「日の丸・インフラ輸出」に立ちふさがる中国の最強企業が誕生
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141124-00013882-president-bus_all
プレジデント 11月24日(月)15時15分配信
■欧米勢の大型事業再編の動きが加速!?
事業規模で断トツの世界トップを併走する中国の2大国有鉄道車両メーカー、中国南車集団と中国北車集団が国家主導の形で合併に向け動き出した。先進国、新興国を問わず、両社はこれまで別個に受注活動を展開し、競合するケースも多々あった海外事業について、合併による相乗効果を引き出し、国際競争力強化につなげる狙いだ。鉄道をはじめとしたインフラ輸出を加速する習近平指導部による国家戦略の牽引役に位置づける。
一方で、世界最強集団の誕生は、日本が成長戦略に位置づけたインフラ輸出に大きく立ちはだかる存在になるのは必至だ。加えて、既に火蓋が切られた欧米の国際インフラ企業の大型事業再編に一段と弾みがつく可能性もある。
両社の合併は中国国務院(政府)の指示で最終調整に入ったとされ、香港、上海の証券取引所に株式を上場している事業部門の取引は10月27日に停止された。両社は合併協議を認めているものの、合併の時期や事業形態など詳細は未定で、中国国際金融(CICC)が草案を練っているとみられる。
中国はこの10年間、国内で世界最大の高速鉄道網整備を急ピッチで推し進め、旧鉄道省の事業を受け継いだ両社が急成長する原動力となった。事業規模は直近でそれぞれ年間1兆7000億円近くに達し、世界の鉄道車両・システム市場で「ビッグ3」の地位を不動にしてきた加ボンバルディア、独シーメンス、仏アルストムのそれぞれの鉄道車両事業の2倍と凌駕する。
その中国2強の合併で誕生する巨大メーカーは、2011年の高速鉄道事故をきっかけに本格化した海外市場をターゲットに据えるだけに、ビッグスリー、さらに海外事業を加速する日立製作所や川崎重工業などの日本勢にとって「すぐに影響はない」(中村豊明・日立副社長)とはいえ、脅威の存在以外何物でもない。
■「インフラ輸出」戦略の見直しも
鉄道インフラ輸出を巡っては、日本は政府主導により10月20日、東日本旅客鉄道(JR東日本)や三菱商事、日立など民間約50社が出資する輸出支援機関「海外交通・都市開発事業支援機構」を設立したばかりだ。また、JRグループで組織する国際高速鉄道協会も新幹線輸出に精力的に動き出すなど、官民挙げたオールジャパン体制で鉄道インフラ輸出に乗り出した矢先だけに、中国最強集団の誕生によって「日の丸・インフラ輸出」は出鼻をくじかれかねない。
直近でも、川崎重工など5企業連合が参加した米ボストンの地下鉄車両入札で、中国北車が10月23日、同じく応札したボンバルディアの半値とされる最低価格で競り勝ち、284両、総額5億6700万ドルの受注を勝ち取った。
しかし、中国勢の脅威は低価格にとどまらない。10月24日には中国が主導する形で、日本、米国が最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)の対抗軸として、インドや東南アジア諸国など20カ国が参加するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に道筋を付け、金融面での新興国向けインフラ輸出支援の体制を整える。政府の後ろ盾による中国南車、中国北車の合併は資金調達力の向上が見込まれ、日欧米勢に見劣りする研究開発力や国際競争力の強化につなげれば、先進国市場での事業展開も一段と加速できる。
重電、重機械などインフラ分野をめぐっては、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が、シーメンスと三菱重工業を巻き込んで今夏、アルストムのエネルギー事業買収でつば競り合いを演じるなど大型事業再編の時代に突入しており、鉄道車両分野での中国巨大企業の誕生はさらなる世界のインフラ企業再編呼び水となる可能性もある。同時に、日本企業、さらに日の丸・インフラ輸出にも戦略練り直しを迫りかねない。