日本に高まる『過度』なリスク
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2015年02月03日 在野のアナリスト
国債市場では10年債の入札が不調で、円債相場が荒れました。豪国の利下げもありましたが、債券価格の急落にあわせて円高となり、株式市場も急落しています。国債を応札し、それを僅かな値上がりで日銀に売る、いわゆる日銀トレードが通用しなくなり、新発ものを買うインセンティブは、金融機関にもほとんどありません。株も日銀や年金が買っても、上値を追う動きにはならないため、買う気になれない。ここに来て、REIT市場も続落するなど、金融資産への逆方向の動きが見え始めており、その動きを助長しているのが外国人投資家です。
各国が金融緩和に向かい、先頭を走っている日本の魅力が、相対的に低下してきた。つまり日本は引き締めもしていないのに、各国が緩和することで相対的に引締めのような状況に陥っているのです。これにより需給が悪化しつつあり、外国人投資家は逃げだし、また取引が薄くなったところで大きな動きをだそうとして、仕掛け的な売買が入る。日銀、年金が買うことで、水準感が見え難くなっていることもあり、オプション市場が低調となるために、ますます値動きが荒くなる。値動きが荒くなるから、さらに長期投資家が逃げるという悪循環に陥っているのです。
では日銀が追加緩和する、としてもこの流れを止めるのは難しいでしょう。まず債券市場や株式市場のボラが高くなり、安全な運用が難しくなっているためです。売買が低下している中でのボラティリティの高まりですから、尚悪い。しかも日銀がさらに市場介入すると、この動きはさらに加速するかもしれない。日銀の運用枠は決まっており、1月には今年運用する分の10分の1以上、使ってしまった。昨年末の前倒し執行と合わせ、9月には使い切ってしまう。それを後、数兆円増やしても1日の枠を今以上に上げることは難しいでしょう。市場を沈静化させるほど、資金の投入ができないのなら、値動きを荒くして稼ごうとする人間ばかり跋扈することになります。
しかも悪いことに、ピケティ氏が登場して新自由主義の手法にも、懐疑的な見方が増えてきました。すでに『異次元』の緩和状態にある日本が、世界中に広がる緩和の流れに追随したとしても、効果のほどは知れていますし、その手法自体が問題視されることでしょう。落ち着きどころを失った市場と同様に、慌てて対策を打てば、その焦りがさらに不安を生じさせます。
安倍首相は人質事件について「過度にテロリストに気配りする必要ない」と述べますが、まったくその通りの意見ですが、これは単なる議論のすり替えです。「人質がいることに気配りし過ぎることはない」のです。通常の誘拐、人質事件でも警察は情報公開に慎重ですし、メディアも配慮します。それを、一国の首相が「犯人に気配りする必要ない」からといって、刺激してよいはずがありません。気配りする相手が違うのです。安倍氏はわざと議論のすり替えを行い、剰えさらに追求すると、「ISILを批判してはいけないと言っているように聞こえる」と、世間の風潮が「安倍政権を批判してはいけない」に流れていることと同調するような反論の仕方をしました。
一国の首相が、こうした議論のすり替え、中身のない答弁をする。これは人質事件に限らず、経済も同じです。もしかしたら、日本企業が海外事業にリスクを感じ、国内に生産拠点を移してくれたら…などと、この政権では本気で考えているのかもしれません。そもそもこれで海外進出している企業の安全対策にかかるコストが、大幅にアップとなります。金融市場の混乱で稼げなくなった金融機関。円安で苦境の国内中小企業、そして海外展開する大企業もリスクが高まった。正直、不穏な動きがそこかしこで起きる、そんな状況になってしまったのです。何ごとでもそうですが、あらゆるものごとに配慮し、バランスよく政策を打つことが大切なのです。それを「過度に…」などと言っている時点で、安倍政権のバランス感覚は明らかにおかしく、それが日本のリスクを助長する原因、ということになってしまうのでしょうね。