原油先物と消費者物価指数(日本と欧州編)
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2015年2月3日 9時50分 久保田博幸 | 金融アナリスト
欧州連合統計局(Eurostat)が発表した1月のユーロ圏CPI速報値は、前年同月比でマイナス0.6%となった。昨年12月はマイナス0.2%となっており、マイナス幅が大きくなった。このマイナス0.6%は、2009年7月に並ぶ過去最大の物価下落率となった。この今年1月の物価下落は原油先物の下落による燃料価格の急落が背景にあった。
ユーロ圏は2009年6月から10月にもインフレ率がマイナスとなっているが、これは日本のCPIでも同様の動きがあった。このとき、何が起きていたのか。
2008年1月18日に証券化商品を保証していたモノラインと呼ばれた金融保証会社が資本調達難から格下げされ、証券化商品全体の価格下落に拍車をかけた。世界的な株安連鎖により市場は混乱に陥った。3月14日に証券化商品を大量保有していた投資銀行のベア・スターンズが資本調達の失敗から資金繰りに行き詰まり、FRBの資金支援のもとJPモルガン・チェースに買収された。
このタイミングでなぜか商品市況が急騰していたのである。中国やインドなど新興諸国を中心とした世界的な需要増加によるものとの見方もあった。しかし、原油価格は2008年7月11日につけた147.27ドルをピークに急落していた。
サブプライム問題を起因としての米大手金融機関の巨額損失に加え、米政府系住宅金融機関の経営不安まで出てきて、金融不安が再び広がりを見せ、金融株が大きく売られていた際に、原油先物が上昇基調を続けていた。米金融株と原油先物のチャートを見ると綺麗に逆相関となっていた。ヘッジファンドなどが米金融株売り、原油先物買いといったポジションを大きく組んでいたのではないかとの見方があった。そのポジションのアンワインドが7月以降起きたとされる。
原油先物は2008年末には40ドル近辺にまで下落しており、ピーク時から三分の一以上に下落した。日本のコアCPIは2008年7月に前年比プラス2.4%と軽く現在の日銀の物価目標を超えていた。それが1年後の2009年7月には前年比マイナス2.2%となり、8月にマイナス2.3%となっていた。原油価格の急落により、前年比で大きく落ち込むことになった。日本と同様のことが2009年6月から10月にかけてユーロ圏でも発生し、そのときに過去最大の物価下落率をユーロのCPIでも記録していたのである。
ちなみに原油先物は2008年2月に40ドル近辺となり、2009年2月には80ドル近くと倍になっているが、2009年2月の日本のコアCPIはマイナス1.2%に止まっている。確かにマイナスのピーク時からはマイナス幅は縮小しているが、原油価格は倍になってもそれほど大きくマイナス幅は減少していない。
現在の日銀は原油価格が下げ止まり、再び上昇すればCPIは物価目標達成も可能としているが、2008年から2009年のあたりの動きからは見てそれはあくまで期待に過ぎない。
今回の原油先物の下落は、ヘッジファンドなどの仕掛け的な動きも入っていた可能性はあるが、2008年のときのような仕掛け的な動きとはまた異なる。サウジアラビアなどがシェールに対抗して値を上げないような政策をとっているためとされる。ヘッジファンドが仕掛けていれば、そのアンワインドも起きるという期待もあろうが、現在の原油価格はそうではなく、どの程度の価格低下に耐えられるかを試しているような状況にある。その急激な反動はそれほど期待しにくいのではなかろうか。
そうなると一時の相場の反動による影響を受けていた2008年から2009年にかけての状況と現在は異なる。そしてCPIそのものも2008年当時は日本のCPIのほうがより影響を受けていたが、前年比で見る限り今回はユーロ圏のほうが影響力が大きいように思われる。日本についてはアベノミクスによる円安により、物価がある程度支えられていた面もあったのかもしれない。このあたり、ユーロ圏と比較した分析も必要かもしれない。