森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 総選挙に争点はある
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週刊実話 2014年12月18日 特大号
総選挙が盛り上がらない。争点がはっきりしないからだという。確かに意見が真二つに割れていた消費税再増税の凍結も、結局すべての党が凍結容認で足並みを揃えてしまったから、争点にならなくなった。
ただ、私は今回の選挙には明確でわかりやすい争点があると思う。それは、対米服従を進めるのか否かということだ。
安倍政権は、対米服従まっしぐらだ。まず、米軍普天間基地の辺野古への移転問題だ。沖縄県知事選挙では、辺野古への移転反対を掲げた翁長氏が大勝した。沖縄県民は、辺野古にノーを突きつけたのだ。ところが政府は、稲嶺前知事が辺野古沖の埋め立てを承認したことをタテに、辺野古の米軍基地建設を強引に推し進めようとしている。
普天間は、米軍海兵隊の基地だ。海兵隊は敵地を占領するための先遣部隊だから、海兵隊がいたからといって日本の安全が高まるわけではない。また、普天間基地を日本に返還したとしても、海兵隊をグアムに移転させたり他の基地に分散させれば、新しい基地を作る必要はない。それでは、なぜ辺野古に新しい基地を作るのかといえば、普天間返還のお礼に、米軍に巨大な最新鋭基地を日本がプレゼントするということなのだ。
集団的自衛権の行使も同じだ。日本が行使を認めても、日本にメリットは何もない。自衛隊員がアメリカが引き起こす戦争に巻き込まれるだけだ。集団的自衛権の行使は、世界から日本が戦争の片棒を担ぐ国だとみられることを意味するから、日本の安全保障にとって、よりリスクが高くなるのだ。それでも、集団的自衛権の行使に踏み切らないといけないのは、アメリカという親分に忠誠を誓っておいたほうが、何かと問題が起こらないと政府が判断しているからだろう。
交渉の大詰めを迎えているTPPも構造は同じだ。自民党は前回の総選挙では、「聖域なき関税撤廃なら、TPP交渉から離脱する」として、コメ、ムギ、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の5品目には、指一本触れさせないと見得を切った。ところが、いまや本丸のコメさえ完全には守りきれない状況になっている。
日本の農業生産は、TPP参加によって半減するだろう。当然、食料自給率は10%台に転落する。それだけではない。貿易収支以外でも、日本はあらゆる場面で米国に制度を合わせる必要がでてくる。残業代を支払わずにいくらでも残業をさせることができるようになる「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を安倍内閣が進めているのも、米国で行われているのだから、日本もそれに合わせろという米国からの要求が一番大きな要因になっていると思われる。
さらに、安倍政権が原発再稼働を進めるのも、すでに日本の重電メーカーがアメリカの原子力産業の一翼を担っていることが大きい。アメリカのお許しがなければ、脱原発もできないのが日本なのだ。
こうした対米全面服従を続けていけば、とりあえず大きな混乱は生じない。一方、アメリカに逆らったら何をされるかわからない。
だから、今回の選挙で争うべきことは、事なかれ主義の対米服従を続けるのか、それとも独立国として、堂々と米国にモノを言うのかという問題なのだ。