シャープ、その本当の危機 再建への障害となる3つの異常点
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150611-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 6月11日(木)6時0分配信
シャープが苦しんでいる。
2011年度(12年3月期)3760億円、12年度(13年同期)5453億円と2期連続の営業赤字、営業キャッシュフローも1433億円、811億円と赤字が続いた。マイナスの営業キャッシュフローは商売をすればするほど現金が減っていくということを意味する。危機感を覚えた経営陣は、大胆なリストラを実施した。とりわけ12年度のリストラはすさまじく、総資産は5264億円減少し、自己資本比率は24%から6%へと一気に低下した。
このリストラの効果はてきめんだった。翌13年度は予想営業利益800億円に対して1085億円の黒字。経営陣はこれで存続の危機から脱出したと判断したのであろう。続く14年度(15年3月期)の営業利益を500億円と予想した。
ところが、5月14日に公表された決算短信によれば、14年度の売上高は前年度比4.8%減の2兆7862億円、営業利益は480億円の赤字に転落した。販売価格の値崩れと在庫の評価損が足を引っ張ったのである。これは、とりもなおさず製品の価格競争力のなさを意味している。さらに、経常利益は965億円の赤字、当期純利益は2223億円の赤字と逆戻りした。主な理由は、主力液晶工場である亀山工場(三重)に対する1000億円の減損によるものである。社運をかけた液晶事業が、将来価値を生み出さないと判断したのである。
驚くべき事は赤字金額の大きさではない。業績がこれほどまでに悪化していたのに、最高責任者である社長、そしてお目付役としてメインバンク2行から派遣された取締役が、決算直前まで知らなかったという事実である。
「シャープが15年3月期に2期ぶりに赤字に転落することが明らかになったのは14年12月27日だ。毎週土曜日に開かれる恒例の経営会議に財務部門から報告された。2人の橋本【筆者注:メインバンクから派遣された取締役】には『青天のへきれき』。社長の高橋ですら『本当に赤字なのか』と肩を落としていた」(5月19日付日本経済新聞)
こうした事態を引き起こした原因は、経営トップからの責任追及を恐れるあまり、事業部が偽りの報告をしていたからだった、という。しかし、損益とキャッシュフローは会社の死活にかかわる最重要経営情報であるから、経営トップ自らが能動的に情報を収集すべきである。そうでなければマネジメントはできない。そのために企業は巨額の費用をかけて経営情報システム、特に管理会計システムを整備しているのである。ところが、シャープでは異常事態を迅速に察知し、経営者に警告を発するべき管理会計システムが、まったく機能していなかったのである。
●3つの異常点
シャープの14年度の決算短信から容易に読み取れる異常点は3つある。
まず、前述の通り営業損失が480億円となった点である。この事実は、本業がまったく利益を上げていないということであり、13年度の必要以上のリストラにより価値を創造する体力までも削いでしまったのであろう。
2つ目は、会社は1000億円もの社債償還に充てるため、固定資産と投資有価証券を売却した点である。これにより、金の卵を産むガチョウを殺してしまった可能性がある。そして3つ目に、液晶設備を中心として1000億円の減損処理を行った点である。つまり、オンリーワン企業を目指して行った経営判断の失敗を認めたことである。
そして、再び「流動性の危機」が首をもたげた。
有利子負債による巨額の設備投資は、「流動性の危機」のリスクと隣り合わせでもあり、経営者が最も警戒すべき点である。
「収益性危機の場合、利益が最もあがっていない最も時代遅れの事業や製品を売り払うか、縮小することになる。これに対して流動性危機の場合、利益が最もあがっているか、最も期待できる部門を売り払うことになる」(『未来企業』<P.F.ドラッカー/ダイヤモンド社>)
シャープは米経営学者ドラッカーの言葉通りの罠にはまってしまった。だからこそ、14年度は細心の注意を払って舵取りをすべきだったのである。
●重点戦略の孕むリスク
今年5月14日、高橋興三社長は中期経営計画を公表し、以下の3つの重点戦略を着実に実行することで、3年後には連結売上高3000億円、連結経常利益180億円を目指すと宣言した。
(1)ポートフォリオの再構築
現行の事業部制組織から5つのカンパニー制に再編
(2)固定費削減の断行
抜本的なコスト構造改革を断行し、将来を見据えた収益力向上
(3)組織・ガバナンスの再編・強化
(1)の事業部制からカンパニー制に移行する理由は、各カンパニーにバランスシートと損益計算書を作成し、キャッシュフロー責任を持たせるためである。古くはソニー、パナソニック、三洋電機、東芝の例を挙げるまでもなく、カンパニー制で成果を上げるのは容易ではない。なぜなら、各カンパニーを束ねる本社の強力なマネジメント力が必須だからである。
もしも本社の力が弱くなれば、カンパニーの暴走が始まる。そしてカンパニー間の経営資源の融通がなくなることで、無駄が生じやすくなる。ソニーの低迷、東芝の粉飾がその例である。さらに憂慮すべきは、弱体化した企業の場合、銀行側からすればカンパニーを切り売りしやすくなる。つまり貸付金の回収が容易になるということである。
(2)については、固定費とは一般的に「贅肉」だと捉えられがちだが、固定費の本質はビジネスプロセスの維持費である。したがって、固定費削減では企業を生き返らすほどの付加価値はもたらされないし、さんざんリストラした挙げ句のさらなるリストラは収益力低下のリスクが大きい。
そして(3)だが、これまでと同じ経営トップで、「組織・ガバナンスの再編・強化」が可能なのだろうか、疑問が残る。
「いかなる分野を優先すべきか、初めにいかなる分野を削減し、かつどこまで削減すべきか、初めにいかなる分野を拡大し、かつどこまで拡大するかについて検討したうえで、意思決定を行う必要がある。そして、近い将来の成果のために遠い将来の成果についていかなるリスクを冒し、遠い将来の成果のために近い将来についていかなる犠牲を払うかを十分理解したうえで、意思決定を行わなければならない」(『現代の経営』<ドラッカー/ダイヤモンド社>)
公表された事業計画は、経営者が自らの命をかけて徹底的に練られたものだろうか。もしそうでなければ、名門シャープの復活は厳しいといわざるを得ない。
(文=林總/公認会計士、ビジネスコンサルタント)