スカイマーク再建の暗部と呆れた内情 批判集める多比羅裁定、民事再生法の欠陥露呈
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150603-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 6月3日(水)6時2分配信
破綻して民事再生法に基づく再建の道を模索しているスカイマークが先週金曜日(5月29日)、東京地裁への再建計画案提出にこぎ着けた。とはいえ、先行きに漂う暗雲は払しょくされていない。大口債権者である米航空機リース会社イントレピッド・アビエーションが全日空ホールディングス(ANAHD)を排除する独自の再建計画案を出す騒ぎに発展したためだ。
いかにも日本的というか少し不思議なのは、早くから29億7000万円の第三者割当を引き受けて身銭を切って再建を支援するANAHDが、大詰めで卓袱台返しをした張本人として新聞各紙で批判の的になっている点だ。スカイマークが運航していた航空機エアバスA330の引き取りをめぐって、イントレピッドに対する信義則違反を犯して、再建計画全体を危うくしたとされている。
しかし、イントレピッドの主眼は自社の債権カット額を減らすことにあるとみられる。スカイマークの債権弁済をめぐるトラブルの責任をANAHDだけに帰すのはやや無理がある。そもそも、2000年に中小企業の企業再生を対象として発足した民事再生手続きの制度的な欠陥や暗部こそ、直視すべきではないだろうか。
5月29日公表の再建計画案によると、東京地裁や債権者の了承を得られれば、スカイマークはまず100%減資を実施。その後、第三者割当増資を行い、180億円の資本を調達する。引受先と内訳は、投資ファンドのインテグラルが50.1%、ANAHDとその友好銀行(日本政策投資銀行と三井住友銀行が組成・出資するファンドUDSを通じて出資)が合計で49.9%。スカイマークの取締役は、インテグラルが3人、ANAHDが2人、UDSが1人を指名する。ちなみに、会長をインテグラルが、社長をUDSが選定する予定だ。
資金繰りに着目すると、180億円のうち、民事再生手続きに必要な弁護士費用や再生債権者への弁済に必要な費用の合計約25億円を差し引いた残り、つまり155億円程度をスカイマークの債権者への弁済に充てる計画。弁済率は100万円までが100%、それを上回る部分は5%を予定している。ちなみに、現時点までに1901人の債権者が、合計で3089億円の債権を主張しているという。7〜8月に開く債権者集会で了解が得られれば、再建計画がスタートし、第三者割当増資や取締役人事が実施される。
一番肝心な点だが、今のところ債権者集会で再建計画への了解が得られるかどうか予断を許さない状況だ。
●不可解なANAHD批判一色
最大の懸念は、5月29日付で支援航空会社を未定としつつ、ANAHDを外し、スカイマークにリースしてきた機材を引き続き使用するよう求める独自の再建計画案を提出したイントレピッドと、その機材の製造メーカーである欧エアバスの動向である。再建計画をスタートさせるには、債権総額の2分の1以上に当たる債権者の了解が必要だからだ。これから精査の手続きに入る段階にあるものの、この2社は言い値ベースでそれぞれ1150億円、880億円の債権があるとしており、合わせて全体の3分の2近くを占める計算になっている。そもそも、これほど問題がこじれ、一大口債権者が再建主体の企業と対立する案を裁判所に持ち込むのは、異例の事態といってよいだろう。
この2社が再建計画案の提出直前になって態度を硬化させた原因として、新聞各紙がやり玉に挙げたのがANAHDの対応だ。5月27〜29日にかけての各紙のインターネット版をみると、以下のような具合になっている。
「イントレピッドは4月中旬の時点ではANAの参画を支持する意向を示していたが、最近になって反対に転じたという。イントレピッドの支持は、投資ファンドのインテグラル(東京)がANAとの共同支援に合意する決め手の一つだった。スカイマークがリース契約を解除した中型機の活用をめぐり、意見が対立したことが背景にある」(27日付読売新聞)
「イントレピッド・アビエーションとエアバスがANAホールディングスの支援を盛り込んだ再生計画案に難色を示した。背景にはANAへの不信感があるとみられる。債権者側は経営破綻で被った損失をANAとの個別の商談で穴埋めできると期待していたが、商談が成立しない見通しとなったことに反発している」(28日付日本経済新聞)
「米航空機リース『イントレピッド・アビエーション』が、機材のリースなどの方針を巡ってANAと対立し、同社の出資に反対。エアバスも難色を示している」(29日付毎日新聞)
「両社はスカイマークの経営破綻でこうむった損失をANAとの商談で穴埋めするつもりだったが、ANAに断られ、その思惑が狂った。このため両社には、賛同取り付け後、同案提出の直前に『はしごを外された』との不信感がANAに対して募った」(29日付ロイター通信)
こうした報道がなされる中、29日、再建計画案公表に同席したANAHDの長峯豊之上席執行役員は、次のように述べて新聞各紙の論調に反論したが、ほとんど無視された。
「イントレピッドだが、スカイマークで使用していたA330を使う可能性について、協議を行ったことは事実。ただANAの信義違反があったかのような新聞報道が最近あるが、協議の中で拘束力を持つような約束は行っていない。従い、イントレピッドの主張については戸惑いも感じている」
「我々の機材調達の基本的な考え方は、中長期的な経営戦略、財務状況、経済合理性などを総合的に判断して決定していくということ。従い、我々が今回スカイマークのスポンサーになったからといって、機材を調達するということはない。エアバスとは長きにわたり友好的な関係にあると思っており、この友好関係は今後も継続すると信じている。この関係を背景に、大口債権者であるエアバス社との交渉について、我々なりにお手伝いしていきたい」
ANAHDは、昨年秋から今年初めにかけてのスカイマークとの資本・業務提携を時間切れでご破算にし、スカイマーク破綻の直接の引き金を引いたとされている。その言動の稚拙さも含めて、今回も一定の責任がある可能性は否定できない。
しかし、ANAHDだけにすべての責任があるかのような論調には首をかしげざるを得ない。
●誰が責任を問われるべきか
というのは、ANAHDは再建計画の一スポンサー、それもマイナーな出資をするスポンサーにすぎないからだ。むしろ、責任を問われるべき立場にあるのは、再建の主体であるスカイマークや、再建計画全体のアドバイザーであるGCAサヴィアン、そして再建計画の「監督委員」を務める多比羅誠弁護士(ひいらぎ総合法律事務所)といった面々のはずだ。
補足すると、ANAHDは片野坂真哉社長名で4月9日、GCAの高橋元マネージングディレクターらに、再生計画で集めるべき資本を250億円とするほか、別途最大で100億円程度の運転資金の確保が必要とする「スカイマーク株式会社の再生に向けた当社の出資に関するご提案」を提出。今回、第三者割当増資で集めることになった180億円では債権者への弁済として不足する恐れがあることを、早くから主張していた。再建にあたって債権者の同意を取り付けて円滑に計画を軌道に乗せるためには、少しでも多くの資本や運転資金を確保して、債権カット額を減らしたほうがよい。
それにもかかわらず、あえてANAHDの提案より少額の資本金を選択する決定を行った第一の責任は、多比羅監督委員にあると考えるべきだろう。というのは、同氏は再生計画づくりの遅れを理由に、東京地裁のお墨付きを得たとして4月16日に増資額を180億円、出資額をインテグラル50.1%、ANAHDコンソーシアム合計で49.9%とする「多比羅裁定」を下したからだ。専門家の間では、この増資額や出資比率が、スカイマークの破綻時にいち早くDIPファイナンス(再建のためのつなぎ融資)を行ったインテグラルが潤沢な資金を保有していないという事情に配慮しすぎたものだと批判の対象になっている。
加えて、多比羅監督委員が民事再生手続きの期限を最優先したため、出資者は十分な資産査定(デューデリジェンス)の時間を与えられなかった。両社は、翌日までに多比羅裁定を受諾するか否かを迫られたのだ。
●民事再生手続きの欠陥
責任という意味では、当事者、責任者でありながら経済合理性や論理的根拠を考慮せず、強引な裁定に唯々諾々と従ったスカイマークとGCAも同罪だろう。さらにいえば、経済や経営の専門家ではない弁護士の多比羅監督委員にお墨付きを与えた東京地裁の判断も、きっちりと問われるべきなのである。
裁判所が、あくまでも法律家であって、経済、経営、ビジネスの専門家ではない弁護士に多くを依存して企業の再生を進めていく現行の民事再生手続きのあり方は、弁護士にその能力を超えた判断を迫ることになりかねないという致命的な欠陥がある。この制度が、創設時に中小企業を対象にしていたため、大規模な監督チーム・組織の設置の余地を残していないことが、こうした状況を招いている。
既得権化したビジネスを失いかねないだけに反発が予想されるが、弁護士たちに依存しすぎる企業の破綻、再生処理の制度は、経済社会に馴染まないはず。早急な見直しが必要である。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)