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2014年11月25日
古村治彦です。
今回は、チャック・ヘーゲル国防長官の辞任についての論稿をご紹介します。日本時間の2014年11月24日夜にヘーゲル辞任のニュースが出ました。ニューヨーク・タイムズ紙などを読むと、「オバマ大統領から圧力をかけられた末の辞任」であるとあります。これはつまり「更迭」ということになります。
以下の論稿は、ヘーゲルの辞任についてホワイトハウスとヘーゲルの関係悪化があったことを原因として挙げています。
私は、今回のヘーゲルの辞任劇に関しては、ヒラリー派の巻き返しの結果であると考えています。拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)でも書きましたように、ヒラリー系は人道的介入主義を掲げ、アメリカが世界各地で起きている紛争や危機にどんどん介入することを目指しています。
現在のオバマ政権の外交・国家安全保障担当ティームには、ヒラリー系からスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官とサマンサ・パワー米国連大使(閣僚級)の2人の女性が入っています。ヘーゲルの次の国防長官の有力候補として女性初の国防長官となるかもしれないミッシェル・フロノイの名前が挙がっていますが(レオン・パネッタ辞任の時にも名前が挙がりました)、彼女はヒラリー系です。
オバマ大統領は現在の脅威や危機(エボラ出血熱やイスラム国など)の対応が不十分であったということで、ヘーゲル国務長官を「更迭した」ということになっています。しかし、実際は、大統領自身が圧力に負けて「更迭させられた」ということであって、ヒラリー派の巻き返しと外交・安全保障分野で主導権を握ったと見るべきです。
こうして見ると、ミッシェル・フロノイが国防長官に就任し、ヒラリー派が力を増すことで、2015年の世界は少しきな臭いことになるのではないかと私は考えています。
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晩秋に災難に遭って政から去る人物について(The Fall Guy)
ヘーゲルを政権から除くことはオバマ政権の国家安全保障担当ティームが患っている病気の治療にはならない。これこそが病気の症状そのものなのだ
デイヴィッド・ロスコフ(David Rothkopf)筆
2014年11月24日
フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌
チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)が国防長官に任命されると同時に彼を取り除くためのナイフが既にようにされていたのだ。しかしながら、最初のうち、彼を切り裂くためのナイフを持っていたのは、彼を国防長官に押し上げた、疑い深いマスコミであった。ワシントンの事情通たちは、ヘーゲルは上院議員として活躍し、ビジネス界と軍隊時代に大きな業績を上げたのだが、国防長官としては仕事ができなかったと述べている。しかし、本日、ヘーゲルはオバマ政権の閣僚の座から追われることが発表された。彼の国防長官としての資質や仕事ぶりに疑念を持っていた人々の多くは、彼が失敗したのだと感じた。
オバマ政権第二期の最初の2年、国家安全保障分野の最前線においては様々な問題が起きた。私を含め多くの人々は、オバマ大統領はブッシュ前大統領が書いた本を読んでそれから教訓を学び、自分のためにうまく働かない政権のメンバーを交替させるべきだと主張してきた。
約2カ月前、政権内部の事情通は、ヘーゲルはスケープゴートにされるかもしれないと言っていた。彼とホワイトハウスとの関係は悪かった。彼は力のある国防長官だとは考えられなかった。オバマ政権のアドヴァイザーを務めたある人物は、ヘーゲルについて、「オバマ政権に最初からいたかのように演じていた」と述べている。国防総省の幹部たちは、イラクとシリアの混乱状況を拡大させているイスラム国に対する大統領とホワイトハウスの国家安全保障担当ティームの首尾一貫しない対応に対して不満を募らせていった。ヘーゲルはこれを大統領とホワイトハウスに伝える役割を果たした。
ヘーゲルを国防長官にしたことは、オバマ大統領と彼の側近のアドヴァイザーたちの判断ミスであると言えるだろう。ヘーゲルは国家安全保障を担当する国防総省の官僚たちをうまく動かすノウハウを持っておらず、オバマ政権第一期に国防長官を務めたロバート・ゲイツ(Robert Gates)とレオン・パネッタ(Leon Panetta)が示したほどの指導力を持っていなかった。ヘーゲルは、大統領が信頼して国防分野を任せることができる側近が少なかったということを示すシンボルであった。オバマ大統領は大統領になる前、ワシントンでは4年間の経験しかなく、そこで知り合った数少ない人物であるヘーゲルを国防長官に任命したのである。彼の数少ないワシントン経験が連邦上院議員であった。ヘーゲルは有名人ではあったが、国防長官に適した人物ではなかった。しかし、ヘーゲルは、オバマ、ジョー・バイデン(Joe Biden)、ジョン・ケリー(John Kerry)といった連邦上院外交委員会時代の同僚たちと仕事をすることを楽しんでいた。
ヘーゲルに問題があったのではない。確かに彼は孤立してきたし、ワシントンDC以外で時間を使ってきた。しかし、オバマ政権は政権の閣僚たちをこれまでの政権に比べ、孤立させてきた。このことを知るためには、『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたマーク・ランドラーの記事を読むだけで良い。この記事は国務長官ジョン・ケリーについてのもので、ケリーはホワイトハウスとのつながりが絶たれており、彼は映画『グラヴィティ』で女優サンドラ・ブロックが演じた、宇宙でロープが切れてしまい漂流することになった宇宙飛行士と似ているというものであった。拙著『国家安全保障の問題』は、現在の諸問題を生み出した機能不全について書いたものである。そして、ホワイトハウスと閣僚の関係の抱える問題についても書いている。これは、パネッタ、ゲイツ、ヴァリ・ナシャール、そしてヒラリー・クリントンがそれぞれの著書の中で指摘していることである。
いや、ヘーゲルの孤立、ヘーゲルとホワイトハウスとの間の緊張関係、アメリカ軍のトップであるヘーゲルが国防長官に就任してから不満を募らせていたこと、中途半端さ、イラクとシリアにおける戦いに関するオバマ政権の対応のまずさが示しているのは、オバマ大統領自身の政権運営もまずさであり、政策決定過程を見てみると、国家安全保障会議のやり方に問題があったと言えるのだ。
二期目を無事に迎えた大統領の多くは選挙担当スタッフたちを政権から退かせ、政権運営により集中するものである。オバマ大統領は、しっかりとした政策を立案できる国家安全保障担当ティームを作るよりも、側近たちで固めて安心感を求めるようになっている。国家安全保障担当大統領補佐官 スーザン・ライス(Susan Rice)は、オバマ大統領の選挙対策ティームにおける国家安全保障政策担当の最高責任者であった。彼女は、現在の大統領首席補佐官であるデニス・マクダナウ(Denis McDonough)と一緒に選挙の当選のために働いた。彼らは、オバマ政権内部において同僚たちと「私たち対彼ら」という環境を生み出している。ヒラリー・クリントン選挙対策ティームにいた人々がそうしたことをしているのである。彼らは選挙対策ティームの戦術をそのまま使い、国際社会におけるアメリカの行動を国内政治の観点から考えるばかりで、これがオバマ政権の国家安全保障担当ティームが犯している間違いの原因を生み出しているのである。ホワイトハウスと国防総省・上院との分裂と対立、昨年のシリア攻撃を行うそぶりだけを見せたこと、国家安全保障局のスキャンダル、ウラジミール・プーティン(Vladimir Putin)ロシア大統領のクリミア侵攻に対する対応のまずさ、イラクの現在の状況といった失敗が起きているのである。
オバマ大統領は国防総省のトップを考慮するにあたり、多くの素晴らしい選択肢を持っている。元国防次官ミッシェル・フロノイ(Michèle Flournoy)は最有力候補である。フロノイはヘーゲルが任命された時にも有力候補であり、それは今でも変わらない。元国防副長官アッシュ・カーター(Ash Carter)、元国防次官、元国防副長官で戦略国際問題研究所(CSIS)所長ジョン・ハムレ(John Hamre)も有力は候補者たちである。
これらの候補者から1人を選び出して国防長官にしても、オバマ政権内部にあるより深刻な諸問題を解決することはできないだろう。率直に言えば、国防長官の職を提示された人は、ホワイトハウスが国防総省のトップになる彼もしくは彼女に対して職務を遂行し、使命を果たすために必要な力を与えてくれるという確信がなければ、提示を受け入れるかどうか苦悩することになるだろう。そして、もっと率直に言うと、任命される人は国家安全保障会議の政策決定過程に変更を加えてくれるように頼むべきだ。そして、ホワイトハウスのスタッフたちに集中し過ぎた権力を分割するように依頼すべきだ。そして、オバマ政権に対して「政府全体で解決する」ことについて話試合をするように求めるべきだ。
繰り返すと、より重大な挑戦と懸念がこの問題について付きまとう。
ここで言う挑戦とは、国家安全保障会議と国家安全保障ティームはオバマ大統領が何を望んでいるかを常に反映しているということである。オバマ大統領が過去2年間に犯した間違いをこれからの2年間で避けるためにはどう変化すればよいのかということを自分に問いかけたくないと考えるなら、閣僚がどれだけ変わっても意味はない。チャック・ヘーゲルが激しい綱引きの後に政権から去ることはそれが示しているように、オバマ政権の抱える諸問題に真剣に向き合うことを避けるジェスチャーなのである。それは空虚さよりも性質の悪いことなのである。ヘーゲルの辞任はオバマ大統領が自身の政権を強化することに抵抗し、アメリカ合衆国の国家安全保障上の利益を有効に追求することに抵抗していることのシンボルなのである。