[真相深層]選挙離れ、若者だけか
昨年衆院選、シルバー層も投票率低下 政党・地域と疎遠に
4月の統一地方選で各地の選挙管理委員会が投票率アップ作戦に力を入れている。最近はあらゆる世代で選挙離れが加速しているためだ。投票率が52.66%(小選挙区)と過去最低になった2014年12月の衆院選は、すべての年齢で12年の前回衆院選より下がった。若者だけでなくシルバー層の多くも投票に行かなくなった要因には、世代ごとの事情も浮かぶ。
総務省が発表した年齢別の投票率を10歳ごとの年代別で見ると、70代から下は若いほど投票率が低くなっている。最低の20代は32.58%で、最も高い70代の70.01%と比べて半分を割った。60代から下のすべての年代は、総務省がホームページで記録を公表しているこの約50年間の衆院選で最低の水準になった。
計量政治学(選挙分析・世論調査)が専門の明治大の井田正道教授は20〜40代の下落が顕著と分析する。総務省の調査結果をもとに、12年の衆院選で投票所に行った各年代の100人のうち、14年も投票したのは何人になるか計算した。20代で86人、30代と40代でそれぞれ84人、50代で88人、60代で91人、70代で95人、80歳以上で93人となった。
井田氏は「20〜40代は無党派が多い世代。政権選択選挙でもなく、大きな争点もなかったため下がった」と語る。特に青壮年で膨張していた無党派層は一票を投じたい政党や政治家が見つからず、さらに足が遠のいてしまった、というわけだ。
「遠くて行けず」
高齢者はどうか。人口減や市町村合併が進み、投票所が減っている事情が絡む。
「投票所が遠くなって高齢者は足を運びにくくなった」。熊本県宇城市の関係者は嘆く。09年の衆院選で62カ所あった宇城市の投票所は一気に減り、14年は37カ所だった。投票率は09年は71.93%で全国平均を上回ったが、14年は45.50%にとどまり、全国平均より低い。
14年の衆院選で全国の自治体が設置した投票所は4万8620カ所。衆院選では2000年が5万3434でピークで、その後は下がり続け、12年より593減った。
自宅から投票所に行くまでにかかる時間が長くなると、投票率が下がる傾向がある。「家にいるおじいちゃんは足が悪い。投票所が遠くて来れなくて、私一人で来たんです」。埼玉大学社会調査研究センターによる出口調査でも、高齢の女性からこんな声が相次いだ。
高齢者の投票率低下について、有権者の投票行動に詳しい同大の松本正生教授は「社会の『無縁化』も影響している。特に田舎では高齢者の人と人の関係が密接だったが、今は急激に希薄になっている」と指摘する。
啓発に限界も
早ければ16年夏の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」に引き下がるのを見込み、各党は新たに有権者になる18歳と19歳の約240万人の取り込みを狙う。
2日、柿沢未途政調会長ら維新の党の国会議員約10人が大学生と国会内で意見交換会を開いた。「被選挙権年齢の引き下げも必要だ」。大学生からこんな意見が出ると、丸山穂高衆院議員は「次のステップとしてやっていきたい。党の政策に生かしたい」と応じた。
14年の衆院選では例えば高知県選管の場合、商店街などで、ゆるキャラ「いっぴょう君」のバッジを配ったり、選挙で最重視する問題を「保健・医療・福祉」「外交・安全保障」などテーマ別にシールで貼ってもらったりした。ご当地アイドル「土佐おもてなし勤王党」も活動に加わった。
高知市の20代前半の投票率は22.96%で、12年衆院選の22.92%とほぼ横ばいだった。県選管は一定の手応えを感じているが、「ほとんど効果は出ていない」(井田氏)と厳しい見方もある。
政党や政治家に魅力がなければ、有権者を選挙に向かわせることができず、民主主義を立て直す根本的な解決にならない。イベントや宣伝の啓発効果には限界がある。
(編集委員 佐藤賢)
[日経新聞3月21日朝刊P.2]