『東京ディズニーリゾート キャストの仕事』(講談社)
ディズニー公式「キャストの仕事ガイド」には書かれていないブラックな実態とは…
http://lite-ra.com/2015/03/post-943.html
2015.03.14. リテラ
「キャスト」と呼ばれる2万人以上のスタッフが運営を支える東京ディズニーリゾート。本サイトでも繰り返し指摘してきたが、そのうち9割がパートアルバイトなど非正規雇用のスタッフだ。
「東京ディズニーリゾートは青空を背景にした巨大なステージ。ここでは、見るものすべてがショーであり、おとずれるお客さまは『ゲスト』。ゲストを迎えてもてなすスタッフはショーを演じる『キャスト(役者)』と呼ばれるのです」「実際に働くキャストには、どのような職種があり、どんな仕事をしているのか、興味がわいてきませんか」というのは『東京ディズニーリゾート キャストの仕事』(講談社)。
同書では「キャストの職種をすべて紹介!」「働くって、おもしろい!」をコピーにキャストの27の職種とその魅力を紹介している。
そのなかでも「キャスト」らしい「キャスト」といえば、「File01」で紹介される「それぞれの役割を演じてゲストとの一体感を味わうアトラクションキャスト」だろうか。
「2つのパークにある、さまざまなタイプのアトラクションの案内や誘導をするキャストです。アトラクションにはそれぞれテーマやストーリーがあり、キャストは与えられた役割やショーを演じます。アトラクションによって業務内容は若干異なりますが、なかにはスピール(セリフを話すこと)をしたり、シーンにあわせて演技をしたりするものも」(同書より)
「ビーバーブラザーズのカヌー探検」では黄色いシャツに真っ赤なバンダナで、ゲストとともに「カヌーをこいで、アメリカ河の見どころを案内する」。「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」では「青にオレンジのラインが映える近未来的なデザイン」のコスチュームで「ハブ・ア・グレートフライト!」とゲストの乗る宇宙船を送り出す。「『信じていれば夢はかなう』というシンデレラの想いが伝わるように」従者のコスチュームで思いやりと親しみをこめてシンデレラ城内を案内するのは、「シンデレラのフェアリーテイル・ホール」だ。
「File02」で紹介されるのは「パークの安全と清潔を守る、おそうじのエキスパート! カストーディアルキャスト」だ。
「パークの清掃をしながらゲストの思い出作りをお手伝い」するカストーディアルキャストは時にはトイブルーム(ほうき)を使って、地面にカストーディアルアート(ディズニーキャラクター)を描くサプライズパフォーマンスも行うこともある。このカストーディアルキャストはそれまで不人気だった清掃業務にスポットライトをあてて、憧れの「キャスト」に仕立て上げた。これはディズニーマジックの功績の1つといえるかもしれない。
他にも「ワールドバザールキャスト」(チケットの販売員)や「パーキングロットキャスト(駐車場の誘導、料金徴収員)」から「ショーサービスドライバー(出演者の送迎バスの運転手)」「ワークルームキャスト(コスチューム修繕係)」など非接客の裏方業務まで27の職種が並ぶ。
掲載された座談会やインタビューでも「商品を通して、ゲストと会話できるのが醍醐味。“毎日が初演”を大切にして日々、勉強しています」(マーチャンダイズキャスト=グッズ販売員)「子どものころにキャストからもらった夢へのきっかけ。今度は私が子どもたちに夢を届けたい!」(カストーディアルキャスト)などと、キャストの魅力があますことなく伝えられているはず……だと思いきや、ないのである。ミッキーやミニーなどディズニーキャラクターの中に入るキャストや「ショーの出演者」などが27のキャストのなかに含まれていないのだ。ディズニーキャラクターの中に入るキャストが掲載されていないのは“夢の国”だから仕方がないとしても、「ショーの出演者」などは紹介されてしかるべきだろう。
しかし、「ショーの出演者」といえば、昨年(2014年)4月に東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは出演者の一部を解雇。その出演者らを中心に、オリエンタルランド・ユニオンが結成され、請負契約となっていた労働形態は「偽装請負」だったとして東京労働局に申告、オリエンタルランド側に直接雇用を求めて交渉中で世間をにぎわせた。こうした経緯があるだけに厄介な「ショーの出演者」に触れたくはないのだろうか。
今回、オリエンタルランド・ユニオンに『東京ディズニーリゾート キャストの仕事』の感想を聞いたところ、次のように語った。
「たしかに掲載されていないキャストがあります。パレードのダンサー、ミュージシャン、パレードカーの運転手、花火・パイロ運用担当、船の操船、造園などです。なお、オリエンタルランドはパレードやショー運営に関しては、複数の中間業者と請負契約を結んでいます。『ショーの出演者』はオリエンタルランド側と雇用契約を結んでいたわけではなく、中間業者と契約する形になっています。オリエンタルランド側は、請負業者と請負契約を結んでいる『注文主』の立場にすぎないという立場ですが、現実にはオリエンタルランド側と『ショーの出演者』との間に指揮命令関係があったために、『偽装請負』だったのではないかと私たちは指摘しているのです。こうした中間業者との請負契約は『ショーの出演者』だけではありません。パレードのダンサー、ミュージシャン、パレードカーの運転手、花火・パイロ運用担当、船の操船、造園などにも見られます。つまり、中間業者がかかわる職種が『東京ディズニーリゾート キャストの仕事』では紹介されていないのです」
たしかに巻末のクレジットには「撮影・取材協力」として「株式会社オリエンタルランド」があげられており、発売元の講談社も東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサー。「キャストの職種をすべて紹介!」といいながら、オリエンタルランドが見せたいキャストだけが紹介されている本なのだ。さらに東京ディズニーリゾートの労働環境の改善を要望するオリエンタルランド・ユニオンはキャストの職種に共通する問題点も指摘する。
「この本には紹介されていませんが、憧れの職業であるキャストの時給は1030円で頭打ちになってしまいます。この他に、応募が集まりにくいカリナリーキャスト(調理業務)などは調整給として50円〜100円が上乗せされることがありますが。2000年代前半までは、1200円台という時給もあったのですが、どんどん下がってきています。オリエンタルランドは4月1日から、東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーの料金を値上げすると発表しています(1日券である1デーパスポートは大人6400円から6900円にする、500円の値上げなど)。値上げは設備投資に回すようですが、少しでもキャストの時給アップに回してもらいたいものです。それでなくても人件費をギリギリまで圧縮しているがために、『アナ雪』効果で殺到する来場者数に対応できない数のキャストしか配置せず、キャストは疲弊して、サービスが低下しています」
『東京ディズニーリゾート キャストの仕事』では「『キャスト』とは東京ディズニーリゾートで決して欠かすことのできない大切な存在です」としているが、その分、せめて時給アップはしていただきたいものだ。
(小石川シンイチ)