2月18日、黒田東彦日銀総裁は、一段の円安進行が追加緩和の障害になる可能性も否定した。写真は都内で18日撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)
一段の円安進行、追加緩和の障害とならず=日銀総裁
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKBN0LM13X20150218
2015年 02月 18日 21:44 JST
[東京 18日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は18日の会見で、物価の基調が下振れた場合は追加緩和をちゅうちょなく実行するとしつつ、一段の円安進行が追加緩和の障害になる可能性も否定した。
市場では早期の追加緩和を見込む向きは少ないものの、当面の焦点とみられる賃上げの帰すうによっては、インフレ期待が想定よりも高まらない可能性など、4月以降の金融政策決定会合では本気度が問われる局面を迎える可能性がある。
この日の会見では、原油価格の下落を受けて足元の物価上昇率の鈍化が続く一方、円安による中小企業や家計の負担増を警戒する政府サイドの追加緩和に対する慎重な発言などもあり、追加緩和の是非と円安の影響に関する質問が相次いだ。
これに対して総裁は、昨年10月末に実施した追加緩和によって「原油価格による消費者物価上昇が徐々に縮小している中でも、物価上昇期待は保たれており、効果はあった」と指摘。今後も「物価の基調」が下振れ、物価目標の早期実現に必要となれば「ちゅうちょなく調整をする方針に変わりはない」と強調した。
早期の物価目標達成にコミットし、それを裏付ける大規模な金融緩和で人々のデフレマインドの転換を図ることを政策の柱に据える日銀にとって、目標達成への本気度が疑われることは避けなければならない事態。
円安についても総裁は「為替相場がファンダメンタルズを反映して安定して推移している限り、経済にマイナスになることはない」と繰り返し、間接的に円安進行が追加緩和の障害になるとの思惑を否定した格好だ。
一方で総裁は、物価の基調が維持されている現状においては「直ちに追加緩和を行う必要はない」とも指摘。「物価の基調」では生鮮食品を除いたコア指数のほか、原油下落の影響を除いたベースなどの「さまざまな指標」に加えて「賃金決定や企業の価格設定行動といった物価観も勘案していく必要がある」と述べ、当面は本格化している春闘など賃上げ動向を見極めていく姿勢を示した。
日銀は、原油価格下落の経済への好影響を含めて、景気の先行きに自信を深めている。その一方、2015年度を中心とする期間中に、物価2%に到達するかどうか不透明感が強い。
総裁の今回の発言から導き出されるシナリオの1つとして、賃上げが事前予想よりも小幅で、インフレ期待が想定よりも高まらないと判断した場合には、再び追加緩和を検討する──という展開がある。
一方、政策委員内からも円安進行による実質所得減少を通じた消費者マインドへの悪影響などを懸念する声があるのも事実。市場の追加緩和観測は後退しつつあるものの、目標達成期限が視野に入る中で、2%からどんどんコアCPI上昇率が離れて行く事態に直面した場合、果たして期待インフレ率は低下しないでいられるのか。
もし、現実の情勢が期待の下がるシナリオに進み出した場合、日銀は追加緩和を選択するとみられる。
原油価格の前提が下振れた場合の影響を含め、日銀の政策判断はより難しさを増している。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)