住友林業、なぜ海外で大人気?海外進出で他社圧倒、「逆張り経営」の秘密
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150625-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 6月25日(木)6時1分配信
新設住宅着工戸数の100万戸割れが続き、10年後には「60万戸時代」(野村総合研究所レポート『2025年の住宅市場』)の到来が予測されている国内新築住宅市場。「ならば」と、大手住宅メーカーが海外市場に成長の活路を求めるのは当然の成り行きといえる。ところが、今のところ住友林業を除き、いずれも及び腰か苦戦している。
例えば、売上高トップの大和ハウス工業の場合、中期経営計画で「新興国を中心に15年度に海外売上高1000億円以上を目指す」との目標を掲げている段階で、海外投資も「15年度に146億円」(15年度経営方針)を計画している程度だ。
また、国内戸建て住宅シェア1位で売上高2位の積水ハウスの場合、「国際事業」の売上高は798億円で、海外売上比率は連結売上高全体の4.2%(15年1月期)を占める程度にすぎない。
4位以下に至っては「海外進出を本気で検討しているメーカーはない」(住宅業界関係者)と言われる状況だ。
そんな中、売上高3位の住友林業だけが海外進出で突出。15年3月期の海外事業売上高はすでに1470億円と1000億円台に乗せ、海外売上比率も連結売上高全体の14.7%に達している。北米と豪州を中心に海外市場での戸建て住宅販売棟数も3808棟に上る。これは国内販売棟数8743棟の43.6%に相当する勢いだ。
大手他社が及び腰か苦戦している理由は「海外の気候や住宅文化と、日本製住宅製品との摺り合わせが困難だから」(同)といわれている。
すなわち、海外市場では防水性、断熱性、耐震性などに優れた日本製住宅を必要とする国や地域が限られている。このため「海外進出はリスクが大きく、しかもスペックが高度な日本製住宅に魅力を感じる消費者は少ない」(同)というわけだ。
では、住友林業はどのようにこの難問を解決したのか。
●現地子会社がトップクラスを猛追
「戸建て住宅の扉を開けると、目は一直線に家の奥に吸い寄せられる。視線を遮るものはなく、一瞬で家の奥行きを感じさせる」
豪州の住宅メーカー、ヘンリー・プロパティーズ・グループが発売し、現地で人気を集めている戸建て住宅「FUWA」だ。
縦長の区画が一般的な豪州の住宅街では、長方形の平屋住宅が大半。しかし、それを生かした奥行き感のある住宅は少なく、大半は廊下に部屋が突き出すなど、「曲がりくねったような設計」が一般的といわれる。そんな中で長方形の特徴を生かし、玄関から家の奥まで廊下が一直線に伸び、家の奥行きと広さが感じられる斬新さが人気の要因だ。FUWAを設計したのは住友林業の住宅デザイナー・不破隆浩氏だ。
住友林業がヘンリー社と綿密な摺り合わせを行い、豪州の住宅文化と消費者ニーズに沿い、現地仕様の戸建て住宅を開発した賜物といえる。
住友林業が豪州に進出したのは02年。08年にヘンリー社との合弁会社を設立、戸建て住宅の販売を本格化した。翌年にはヘンリー株の50%を取得、さらに13年に株式を1%追加取得し、ヘンリー社を連結子会社化した。
ヘンリー社は14年末現在、豪州の戸建住宅市場でシェア4位と推定されている大手住宅メーカーで年間販売棟数約2000棟。合弁会社を設立した08年頃は年間販売棟数約1700棟でシェア5位と推定されていたが、本格的に資本提携した09年以降、着実に業容を拡大、年間に約3000棟販売する現地トップクラスを猛追している。
「当初は同業他社同様、当社の優れた住宅を売り込もうと豪州に進出した。しかし、進出してみると生活文化も気候も違う中、当社の住宅スペックはレベルが高すぎて現地のニーズと合わないことが間もなくわかった。しかも住宅は文化が色濃く反映される。それを無視して当社の住宅をそのまま持ち込んでもうまくいかないことがわかり、現地住宅メーカーと組んで当社の住宅を現地化する方針に切り替えた。このようにして、ヘンリー社と出会うまで6年もの歳月を空費してしまった」
住友林業関係者は、このように語り苦笑いする。
●現地の工法をベースに日本の技術を加算し、差別化を図る
「ヘンリー社は新しいアイデアやデザインを貪欲に採り入れる社風があり、品質管理技術も優れている。豪州で当社との相性がこれほど良いメーカーも珍しい。だからこそヒット商品のFUWAが生まれた」と、前出関係者は振り返る。
このヘンリー社が得意とする工法は、規格化された柱を枠組みに、木材パネルで床や壁、屋根などを箱状に組み上げる「ツーバイフォー工法」が基本。豪州東部で普及している一般的な工法だ。
一方、住友林業が得意とするのは日本伝統の「木造軸組工法」。ツーバイフォー工法と異なり床、壁、屋根を柱と梁の軸組で支えるのが特徴。近年はこの工法を進化させた「ビッグフレーム構法」を同社はウリにしている。
両工法ともそれぞれ一長一短があり、日本の気候、風土、地形に適した木造軸組工法が豪州のそれに適しているとはいえない。そこでヘンリー社は、ツーバイフォー工法に断熱性、耐久性などに優れた住友林業の住宅技術を部分的に採り入れ、豪州住宅市場でツーバイフォー工法住宅の差別化を打ち出している。
そして営業、施工など消費者と直接接触する表舞台はヘンリー社が全面的に仕切り、住友林業が商品開発、施工技術開発などの裏方を仕切るという二人三脚により、ヘンリー社は販売シェアを拡大している。
この現地化戦略は北米市場でも基本的に変わらない。事業エリアを木造住宅需要が多いテキサス州に絞り、分譲住宅開発のブルームフィールド・ホームズ(50%出資)や住宅販売会社のギーエン・ホームズ(51%出資)との二人三脚で販売シェア拡大を図っている。
●競合が国内で争っている間に海外に盤石の地盤
住友林業が腰を据えて海外市場開拓に注力しているのは、いうまでもなく国内新築住宅市場縮小への危機感が原因だ。市場縮小は業界全体の共通認識だが、競合他社が一斉に成長戦略の舳先を物流・商業施設や賃貸住宅の建設、中古住宅リフォーム事業に向ける中、これらの「過当競争市場で木造住宅技術に強みを持つ住友林業が奮闘しても、差別化や競争優位を見いだすのは困難」(業界関係者)との判断があるようだ。
競合他社が国内市場で覇権争いしている間に、海外市場で盤石の事業基盤を固めようとの成長シナリオといえる。
国内市場での同質化競争に背を向け、独自の現地化戦略で高品質な「メイドインジャパン木造住宅」普及に成長を託した同社の今後が注目される。
福井晋/フリーライター