マック、客離れ&業績悪化招いた内部要因 本部と現場の意思不通、打開策が軒並み裏目
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141023-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 10月23日(木)6時0分配信
日本マクドナルドホールディングスの業績悪化に歯止めがかからない。同社は10月7日、緊急記者会見を開き、14年12月期の連結決算が売上高は前期比15%減の2210億円、営業損益は94億円の赤字(前期は115億円の黒字)、最終損益は170億円の赤字(前期は51億円の黒字)になるとの見通しを発表した。営業赤字は01年の上場以来初、最終赤字は11年ぶり。証券アナリストは「今期業績は厳しいと予想していたが、まさかここまでひどいとは」と、急遽発表された業績見通しに絶句した。
業績悪化の主因は客離れだ。仕入先だった中国食肉加工会社が使用期限切れ鶏肉を使っていた事件が発覚した7月以降、同社メニューの安全性への不信から客離れが加速し、既存店売上高は8月が前年同月比25%減、9月は同17%減と大きく落ち込んだ。8月の既存店売上高減は7カ月連続、客数減は16カ月連続だった。業績回復の不透明感が一層強まる中、マクドナルド周辺ではサラ・カサノバ社長兼CEOへの風当たりも強まっている。
カサノバ氏は今年3月、前任の原田泳幸氏から社長ポストを引き継ぎ、すでに既存店売上高減が続く逆風の中、女性・家族客向け商品開発や宅配サービス拡充などに取り組んだが、既存店売上高減を止めることができなかった。
カサノバ氏は業績悪化要因について記者会見で、次のように釈明した。
「当社は100円のコーヒー提案や24時間営業などを先駆けた業界のリーダーだった。ただ、就任以来、毎日競合が現れ、当社の競争優位性が低下している。新しい戦略を実行に移そうとした時に使用期限切れ鶏肉問題が起きた。戦略は正しかったが、具体化の絞り方が不十分だった」
だが、この釈明を「認識外れ」と指摘する市場関係者は多く、前出アナリストは「経営戦略うんぬん以前の問題を把握できていないのではないか」と手厳しい。何が同社の惨状をもたらしたのだろうか。
●女性・家族客取り込み策の誤算
昨年暮れ、マクドナルドはメディアを対象に「2014年の新商品説明会」を開催した。説明会では「アメリカンヴィンテージ」と銘打った14年1―3月の大型キャンペーンを紹介。キャンペーンでは6種類の期間限定バーガーを発売すると、そのメニューを披露した。従来も「アメリカンシリーズ」として同様のキャンペーンを張ってきたが、今回は食材自体が訴求ポイントとなった。ビーフとチキンを使ったメニューを3点ずつ取り揃え、「ハンバーガーといえばビーフの固定観念を払拭。ビーフに比べて食感が軽やかなチキンで女性・家族客を呼び戻す」(同社)という戦略メニューだった。
ところがこの戦略が仇となり、前述の7月の鶏肉事件を契機に客離れを決定づける原因になってしまったのだが、昨年暮れから同事件で同社が大揺れするまでの経緯を簡単に振り返ってみたい。
マクドナルドは昨年12月19日、13年12月期連結決算予想の下方修正を発表した。下方修正は同年8月に続く2回目。13年の既存店売上高が11月まで5カ月連続で減少したのが響いた。この時、カサノバ氏は記者会見で、業績悪化は「コンビニなど他業態との競合に加え、当社ハンバーガーが同業他社から研究されたことで優位性が薄らいでいる」のが原因と釈明。今後は「当社にしかできないことを強化する」と述べ、期間限定、朝食、定番の3メニュー拡充方針を示した。
今年2月6日に発表した13年12月期連結決算は、最終利益が2期連続の減益だった。既存店売上高が前期比6.2%減に落ち込むなど販売不振が響いた。カサノバ氏は「客を引き付けるメニュー提供ができなかった」と反省。メニュー開発を「最優先課題にする」と強調し、野菜や鶏肉など健康志向の食材を使った女性・家族客向け新メニュー投入方針を示した。
今年5月9日に発表した14年12月期第1四半期(14年1―3月)連結決算は、前期比減収減益だった。業績V字回復の期待を込めた大型キャンペーン「アメリカンヴィンテージ」も不発に終わり、既存店売上高減は一向に止まる気配がなかった。そんな苦境に追い打ちをかけたのが、7月の鶏肉事件だったのだ。マクドナルドFC関係者が語る。
「女性・家族客は昨年の平均で客数全体の35%を占めていた。このため、今年は新年早々から『女性・家族客数をもっと増やせ』の号令がカサノバ社長から下りた。しかし、鶏肉事件後は子供がマクドナルドに入ろうとすると親が慌てて止めるなど、ピタリと家族連れが来なくなった」
●客数減を招いた内部要因
だが、実はそれ以前から客数減を招く要因がマクドナルド社内に潜んでいた。例えば、同社は昨年7月、単品1000円という超高級バーガーを期間限定発売した。「高い満足感が得られるなら、少々高くても食べたい」のプチ贅沢ニーズ狙いだった。その後も「セットで700円台」の高単価メニューを投入し続けた結果、客単価こそ上がったものの、客数は反比例するように減少し、客離れが進行した。「客の多くは『値段の割にはおいしくない』の反応だった。それが本部には一向に伝わらず、顧客満足度の低いメニュー投入が止まらなかった」と、前出FC関係者は振り返る。
その前の12年には、レジカウンター上のメニュー表を廃止し悪評を集め、すぐに復活させるという混乱もあったが、「注文受付待ちの間に客がカウンター正面のボードメニューから食べたいセットメニューを決めれば、注文時間を短縮でき、客回転率が上がる」というのが、本部の狙いだった。本部は客の大半がセットメニュー注文客だと思い込んでいたためだが、ボードメニューには単品メニューの記載がなく、店頭で客の不満が渦巻いた。
こうして客離れを助長するような事態が次々と生じてしまう要因について、マクドナルドOBは「現場知らずの本部独善主義にある」と指摘する。さらに同社店舗関係者は「カサノバ体制になってからは、本部が何を目指しているのかが現場に伝わってこない。現場は、経営方針について、メディア発表以上の情報を入手できていない」と不満を漏らす。
●本部と現場の「意思不通」
そんな本部と現場の「意思不通」状態が招いたのが、8月に発覚した「料金過剰徴収問題」といえる。マクドナルドが8月18日から鶏肉を使った「マックウィング」と豆腐を使った「豆腐しんじょナゲット」を通常の約半額の120円に値下げしたところ、全3135店の82%に達する2583店が、それより30円高い150円で販売していた問題だ。
マクドナルドは鶏肉事件を受け、売り上げが急減したため、その穴埋め策として上記2品目の値下げを決めた。ところが、値下げ価格は150円と120円の両案が対立し、すぐには決まらなかった。市場調査データをもとに本部で机上の空論を戦わせている間に値下げキャンペーン開始日が迫り、取りあえず両案の価格を本部から全店舗のレジへデータ伝送した。その後、値下げ価格が120円で決着したのはキャンペーン開始3日前の15日だったため、周知が徹底せず、18日になっても大半の店ではレジには150円で登録されていたのだ。
「本部は18日中に120円販売を全店に通知したと言っているが、店側での周知期間は実質2日。これで全国16万人の店員に周知できるわけがない」と、業界関係者は呆れる。
また、あるFC店オーナーは「そもそもチキン系はこちらが勧めても客が買わない『ノーサンキューメニュー』。それを値下げで売ろうとキャンペーン商品にした。値下げの意図が客に見透かされている。在庫処分のつもりかもしれないが、本部の認識不足も甚だしい」と手厳しい。
それだけではない。8月の既存店売上高が前年同月比25%減少になると発表した9月9日の記者会見で、マクドナルドは「客離れが底を打ち、好転の兆しが出ている」との認識を示し、「一体何を見ているのか」と記者や証券アナリストを呆れさせている。
●強まるカサノバ氏への風当たり
カサノバ氏は10月7日の緊急記者会見で「価格、メニュー、店舗の3つに課題がある」と述べ、それぞれの改善策を示した。だが「示したのは方針だけ。これから具体化の叩き台となる市場調査に入り、10月末予定の調査結果を見てから具体策を検討する」(同社関係者)という悠長さ。証券アナリストは「本当にやる気があるのか」と、改善策を疑問視する。
一方、マクドナルドOBは「店先での購買行動無視、店長・店員の士気低下放置、マクロの市場データ重視などは原田前社長時代に醸成された悪弊。これにメスを入れないと、『カサノバ戦略』は今後も空回りし続ける」と断言する。
鶏肉事件への「我々も被害者」といわんばかりの対応を機に、マクドナルド周辺ではカサノバ氏への風当たりが強まっている。同社関係者も「得意のマーケティングで業績V字回復と、意気揚々日本法人へ乗り込んできたカサノバ氏だが、1年間の空回りで最近は着任時の元気がなくなっている」と打ち明ける。今後同社が復活に向け、どのような手を打ち出すのか、注目が集まっている。
田沢良彦/経済ジャーナリスト