現代ビジネスから
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43555
科学的な解釈の中身に問題」 有識者会合による評価書に意見相次ぐ
私は以前から、原子力規制委員会(とその事務局である原子力規制庁)と、電力会社など原子力事業者の関係について、大きな危惧を抱いている。規制委・規制庁は規制する側、原子力事業者は規制される側。警察による犯罪取締り規制と違い、原子力関連規制は経済規制であるので、規制する側と規制される側の円滑な意思疎通が欠かせない。しかし、原子力規制を巡る現状を考えると、両者の関係が最悪だ。
その最たる例の一つが、日本原子力発電の敦賀原子力発電所をめぐるもの。敦賀原発には2基ある。敦賀1号機については今年4月27日をもって廃炉が決まり、敦賀2号機については今後本格的な議論が始まる見通し。しかし、この敦賀2号機に関しては、大きな問題が横たわっている。
5月22日付け福井新聞などで既報の通り、日本原電の濱田康男社長は、敦賀2号機の再稼働に向けた規制基準適合性審査(安全審査)に係る申請を「夏から秋ごろには行いたい」と述べたとのこと。この審査を担う規制委・規制庁は、今年3月25日の第65回原子力規制委員会において、この敦賀2号機直下の破砕帯に関して、規制委・規制庁が指名した"有識者"をメンバーとする"有識者会合"が「地盤をずらす可能性のある断層(活断層)」と結論付けた評価書を確定させた。
しかし、この評価書案を他の"専門家"がチェックした昨年12月10日の有識者会合ピアレビューでは「科学的な解釈の中身に問題がある」と修正を求める意見が相次いだ。日本原電も、活断層の可能性を一貫して否定している。規制委・規制庁は、活断層があると認めた原発であっても、再稼働に向けた安全審査の申請を拒否しない方針のようだ。規制委の田中俊一委員長は、敦賀2号機直下の破砕帯の活動性について、日本原電から安全審査の申請があれば「規制委が審査で判断する」とし、"有識者会合"の評価書は「重要知見の一つとして審査の参考にする」との意向を示している。
ではここで、敦賀2号機に関する上述の"有識者会合"による評価書を例として、規制する側と規制される側の関係について深く考察していく。日本原電は、審議の進め方や技術的な問題点に関し、次のような見解の公表や申入れを行うなど、評価書の見直しを強く求めてきた。
http://www.japc.co.jp/news/press/2014/pdf/261210.pdf (2014年12月10日/敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合ピア・レビュー会合について)
http://www.japc.co.jp/news/press/2014/pdf/270305.pdf (2014年3月5日/原子力規制庁への申し入れについて)
http://www.japc.co.jp/news/press/2014/pdf/270324.pdf (2014年3月24日/原子力規制委員会への申し入れについて)
http://www.japc.co.jp/news/other/2015/pdf/20150416.pdf (2015年4月16日/敦賀発電所の敷地内破砕帯に係る「評価書(平成27年3月25日)」の問題点について)
一方、規制委・規制庁は、昨年12月3日の第43回原子力規制委員会で、安全審査に当たっては「他のサイトと同様に、原子力規制委員会が審査を行い、許認可の可否を決定する。この際、有識者会合による評価を重要な知見の一つとして参考とする他、事業者から追加調査等による新たな知見の提出があれば、これを含めて厳正に確認を行っていく」との方針を明示した。
原発の敷地内破砕帯に係る審議は、規制委・規制庁が旧原子力安全・保安院による耐震安全性再評価(=通称「耐震バックチェック」)の積み残しを引き継いだものである。これに関しては、有識者による現地調査の結果などを踏まえ、規制委・規制庁が自ら評価することとされていた。
これは、2012年12月10日の敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合(第1回評価会合)での田中委員長による「今のままで再稼働ということでの安全審査はとてもできないなというふうに、私は印象ですけど判断しました。ただ、これは委員会で皆さんからの報告を得た上で決めたいと思いますので」との発言からも明らかである。だから、昨年12月3日に規制委・規制庁が示した方針は、従来からの方針転換だということになる。ただ、方針転換をした理由は明らかにされていない。
原発の安全性とは、それぞれの原発ごとにどの程度のリスクがあるのか、ということに他ならない。それについては当然、最新の科学的な知見に基づいて原子力規制を執り行う行政機関としての判断がなされる。その論拠こそ、昨年12月3日に規制委・規制庁が示した方針に掲げられている「重要な知見」であるはずだ。
とても科学的なものとは言えない、"神頼みの評価書"
ところが、"有識者会合"には法的根拠はなく、その位置付けについては各方面から批判が多い。規制委・規制庁としては、自らが判断するために"有識者"である専門家に科学的な助言を求めたということなのだろう。科学者たる"有識者"の役割は、現在の学術レベルでの知見を最大限活用し、客観的なデータに基づいて、分かること・分からないことを識別し、どのように評価することが最も確からしいのかを専門家の立場から提示することであろう。それ以外の何ものでもないはずだ。
特に、敦賀2号機や他の原子力事業者の原子炉であって、相当の商業運転実績のある既設のプラントを審査するのであれば、過去に安全審査を担った専門家や規制される側にいる原子力事業者の担当者らの意見を十分に汲み入れる必要がある。彼らには、相当の知見が蓄積されているからだ。そうした意見も踏まえながら議論と検討が重ねられて取りまとめられたのであれば『品質の高い評価書』となり、まさに「重要な知見」に値するだろう。科学者の助言を仰ぎながら行政判断がなされることはよくあることだが、いずれの場合でも『品質の高い』助言であることが前提となっているのは必然だ。
そういう視点で、私なりに敦賀原発2号機の破砕帯に関して規制委・規制庁に受理された評価書を分析してみた結果、その評価書は、
@事実誤認に基づき、
A通常の学術的手法を無視し、
B科学的な論理に一貫性のない、
C原子力事業者側の説明を単に否定するだけで、
D"見えている事実"を見ず、"見えない願望"にすがったもの
にしか思えないのだ。これでは「重要な知見」になり得ず、"品質の低い"評価書でしかない。では、このような"品質が低い"評価書となった理由が何か?
それは、"有識者"の人選に大きな問題があったからであり、そのような仕組みを作った規制委・規制庁に責任がある。昨年12月10日の有識者会合ピアレビューの議事録にも書かれているが、敦賀担当以外の専門家から出された次のコメントがとても印象的だ。
〈 重要なことは、その可能性が非常に高いということが重要であって、その附帯事項として、それは100%は証明されてませんよと書くべきであって、その後者を表に出すというのは、科学的でも技術的でもないですよね。それはもう明らかに何らかの別の判断が入ってるということになりますので、やはり物事はきちっと正しく、データとして意味のあることを前面に出して、それの信頼性を付記するという形でいかないとまずいと思います。 〉
ただ、規制委・規制庁に報告された"評価書"には、このコメントはまったく参酌されなかった。この"有識者による評価書"は、"有識者"が作りたいと思っていた"物語"でしかないのではないか? ――私には、とても科学的なものとは言えない、"神頼みの評価書"にしか思えないのだ。
このような分析は、日常的に規制委・規制庁をみているはずの報道機関からはいまだ発信されていない。原子力規制行政に関する多くのマスコミの姿勢は、日和見主義に染まっているように思う。マスコミ各社は、反原発や嫌原発の姿勢のほうが読者ウケするはずだという"独善的一方的な世論の深読み"から早く脱却し、規制委・規制庁の科学的に正しい部分とそうでない部分の両方を的確に報じていくべきだ。そうしたバランスある報道のほうが、結局は記者と読者の両方の原子力リテラシーを引き上げることにつながるであろう。
<参考リンク>
◆地層の専門家でコンクリートが活断層に見えた東大地震研究所の佐藤比呂志教授が執行委員長を務めた東京大学職員組合↓
https://twitter.com/9jyoutw/status/557202260019511297
九条科学者の会
@9jyoutw
東京大学職員組合セミナー「急進展する、軍学共同」(講師:池内 了 名古屋大学名誉教授・宇宙物理学者)1月21日(水)12:10〜13:00 東京大学工学部新2号館211号室にて。詳細は、東京大学職員組合HPを参照してください。http://tousyoku.org/
◆渡辺満久教授の11月23日講演「確実に活断層だ」報道への批判
http://togetter.com/li/412522
山猫 だぶ @fluor_doublet 2012-11-24 22:04:01
この人の発言を追ってみると、学術以外の「なにか」別の思想を感じる。それは調査団メンバーにに必要とされているのだろうか。/大飯原発「確実に活断層だ」 現地調査団の渡辺氏 - 47NEWS(よんななニュース) http://t.co/hasZnjpW
http://www.asyura2.com/15/genpatu43/msg/143.html