放射能で殺されるか、戦争で殺されるか
http://tanakaryusaku.jp/2015/06/00011474
2015年6月29日 23:33 田中龍作ジャーナル
安全は九電まかせ。原子力規制庁の若手官僚は、監督官庁の役人として責任感のかけらもない説明に終始した。=29日、参院会館 写真:筆者=
東電福島原発を受けて設けられた新規制基準に適合している、と原子力規制委員会が認めた九電・川内原発。
規制基準そのものがズサン極まりないうえに審査もまだ終わっていないのに、今夏にも再稼働するかのような報道が続く。
地元鹿児島の住民や環境団体などが、きょう、国会内で「川内原発の再稼働」をめぐって政府と交渉を持った。(主催:FoE Japan/福島老朽原発を考える会など)
川内原発が抱える最大のリスクは、桜島を含む「姶良カルデラ」が間近に迫っていることだ。
巨大噴火が起きれば原発まで溶岩がたどりつくとする専門家の見方もある。
〜火山専門家抜きの審査で合格〜
ところが原子力規制委員会は火山の専門家抜きで審査を進め、規制基準に適合していると判断したのである。
きょうの交渉で火山の専門家がいなかったことを原子力規制庁は認めた。
住民や環境団体は、専門家抜きで安全であると判断した理由を追及した。
原子力規制庁・安全規制管理官の中桐夕子補佐は「破局的な噴火が起きる可能性は低いため」と繰り返し答えた。
九電・川内原発。安全性を軽視したまま、再稼働第一号となるのか。=薩摩川内市 写真:筆者=
規制庁が拠り所にしているのは「ドルイット理論」である。火山研究家のドルイット氏の理論で、3,500年前に噴火したギリシャのサントリーニ火山を例にとり、噴火直前の100年程度の間にマグマ供給速度が急上昇するという知見だ。
ドルイット理論を姶良カルデラに強引に当てはめ「60年以上破局的噴火はない」としているのが九電であり原子力規制庁だ。
ところが当のドルイット氏は、「サントリーニ火山の例は一般化できない」と証言しているのだ。火山噴火予知連絡会会長の藤井敏嗣・東大名誉教授がドルイット氏に直接当たって確認した。
学術的な証明が揺らいでくると、中桐補佐は「九電の社内規定が定めている」と言い始めた。
そしてそれを繰り返した―
「社内規定は(規制庁の)保安規定に合致しているし、保安規定が社内規定にも合致している」というのだ。もう訳が分からない。
もし噴火が起きた時の燃料棒の移設場所を質問されると、「まだ確認していない」と答えた。
核燃料棒が被災するようなことがあれば、日本全滅だけでは済まなくなる。あまりに悠長、あまりに能天気だ。危機管理意識などかけらもない。
〜 安保法制と同じ 強引、説明不能〜
交渉に立ち会っていたら、安保法制をめぐる議論にあまりにも似ていることに気づいた。
ドルイット理論を姶良カルデラに牽強付会に当てはめるさまは、砂川判決をもって集団的自衛権は合憲であると言っているのと同じだ。
「九電の社内規定は保安規定に合致する」と主張するのは、「新3要件に当てはまるので自衛隊を派遣して武力行使できる」と答弁するのと一緒だ。説明になっていないのである。
安倍政権は法的根拠がほとんどなく、危機管理意識もないまま、原発を再稼働させ、戦争への道を突き進む。
原発事故による放射能で殺されない、戦争で殺されないという保証は、もはや日本のどこにもない。