日本郵政株式会社の西室泰三社長は、難しい舵取りを迫られる
「延期論」まで聞こえてきた日本郵政株式上場の高いハードル
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43727
2015年06月13日 歳川隆雄「ニュースの深層」 現代ビジネス
『日本経済新聞』(6月11日付朝刊)は一面トップに「個人資産運用 3社提携―ゆうちょ銀、新会社―三井住友信託・野村と」の大見出しを掲げ、日本郵政グループのゆうちょ銀行が三井住友信託銀行と野村ホールディングスと個人向け資産運用の共同出資会社を設立する方向で大筋合意した、と報じた。
各紙が同日夕刊でフォローしたことでも分かるように、『日経』の断トツ・スクープである。
■巨大な資産運用会社誕生へ
手前味噌で恐縮だが、筆者が主宰する情報誌『インサイドライン』(5月10日号)は1カ月も前に「日本郵政Gのゆうちょ銀行―資産運用会社設立へ」と題した記事を掲載している。
同本記に「<前略>ここに来て水面下で検討が進められているのは、株式などで貯金資金を運用する機関投資家化モデルであり、その一環として浮上してきたのが資産運用会社の設立構想である。<中略>しかし、機関投資家化モデルであれば、類似の既存民間金融機関はなく、既存勢力との棲み分けが可能となり得る。そうした中で浮上してきた資産運用会社の設立構想は、機関投資家化するためには、資産運用のノウハウを有する専門家を確保する必要があるからだ。<後略>」と書いた。
200兆円超の資産があり、売り上げが2兆円規模のゆうちょ銀行(長門正貢社長)が民間の金融機関とタッグを組んで資産運用会社を設立するというニュースは、当然ながら株式市場関係者に歓迎された。
■首相官邸幹部が口にした「不満」
だが、翌日の『朝日新聞』は「ゆうちょ銀、投信子会社を検討―上場を控え疑問の声も、準備関与の2社と提携」との見出しを掲げ、今秋に予定されている日本郵政(西室泰三社長)と子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険(石井雅実社長)の同時上場に関して、「片方で上場審査を支え、片方で提携する。公平さを保てるのか疑問だ」と話す市場関係者のコメントを紹介している。
問題は日本郵政グループ3社の同時株式上場である。筆者が5月末に会った首相官邸幹部は、上場に慎重であるべきだと繰り返し語っていた。仮に政府が東日本大震災復興財源確保のために保有する日本郵政グループ株を売却した後に、上場した郵政株が大幅に下落したら冗談で済まないというのである。そもそも日本郵政が4月に発表した中期経営計画に目新しさがなかったとの不満も口にした。
海外の機関投資家から「上場を成功するために配当を高くすることが望ましい」という意見が寄せられている。また、監督官庁の総務省からは配当性向目安として「日本郵政とゆうちょ銀行は50%以上」、「かんぽ生命保険は30〜50%程度」という配当政策の方針が打ち出されている。
しかし、こうした指摘は日本郵政側に少なからぬ動揺を与えたようだ。というのも、総務省が示した「配当性向を50%」とする考え方が主流となり、それ以上の配当を行うことに「利益の外部流出」とする懸念が抱かれたからだ。
■上場にはいまだ高いハードルが
そして、グループ内に「上場はプラスに働かない」というムードが漂い始めて、「とりあえず上場時期の延期」という議論が出始めたというのである。
それにしても、コーポレートガバナンスコードの導入などで株主への還元方針の重要性が高まっている現在、日本郵政グループもその流れに沿う努力をすべきだという声が市場関係者の間では多い。投資家の意向に外れた低い配当レベルでは上場の成功に疑問符が付けられるというわけだ。
安倍晋三首相は機会あるたびに「貯蓄から投資へ」と語っている。が、日本郵政グループの資産運用会社設立と株式上場には未だ越えなければならない高いハードルがある。