1月7日、日本マクドナルドホールディングス記者会見の模様
マック崩壊を招いた、組織破壊と優秀な人材の放逐 FCから反発噴出で集団離反の恐れも
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150320-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 3月20日(金)6時1分配信
日本マクドナルドホールディングス(以下、日本マクドナルド)が、昨年7月に発覚した中国食品会社の使用期限切れ鶏肉使用問題に端を発し、その後、立て続けに起こった異物混入問題で客離れを起こし、1971年7月に銀座三越(東京)に第1号店を開業して以来の未曾有の経営危機に直面している。
日本マクドナルドの2014年12月期決算は売上高約2223億円(前期比14.6%減)、営業損益は約67億円の赤字、最終損益は当初予想の170億円を48億円も上回り約218億円の大赤字となった。最終損益が赤字になるのは03年12月期以来、11年ぶりのことだ。ちなみにFC(フランチャイズチェーン)を加えた全店売上高は約4463億円(同11.5%減)。また店舗数は直営が1009店、FCが2084店の合計3093店であった。
創業以来の悲惨な決算に拍車をかけたのが、今年1月の既存店売上高が前年対比38.6%減と、4割近くも落ち込んだことだ。客数も28.5%減と大幅に落ち込んだ。「マクドナルド離れ」は深刻な状況にある。この異常ともいえる落ち込みに、日本マクドナルドでは「今期の業績予想や配当は未定」として発表しなかった。
一連の品質問題と業績悪化の原因をつくりだしたのは、現会長で前社長兼CEOである原田泳幸氏時代の経営だという指摘が数多くなされている。
原田氏は04年4月21日に日本マクドナルド創業者の藤田田氏が死去した直後に同社社長に就任した。藤田氏は米マクドナルド創業者のレイ・クロック氏が日本マクドナルドの合弁企業相手に選んだ人物で、日本マクドナルドを大成功させた大立者である。米本社は何よりも先に、藤田氏の社葬を開催するか、それが無理なら会社主宰の偲ぶ会を開催すべきであった。ところが、米本社には藤田氏を丁重に葬送するという発想がなかったどころか、これをチャンスと見て「藤田経営の破壊」を仕掛けるのだ。
米本社の考えを経営に反映できる代理人として、アップルコンピュータ社長だった原田氏をスカウトし、04年5月に日本マクドナルドの社長に就けるのだ。原田氏がアメリカ本社から叩き込まれたミッションは、「藤田経営潰し」であり、「藤田派幹部の一掃」であった。原田氏が日本マクドナルドのトップとして乗り込んで最初の取締役会で英語のスピーチを行い、「バスに乗る者はバスに乗れ! そうでない者は辞めろ」という方針を明確に示した。こうして藤田派の経営幹部の切り捨てが始まったのである。
●「藤田=悪の権化」を切り捨て
原田氏はアメリカナイズされた合理主義者である。日本式の礼儀や義理人情は一切通用しない。ひたすら米本社に忠誠を誓い、自らの保身に汲々とした。藤田氏の偉大さや功績、その起業家精神をも自らの意思で評価しようとしなかった。米本社も藤田氏へのリスペクトもなく、「藤田=悪の権化」として切り捨てることで日本マクドナルドが再構築できると思っていた。原田CEO時代、日本マクドナルドのホームページからは藤田氏の痕跡が消された。
原田氏は米本社から与えられたミッション、すなわち藤田氏の功績の抹殺、藤田派の幹部の切り捨て、経営システムの破壊などを進めた。原田氏の経営についてはすでに数多く報じられているのでここでは詳しくは触れないが、2つだけポイントを取り上げよう。
一つが、日本マクドナルドの根幹にある「品質管理システム」をコスト削減の名目で外部に委託したことだ。このため一連の異物混入問題が発生した時、その実務を担える人材が流出していたために対応できなかった。原田氏が行き過ぎた組織破壊を進めて人材を流出させたことが、このような問題を引き起こした。
もう一つがFC化率を高めたことだ。藤田時代、のれん分けのかたちで独立させたFCが全体の3割にとどまっていたのに、FC化率を7割まで高めた。直営店舗をFCオーナーに売却し、大ざっぱに約150億円の利益を出した。原田氏が推進したFC化率7割は、ハンバーガー大学のようなかたちで藤田氏が構築してきた教育研修システムを破壊した。
「FC化を進めたことで、現場のクルーのモラルは大きく下がりました。藤田時代ならアルバイトにも研修を受けさせ、アルバイトから社員になる人も多かった。社員になるとマネージャー教育が受けられ、経験を積んで複数店を管轄するスーパーバイザーに昇格すれば米国研修へ行けるといった研修システムが出来上がっていました。やる気のある人材が登用されるケースがよくありました。ところがFC化すると、アルバイトから本部の社員に登用されることが難しくなります。また、アルバイトもFC店では出世できても、本部の社員として活躍する道が閉ざされ、どうしてもモラルが下がってしまうのです」(マクドナルド研究の第一人者で関西国際大学教授の王利彰氏)
店舗でのクルーのモラルの低下は、相次いで異物混入問題が起こる引き金になった。
ところでFCオーナーの8割以上は元社員であり、店長、スーパーバイザーなどの経験のある中堅幹部だ。藤田時代の教育システムで育ってきた人が多く、原田氏にしてみれば抵抗勢力になる人たちだった。
原田氏は抵抗勢力に対してはアメとムチで対応した。例えば07年11月、抵抗勢力のFCオーナーたちが「社内基準を過ぎたサラダを賞味期限偽装で販売」していたのを捉え、偽装が発覚した4店舗のFC契約を解除し、直営に移行させた。一方、原田氏に尻尾を振ってくる人たちを取り込み、直営店を売却しFCオーナーとして独立させた。
原田氏は04年5月に日本マクドナルドのCEOに就き、13年8月、カサノバ氏にCEOを譲って代表権のない会長に退いた。原田氏は藤田時代の役員をすべて解任し、原田氏が就任中だけで役員が3回交代、就任時に外部からスカウトしてきた取締役も全員退任させてしまうなど、独裁的な経営手法で有能な役員、経営幹部、中堅幹部などを辞めさせた。その結果、カサノバ氏のブレーンには使える人材が残らず、それが異物混入問題の傷をより深くしたといわれる。
原田氏の2大愚策といわれるのが、12年に実施したカウンターからのメニュー撤去、もう一つが13年に実施した、60秒以内に商品が提供できなければ無料券を渡すというキャンペーンだ。どちらも客のことも店舗スタッフのこともわかっていない無責任な思い付きで、現場はひたすら混乱したという。藤田時代の古き良き日本マクドナルドは、この時期に壊れてしまったのかもしれない。
●FCオーナーたちの怒り爆発
日本マクドナルドは14年7月に発覚した期限切れ鶏肉問題に端を発し、異物混入問題が相次ぎFC店は売上高を激減させた。カサノバ氏はロイヤルティーの一律減額に踏み切るなど、FC支援対策として30億円を投入した。しかし、日本マクドナルドは14年12月期決算で最終損益が218億円の赤字に陥るほど、業績が悪化した。これより先、日本マクドナルドはFCオーナーたちを集め14年秋以降の売り上げ目標を提出させ、署名させた。これにはFCオーナーたちが怒りを爆発させた。
その中の一人である原島清司氏は、日本マクドナルドの社員時代を入れると30年以上店舗運営にかかわってきた。FCオーナーとして独立してからは、西多摩地区を中心に34店舗を展開する大物オーナーであった。FCオーナー会議に出席した原島氏は、壇上に居並ぶ経営幹部を見て、こう嘆いた。
「かつての藤田社長時代と比べると、販売の現場で働いたことがない人ばかりが経営幹部だ。マックはすっかり変わってしまった……」
原島氏は、販売現場で働いたことのない人たちが経営幹部であることに違和感を持った。それは原島氏が知る日本マクドナルドではなく、異質の日本マクドナルドであった。原島氏は藤田時代の終焉を知り、FC34店舗の本社への売却を決めたのである。これは米本社主導で進める日本マクドナルドの脱・藤田路線にとって、ショッキングな出来事であった。対応を間違えればFCオーナーの集団離反にも発展しかねない、深刻な問題であったからだ。
日本マクドナルドは、引き続き20億円規模のFC支援を決めた。FC店の平均月商は一説には1200〜1300万円といわれているが、売り上げの激減で、月間売上高の計20%を占めるロイヤルティー、家賃などを払うと、やっていけないところが増えているといわれる。そこで日本マクドナルドではロイヤルティーの引き下げ、食材費の支払い3カ月先送りなどの対策を取ったうえで、「ランチ時間帯の午前11時〜午後2時の売上高を取り戻す!」作戦を進めている。売上高伸び率(前月比)に応じて10段階に分け、0.3〜2.3ポイント減額する。15年1月〜6月末まで実施する計画だ。
日本マクドナルドは今年1月、売上高が前年対比で38.6%も落ち込んだ。年間売上高予想などは先送りしているが、2〜3月でも売り上げが回復しないと、FCの集団離反問題が再燃する可能性がありそうだ。
カサノバ氏はマレーシアでチキンの商品戦略を大成功させ、ケンタッキーフライドチキンを緊張させたという武勇伝の持ち主である。カサノバ氏自身、「当社のビジネスはFCと共にある」と、FC支援を惜しまない考えだ。これまでの内部蓄積も大きく、きっかけをつかめば再浮上する可能性は高いが、マーケティング屋のカサノバ氏が、この非常時を乗り切っていけるのかどうか、残された時間は少ない。
●米本社でもトップ交代
米マクドナルド本社は3月1日付で現CEOのドン・トンプソン氏が就任2年半で引責辞任し、スティーブ・イースターブルック・シニア上級副社長がCEOに昇格する人事を決めた。最大の課題は、客離れの進むアメリカ事業の立て直しである。新CEOはオーダーメード型バーガーを全米2000店で展開する再建事業に取り組んできた。店舗で「あなたのバーガーをつくろう」と書かれたタッチパネルを操作し、好きな具材を組み合わせ、「自分だけのバーガー」を作って食べられるという、従来のマクドナルドでは考えられない店舗づくりだ。「食の安全」問題でも自社サイト上で工場内を公開し、食の不安を払しょくする取り組みも行っている。
現在、マクドナルドは日米欧中など世界で客離れを起こし、売上高を落としている。これはマクドナルドのこれまでの大量生産、大量販売の経営モデルが行き詰まっているからだ。アメリカでは14年夏からオーダーメード型バーガー店を試験的に始めた。価格は従来より高くなるが、これが結構人気で、マクドナルド再建の切り札になりつつある。
日本マクドナルドも米マクドナルドにならい、早晩オーダーメード型バーガーの新型店をオープンし、負の連鎖で行き詰まっている現状を突破しようとするだろう。
日本マクドナルドは創業社長の藤田氏の偲ぶ会を開催、藤田氏に礼儀を尽くしたうえで、再出発すべきである。
文=中村芳平/外食ジャーナリスト