こういった事例は何を意味するのだろうか。それは、上場前の未公開市場の段階で、会社の株式価値のかなりの部分が形成されてしまうという現実である。つまり資金配分なり資源配分を担う市場として、シリコンバレーを中心とした未公開市場が、急速に存在感を増しているということである。
資金配分による「価値の創造」という面からすると、ひょっとすると、現時点でニューヨークを上回っていると見ることができるかもしれない。
このような状況に敏感に反応しているのが、ウォール街を本拠地としていた投資銀行である。今年の5月、ゴールドマン・サックスは初めてシリコンバレーで株主総会を開いた。モルガン・スタンレーの前CEOであるジョン・マックは、現在シリコンバレーの金融ベンチャーで働いている。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOも「シリコンバレーがすごいことになっている」と発言している。
■ イノベーションは大企業から起きてこない
著名なベンチャー・キャピタリスト、ビノット・コースラは、今年5月、スタンフォード大学で講演し、「そもそも人々の生活を根底から変えるような画期的なイノベーションは、大企業では起きていない。リテール(小売り)のビジネスを根本から変えたのは、アマゾンであってウォルマートではない。メディアというものを新たに作り直したのは、放送局のNBCではなくて、ユーチューブだ。宇宙ビジネスに革新をもたらしたのは、ロッキードではなくスペースXである」と語った。
これらのイノベーションが起きるのを資金面から支援したのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルなどであり、ニューヨークの証券取引所は関与することができなかった。
なるほど金融のパラダイムシフトは、もうかなりのところまで進んでいるのかもしれない。
いわさき・ひでとし●プライベート・エクイティ投資と経営コンサルティングを手掛けるインフィニティ代表。22年間の日本興業銀行勤務の後、JPモルガン、メリルリンチ、リーマンブラザーズの各投資銀行を経て現職。日経CNBCテレビでコメンテーターも務める。近著に『残酷な20年後の世界を見据えて働くということ』(SBクリエイティブ刊)。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
岩崎 日出俊