被告の主張をコピペしたような原告敗訴に係る判決書(はんけつがき)の正本を熟読後、平成26年11月17日福岡高裁へ控訴状を提出。平成26年12月24日下記の控訴理由書を福岡高裁へ提出した。
平成26年(ネ)第928号 国家賠償請求事件
控訴人 (原告) 松岡 莞
被控訴人(被告) 国
控訴理由書
平成26年12月24日
福岡高等裁判所第3民事部ホ係 御中
控訴人 松岡 莞
上記当事者間の頭書事件につき、控訴人は、以下のとおり控訴理由を述べる。
第1 本件訴訟の概要
本件は、被控訴人が 被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(以下「被用者年金一元化法」という。)により、税負担の軽減のために恩給期間に係る共済年金受給額を減額し、元地方公務員である控訴人が給付を受けることのできる共済年金を減額した。 控訴人は、被用者年金一元化法のうち、恩給期間を追加費用対象期間として共済年金を減額する部分(以下「本件減額立法」という。)は、憲法14条1項、29条1項に違反し、国家賠償法上違法であると主張して、同法1条1項に基づく損害賠償金として1年間の共済年金減額分に当たる金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年1月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを、被控訴人に求めた事案である。
第2 原判決が取り消されるべきであること
1 本件減額立法が財産権の侵害を禁じた憲法29条1項に違反すること
(1)最高裁判所判決
「法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、これをもって違憲の立法ということはできないのであって、当該財産権の変更が公共の福祉に適合するようにされたものであるがどうかは、いったん定められた法律に基づく財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって、判断すべきである。」と判示している(最高裁昭和48年(行ツ)第24号同53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁参照)。
(2)原判決 第3 当裁判所の判断1(2)
「恩給公務員期間を有する公務員は、恩給公務員期間を有しない公務員よりも、比較的少ない本人負担によって、同一額の共済年金を受給することのできる立場にあるといえる。そうすると、上記年金受給権は、年金制度の対象となる被用者全体の公平という公共の福祉を実現するために変更されてもやむを得ない権利であるといえる。」と判示している。
(3)原判決 第3 当裁判所の判断1(3)
「財産権を変更する程度について検討するに、恩給公務員期間における本人負担と共済年金制度加入期間における本人負担には、俸給の2.4パーセントの差があるので、恩給公務員期間に対応する部分の給付を27パーセント減額することには合理的な理由がある。」と判示している。
更に、「受給年金額の減額幅の上限は、控除前退職年金額の10パーセントに相当する金額にとどめられるなど一定の配慮措置がとられておる。そして、本件減額立法と同様に年金受給権者の受給年金額が削減された例として、農業者年金制度の減額例に照らしても合理的な範囲にとどまるものである。」と判示している。
(4)原判決 第3 当裁判所の判断1(4)
「本件減額立法は、我が国が直面する少子高齢化の進展を背景に、追加費用削減を通じて、被保険者間の公平を実現し、ひいては、公的年金全体に対する国民の信頼を高め、なおかつ、国民の税負担を削減しようとするものであるから、保護される公益は重要である。」と判示している。
(5)原判決には事実の認定に誤りがある
ア 恩給期間における公務員の給与が安月給の見本とされていたのは周知の事実であり、恩給期間における公務員が、退職後は国家補償の性格を有する年金が貰えるという安心を心の支えとして薄給で我慢していたのも周知の事実である。更に、薄給であるにもかかわらず年次休暇も返上して職務に精励していたのも周知の事実である。給与の2パーセントが恩給納金とされていたのは、格安の給与からの出費としては妥当な措置であった。人事院の給与勧告で公務員の給与が民間企業の平均的な給与にようやく近づいたのは昭和45年以降であり、恩給期間における給与の2パーセントは共済組合発足後の給与の4.4パーセントに匹敵するものといえる。
なお、恩給制度と共済組合制度は基本的にはどちらも公務員を対象にした年金制度であることから、恩給制度を引き継いだ共済年金を決定する際に、上述の事情を踏まえて、本人の負担料が恩給納金では給与の2パーセントであったのが共済年金では給与の4.4パーセントに変わったことも考慮したうえで、恩給期間のある公務員に不利益を生じないように、恩給期間と共済組合期間は原則として通算することとされたのである。
よって、上記(2)記載の原判決には事実の認定に誤りがあり、共済年金受給権は、共済年金制度の対象となる被用者全体の公平という公共の福祉を実現するために変更されてもやむを得ない権利であるとはいえない。
イ 同じく、上記(3)前段記載の原判決には事実の認定に誤りがあり、恩給公務員期間に対応する部分の給付を27パーセント減額することには合理的な理由がない。
ウ 次に、上記(3)後段記載の原判決は、農業者年金制度を挙げているが、農業者年金制度は相互扶助の精神に基づき保険料、積立金、税金を保険数理の原則によって運用する年金制度であり、国家補償の性格を有する年金制度である恩給とは基本的な性格を異にするので、参照すべき例示としては不適であり、原判決には事実の認定に誤りがある。
エ 更に、上記(4)記載の原判決は、少子高齢化の進展を背景に、被保険者間の公平を実現し、ひいては、公的年金全体に対する国民の信頼を高め、なおかつ、国民の税負担を削減しようとするものであるから、追加費用削減を通じて保護される公益は重要であるとしているが、追加費用の支出は、共済年金制度発足前に決まっていた雇用主(国・地方公共団体)責任による恩給支払い義務の履行であり、年金格差とは別次元のものである。少子高齢化対策は、削減額が先細りすることが確実な、追加費用削減のような皮相的な対策で解決できる問題ではない。出生率が回復したフランスやスウェーデンなど海外の事情も参考にした抜本的な対策が必要不可欠である。日本では少子高齢化対策として、政府が出生回復を目指す施策を推進する一方、少子高齢化社会に対応した社会保障制度の改正と経済政策の研究に取り組んでいるのが現状である。然して、長生きは悪だと言わんばかりの追加費用削減は、現在内閣府が推進する共生社会政策の一環である高齢社会対策(老後の安心担保)に逆行するものである。
なお、国民の税負担を削減するためには、米軍おもいやり予算の減額や、応能負担の原則に従って大企業や富裕層への適切な課税を実行すること等で対処すべきであり、原判決には事実の認定に誤りがある。
2 本件減額立法が法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反すること
(1)最高裁判所判決
「憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的な取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきである。」と判示している(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁平成24年(ク)第984号、第985号同25年9月4日大法廷判決・民集67巻6号1320頁等参照)。
(2)原判決 第3 当裁判所の判断2(2)
「軍人恩給は、対象者の生活保障という性格を有するのみならず、軍人という特殊かつ危険な勤務に従事し、国家のために命を賭して戦った者に対する国家補償としての側面も有するのであって、他の恩給とは異なる特殊な恩給であるといえるので、軍人恩給について、特別に減額の対象としないこととする取扱いには合理的な理由があり、軍人恩給制度と他の恩給制度又はこれが移行した共済年金制度との取扱いに差異を設けることについては、事柄の性質に即応した合理的な根拠がある。」と判示している。
(3)原判決には事実の認定に誤りがある
近代戦は武器の長足の進歩により、東京など66都市に対する無差別大空襲、広島・長崎への原爆投下などに見られるように、戦場と銃後の区別を無くしてしまった。太平洋戦争における日本人の戦没者数は、軍人230万人・民間人80万人と言われている。「進め一億火の玉だ」の標語に見られるように、日本国民全員が総力戦である近代戦の一翼を担うべきだとされ、一億総武装の閣議決定に基づき婦女子の竹槍訓練も実施が強化された。以上は特攻隊を血判して志願した経験を持ち、太平洋戦争の実相を体得した控訴人の証言である。
なお、軍人恩給受給者の中には戦地へ行くことなく内地勤務で終始した軍人も含まれている。因みに、軍人恩給の受給者の約80パーセントは遺族が受給しているのが現状である。よって、上記(2)記載の原判決には事実の認定に誤りがあり、軍国主義ではなく平和主義を国是とする戦後において、軍人恩給は減額することなく、その他の恩給だけを特別に減額の対象とする取扱いには合理的な理由がなく、軍人恩給とその他の恩給との取扱いに差異を設けることについては、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであるとはいい難い。
第3 結語
1 軍人恩給が未だに減額されることなく支給されているのは、恩給制度が富国強兵の国策に沿って創設されたという歴史的な背景に加えて、恩給制度は国家補償の性格を有する年金制度であることを考慮すれば、条理上当然の帰結である(甲第4号証)。よって、軍人恩給と同格であるその他の恩給もまた減額されることなく支給されるべきである。然して、そもそも本件減額立法は、軍人恩給はそのままで減額することなく支給を継続し、その他の恩給だけを高率減額するものであり、思考力の衰えた恩給期間のある高齢退職公務員を標的にした場当たり的な発想と言わざるを得ない。平和主義を国是とする戦後においては、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくもので ないことは明白である。立法裁量権の逸脱・濫用であり、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するものである。
2 追加費用の支出は、共済年金制度発足前に決まっていた雇用主(国・地方公共団体)責任による恩給支払い義務の履行である。共済年金制度発足後50年以上も経過した後に、恩給期間における公務 員の給与が安月給の見本とされていた当時の時代背景を全く考慮することなく、唐突に恩給期間のある高齢退職公務員の共済年金を高率減額することは信義誠実の原則に反し、条理に悖る暴挙である。
なお、公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)は「国民年金等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律(平成24年法律第99号)」の施行により、本来水準より2.5パーセント高い特例水準の年金額を本来水準の年金額に戻すための減額が、1・1・0.5パーセントと3回に分けて実施されている。但し平成26年4月の2回目の減額は物価が上昇したので0.7パーセントが減額された。この「特例分」の解消後には「マクロ経済スライド」の発動が検討されており、高齢者は老後の生活に不安を募らせているのが現状である。この状況下において本件減額立法は、更に恩給期間のある高齢退職公務員だけを対象に、物価の上昇には無関係に終生にわたり共済年金の高率減額(控訴人の場合は9.82パーセント減額)を実施するものである。
ここに、恩給制度は公務員の老後の経済的な安定性と予測可能性を厚く保護する国家補償の性格を有する年金制度であるのに対して、共済年金制度は相互扶助の精神に基づき保険料、積立金、税金を保険数理の原則によって運営する社会保険方式の年金制度であり、基本的な性格を異にする。ところが、本件減額立法は、恩給制度とは異質で相容れない保険数理の原則により、恩給期間の長い高齢退職公務員の共済年金の額を一方的に大幅に減額して老後の生活設計を狂わせ生活を脅かすものである。然して、立法者が通常の常識人であれば、保険数理に基づく計算の結果あまりにも高率な、共済年金27%減額の数値が出たときに、社会通念上「これはおかしい、恩給に保険数理の原則は適用できない」と、国家補償方式の恩給制度と社会保険方式の共済年金制度との違いに気付くはずである。しかも恩給期間が長いほど、つまり、年齢がより高齢になるに従い減額率が逓増するが如き、恰も長生きは悪だと言わんばかりの不条理な本件減額立法は、財産権に対する合理的な制約として容認されないことは明白である。立法裁量権の逸脱・濫用であり、財産権の侵害を禁じた憲法29条1項に違反するものである。
3 控訴人の主張は「訴状・準備書面(1)・準備書面(2)・控訴理由書」に記載のとおりであり、本件減額立法(被用者年金一元化法のうち、恩給期間を追加費用対象期間として共済年金を削減する部分。)の違憲無効は明白であるから、本件減額立法の速やかな廃止が希求される所以である。
(以上)
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